"退職と書かれた娘たち" 第3話
夜、千代は珍しく自分の着物を丁寧に畳み直していた。
「何してるの?」
「ちょっと理」
「休みでもないのに?」
「気になっただけ」
フミはく考えなかった。
翌朝。
千代の布団は空だった。
畳まれた布団の横には、普段使っていた櫛も、針箱も、故郷から届いたも残されていた。昨夜理していたはずの着物さえ、棚の奥にきちんと置かれている。
フミは寄宿舎を探した。
堂にもいない。洗濯にもいない。の持ちにも姿はなかった。
嫌な予を抱えたまま舎監へ駆け込むと、トメはいつものように帳面をいていた。
「千代ちゃんはどこですか」
「退職した」
「どこへ?」
「実」
フミはそこで初めて、舎監の言葉を遮った。
「嘘です」
部の空気が変わった。
廊にいた何かの女も、わずこちらを見た。トメはゆっくり顔をげ、細い目でフミを見た。
「何が嘘だ」
「千代ちゃん、昨、実へ帰りたくないって言ってました。結婚も嫌だって」
「おに何が分かる」
「荷物も全部残ってます」
「あとから送る」
「キヨちゃんもハナちゃんもトヨちゃんも、みんな同じじゃないですか」
トメの顔から表が消えた。
フミは自分でも止められなかった。半以胸の奥に溜め込んでいた疑問が、気にからた。
「どうして毎、の次のだけなんですか。どうして誰も挨拶しないんですか。
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どうしてみんな、事な物を置いたままいなくなるんですか」
トメはちがった。
「余計なことを詮索するんじゃない」
い声だった。
「ここで働きたければ、言われた通りに働け。のことに首を突っ込む暇があるなら、自分の糸を切らさないようにしな」
フミは唇を噛んだ。
そのの仕事も、千代のことがかられなかった。
械の音ので何度も昨夜の会話をいした。「逃げたら」と言った自分に、千代は「どこへ」と答えた。
もし、本当に誰かが娘たちを夜に連れしているのだとしたら。
が病気や問題のある女を、表にさずに処分しているのだとしたら。
千代も同じように、どこかへ送られたのではないか。
その夜から、フミはの裏を気にするようになった。
寄宿舎の消灯は午9だったが、夜勤の交代や荷物の搬入があるため、そのものが完全に眠ることはなかった。フミは何か続けて、皆が寝静まったにこっそり起きし、洗濯の窓から裏の様子を見張った。だが荷が入りすることはあっても、目を避けるような怪しいきは見つからなかった。
数、別の所で奇妙なものを目にした。
昼休み、洗濯の裏へ濡れた布を干しにっただった。裏へ続く狭い通で、女の志乃が見らぬ男へさな封筒を渡していた。
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男はの作業着を着ており、封筒を受け取ると周囲を確かめるように振り返り、そのままのへ消えた。
志乃は31歳で、では古株としてられていた。
女たちの作業をまとめるでもあり、糸切れを何度も起こすには容赦なく注した。普段ほとんど笑わず、の娘たちからはで「鬼の志乃さん」と呼ばれることもあった。
フミも、志乃をし怖いとっていた。
しかし、あの封筒を渡していた志乃の顔は、いつもの厳しい表とは違っていた。相に何かを押すように何度もをげ、男がるまでじっと見送っていた。
フミはその景がかられなくなった。
翌から志乃のを気にしていると、いくつか妙なことに気づいた。になると、若い女がずつ志乃のそばへき、誰にも聞かれないように話をしている。寄宿舎でも、志乃が夜遅く誰かの布団のくに座っていることがあった。
そして、消えた娘たちは皆、度は志乃と話していた。
千代もそうだった。
の2、フミが堂から戻ると、千代が裏庭で志乃と向かいっていた。何を話しているのかは聞こえなかったが、千代は泣いていた。
あのは庭の縁談について相談しているのだとった。
だが、もし違っていたら。
から毎だけ消える娘たち。
裏で誰かに封筒を渡す志乃。
フミのに、しい疑いが芽えた。
次の曜、女たちにはに度だけまとまった自由が与えられた。