みかん小説
本棚

"祖父を迎えた家に福が来た" 第9話

匠がまた祖父をからかった。

「やっぱりおじいさん、座敷おじいさんだよ」

祖父が眉を寄せる。

「またそれか」

「おじいさんが来てから、このに良いことばっかり起きるんだから」

「わしは何もしとらん」

「いるだけでいいんだよ」

その言葉に祖父がし黙った。

そして照れたように笑った。

私はその顔を見ながらう。

そう。

きっと最初から、それでよかったのだ。

を持っているからでもない。

3億円を相続したからでもない。

何か役につからでもない。

祖父はただ、祖父だから。

ここにいていい。

それだけのことだった。

「おじいちゃん」

「何じゃ?」

も散歩く?」

「当然じゃ」

祖父は胸を張った。

「まだまだきせんといかんからの」

私は匠と顔を見わせて笑った。

あの

「もうダメじゃ」と俯いていた祖父は、もういない。

今は毎晩、

「じゃあ、またな」

と言って自分の部へ戻っていく。

そして翌朝になれば、当然のように起きてくる。

そんなが、でもく続けばいい。

族というのは、誰かから何を取れるかでつながるものではない。

緒に卓を囲み。

くだらない話をし。

には喧嘩をし。

それでも緒にいたいとえる。

きっと、それだけで分なのだ。

翌朝。

から祖父の元気な声が聞こえた。

「匠! 散歩くぞ!」

「ちょっと待って、まだ6だよ!」

「若いもんが寝坊するな!」

広告

私は布団ので笑った。

隣では匠が、

「やっぱり座敷おじいさんじゃなくて、目覚ましおじいさんだ」

とぼやいている。

「本に聞こえるよ」

「聞こえとるぞ!」

から即座に返事がんできた。

私たちはまた笑った。

は賑やかだ。

それからというもの、祖父にはしい習慣ができた。毎晩寝るになると、居に置いてあるさな卓カレンダーをずつ消しながら、私のお腹の子がまれる予定までの数を数えるようになったのだ。

「あと何じゃった?」

自分で数えたはずなのに、翌になるとまた私へ聞いてくる。

「まだだいぶ先だよ」

「そうか。遅いのう」

「赤ちゃんに急げって言っても無理だからね」

そう答えると、祖父は満そうな顔をしながらも、またカレンダーを眺めている。以の私なら、そんな同じ会話を何度も繰り返す祖父を見て、物忘れがんだのではないかとになっていたかもしれない。

けれど今は違う。

祖父が未来の予定を楽しみにしていることが、ただ嬉しかった。

ある休、散歩から戻ってきた祖父が、さな袋を事そうに抱えていた。

「何買ってきたの?」

私が尋ねると、祖父はし照れながらからさな靴を取りした。

まだ性別も分からないため、い無のものだった。

すぎるって言われるとったんじゃがな」

広告

「自分で買ったの?」

「自分ので買ったぞ」

祖父はし誇らしそうに財布を見せた。

は自分のがいくら入り、何に使われているのかさえらなかった。

今は通帳も財布も自分で持ち、必なものを自分で選んで買う。それだけのことなのに、祖父にとっては取り戻した切な自由なのだとう。

匠がさな靴のひらに乗せた。

「こんなさいまれてくるんだな」

「おは落とすなよ」

「まだ赤ちゃん入ってないから丈夫だよ」

「分かっとるわ」

また3で笑った。

その夜、祖父は買ってきた靴を自分の部の棚へ丁寧にしまった。ひ孫がまれたら最初に渡すのだと言っている。

私はその背を見ながら、ふとった。

兄夫婦のにいた頃の祖父は、のことさえ楽しみにできなかった。

今は何かも先のを待っている。

「そのまで元気でいなくちゃ」と言いながら、毎朝歩いている。

それだけでも、あの祖父のを取ってたことは違っていなかったとえる。

族を切にするということは、特別なことをしてあげることではないのかもしれない。

緒にべる所があること。

自分のおを自分で使えること。

の予定を話せること。

そして何より、「ここにいていい」とえること。

今の祖父には、その全部がある。

そして私たちにも、祖父がいる。

翌朝も、まだ暗いうちから廊に元気な音が響いた。

「匠、起きんか! 今も散歩じゃ!」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: