みかん小説
本棚

"清掃員が書いた設計図" 第1話

「図面のせいにするな。おらみたいな請けの町だから、こんな良品しか作れないんだよ」

古びたに、男のたい声が響いた。

壁際には何も使い込まれた旋盤やフライス盤が並び、には落としきれない油染みが残っている。その央で、68歳の夫は、々とげていた。

向かいにっているのは、元請け企業からやって来た設計部の岡部だった。

鏡の奥から、夫や従業員たちを見ろしている。

良率100%。契約違反です」

岡部は類を作業台に叩きつけた。

「違約は2000万円。払えないなら、さっさと廃業の準備でもしてください」

に残っていた5の従業員は、誰もけなかった。

2000万円。

このさな町にとって、それは事実刑宣告だった。

夫は唇を噛んだ。

「岡部部、私どもも設計図面通りに何度も――」

「設計のせいにするつもりですか?」

岡部の声がさらにたくなる。

「うちの研究所には、や京た博士が20いる。そのたちが計算した設計図を、こんな町が疑うんですか?」

夫は何も言えなくなった。

40、父から受け継いだを守ってきた。

覚だけで100分の1ミリの違いを見抜き、械の音を聞けば異常に気づく。そんな職としての誇りが、学歴と企業という言葉ので押し潰されていくようだった。

広告

その景を、の隅からじっと見ている女がいた。

21歳。

佐藤ゆい。

の作業着のに清掃用のエプロンをつけ、には雑巾を握っていた。

彼女はこの械を操作する技術者ではない。

雇われているのは清掃員としてだった。

「清掃員まで雇う余裕があるんですね」

岡部がゆいを見てで笑った。

「その件費を節約していれば、良品をもう何個か作れたんじゃないですか?」

ゆいの指先に力が入った。

いつもなら、

「すみません」

そう言ってげていた。

このへ来てから、何度その言葉をにしたか分からない。

だが、そのは違った。

ゆいは雑巾を静かに作業台へ置いた。

そして歩、た。

「設計が違っています」

の空気が止まった。

岡部が眉をひそめる。

「……何?」

「部品が割れた原因は、このの加技術ではありません」

ゆいは岡部をまっすぐ見た。

「そちらの研究所が作った設計図面の応力計算に、致命な誤りがあります」

数秒の沈黙。

次の瞬、岡部の部たちが吹きした。

「おいおい」

卒の清掃員が何言ってるんだ?」

岡部も呆れたように笑った。

「君、自分が何を言っているか分かってる?」

ゆいは答えなかった。

壁際に置かれていた古いホワイトボードへ歩いていく。

マーカーをに取る。

そして、ゆっくりと振り返った。

「分かっています」

広告

声は静かだった。

「だから、ここで証します」

その瞬まで。

そこにいる誰としてらなかった。

いつも俯き、「はい」「すみません」としか言わなかった卒の清掃員が、6たった学部以識をにつけていたことを。

そして、この女がく数式によって、企業の研究所が隠しようのない失敗を突きつけられることになるとは――。

話は、その1かに遡る。

京の隅田川沿いには、昔ながらの町が点する角がある。

朝6になると、まだ暗いのあちこちから旋盤のモーター音が響き始め、鉄と切削油の匂いがたい空気に混じった。

かつては「本の製造業を支える町」と呼ばれた所だった。

しかし代は変わった。

産への移

企業による発注先の集約。

継者

通りを歩けば、シャッターをろしたままのが目つ。

そので、今も朝くからかりがついているさながあった。

夫が父から引き継いだ精密部品だった。

最盛期には25の従業員がいた。

今は5

械も古い。

働くを取った。

それでも夫は毎朝5過ぎにはへ入り、誰より先にを掃いていた。

「社がそんなことしなくても」

何度言われてもやめなかった。

父もそうしていたからだ。

誰にも見えないところをきれいにしてから械をかす。

それが夫にとって、このを守るということだった。

ある朝。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: