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"名札を戻せなかった夏" 第7話

と呼ぶ、名など関係なかった。

族にとっては、目のにいる女性が母親だった。

あるから美津子は考えるようになった。

自分はまだ桐美津子なのだろうか。

それとも、もう森なのだろうか。

まれてから10は桐美津子だった。

しかしそれ以の方がくなっていった。

働いたのも。

結婚したのも。

子どもを産み、母親になったのも。

全部「森」という名だった。

方、潟では本当の澄が「桐美津子」として暮らしていた。

伯母ので育てられ、女学んだ。

周囲のは彼女を疑わなかった。

幼い頃に度会っただけの伯母も、戦争を挟んできく成した姪の顔が昔と違っていても議にはわなかった。

も、次第にその活へ溶け込んでいった。

最初は伯母から「美津子」と呼ばれるたびにで謝った。

しかし伯母は優しかった。

族として卓に座らせ、将来のことを配し、には叱った。

にとって、それは母親を失ってから初めて得た「」だった。

本当のことを言えば、そのを失うかもしれない。

そううと、ますます言えなくなった。

やがて澄も結婚した。

へ嫁ぎ、母親になった。

夫も婚々も、彼女を「桐美津子」として受け入れた。

しい名字を名乗るようになっても、過に桐美津子としてきてきた事実は消えなかった。

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折、子どもの寝顔を見ながら、澄野の寺をした。

本当の美津子はどうしているのだろう。

自分の名きているあの子は、幸せなのだろうか。

こうとったことはあった。

何度もあった。

けれど、何をけばいいのか分からなかった。

「美津ちゃん、元気ですか」

そういた瞬、21来事が全て蘇る。

を返した方がいいのか。

今さらどうやって返すのか。

伯母に本当のことを言うのか。

夫には。

子どもには。

考えれば考えるほど、けなくなった。

美津子も同じだった。

潟でどんな活をしているのか、した。

あの、伯母に抱きしめられて泣いていた澄

自分は族を譲ったつもりだった。

なくとも最初はそう考えていた。

けれどが経つほど、それほど単純な話ではないと分かってきた。

美津子自も、澄の名に守られていた。

誰かに「桐さんのご両親はどうなったの」と聞かれずに済んだ。

京の焼け跡へ戻らずに済んだ。

自分の過からしだけれて、しい活を始めることができた。

自分だけが犠牲になったわけではない。

だけが得をしたわけでもない。

2とも、あの名札の交換によってを変えられ、同に救われてもいた。

それから21

40

2が再び同じ所へ引き戻されるきっかけになったのは、1枚の古い写真だった。

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40

京にあった2の母で、創を記する事がかれることになった。

戦争によって失われた学資料もく、関係者は卒業や元教職員へ呼びかけ、古い写真や記録を集めていた。

そのに、昭19に撮された1枚の写真があった。

学童疎へ向かう子どもたちを、に写したものだった。

黒写真のには、勢の児童が並んでいた。

緊張した顔。

無理に笑っている顔。

子をかぶった子。

荷物を持った子。

そのに、肩を並べてつ2女がいた。

美津子。

2を受け持っていた老女教師も、その写真を見る会があった。

教師はすでに現れてが経っていた。

それでも写真のにいる子どもたちの顔を眺めていると、しずつ記憶が戻ってきた。

「ああ、この子は……」

指をかしながら、1ずつ顔を追った。

そして2女のところでが止まった。

教師は写真をづけた。

裏側には、当誰かがいた名が残っていた。

並び順にわせるように、児童の名が記されている。

教師はもう度表へ返した。

2の顔を見比べた。

忘れていた記憶が、ゆっくり蘇ってきた。

美津子はどちらだったか。

はどちらだったか。

先で毎接していた。

事をし、畑仕事をし、席を取った。

2はいつもくにいた。

そして終戦

美津子は潟の伯母に引き取られた。

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