"団地に残された17通" 第9話
説会で写真が映された。
窓の向こうに赤い着の肩がある。顔も元も見えない、鮮な写真だった。
「これだけでは、私だと証できないでしょう」
森は言った。
その言葉で、集会所の空気が変わった。
自分ではないとは言わなかった。
証できないと言った。
美が席から尋ねた。
「森さん。証拠のさではなく、実際に入ったかどうかを答えてください」
森は美を睨んだ。
「あなたまで私を責めるのか」
「責めるかどうかは、答えを聞いてから決めます」
い沈黙が続いた。
森の妻がちがり、集会所をていった。扉が閉まる音が響いても、森は振り返らなかった。
やがて、机のへ両を置いた。
「あの、確かに管理へ入った」
声はさかった。
民から号は起きなかった。
誰かが息を呑み、別のが子を引いた。方にいた男性は何も言わず、途で帰った。
森は、黒田の正を示す会計資料を確認するため管理へ入った。寒かったため、佐伯のストーブをコンセントへ差し込んだ。
芳が来て、翌朝の会で資料を示すと話した。
森は黒田を探すため集会所へ向かった。ストーブを切ったつもりだったが、コンセントを抜いた記憶はない。
災が起きると、佐伯の器具からしたと聞いた。
「言わなければならないとった。でも、最初のに言えなかった。
広告
芳さんがくなり、佐伯さんが辞めたあとでは、もう言えなかった」
森は謝罪の言葉をにしなかった。
「怖かった」と繰り返した。
佐伯は最まで森を見ていたが、づかなかった。
「私は、あなたを許しません」
佐伯が言った。
「でも、今の言葉は記録してください」
消防担当者が頷いた。
説会のあと、森の辞任を求める声ががった。自治会役員会は会職の解任を決めた。
団からていくよう求める民もいた。
方で、15自治会へ尽くしたことまで否定すべきではないと言うもいた。
見は最までつにならなかった。
災の刑事責任は追及されなかった。
いが経過し、物証拠も失われている。森の為と芳のとの法な因果関係を、現の資料だけで改めて証することも困難だった。
消防の原調査も撤回されなかった。
代わりに補充説が添付された。
《源は気ストーブ周辺である能性がいが、当該器具を最に使用した物について、原調査に分な確認がわれていなかった》
それが、15に得られた公な結論だった。
完全な真相ではない。
森がストーブを使ったことは認めたが、源を切り忘れたのか、延コードに別の問題があったのかまでは分からない。
黒田による自治会費の流用についても、民事・刑事の責任を今から問うことは難しかった。
広告
ただし自治会内部では、90万円の支が適切だったと認定された。過の会計報告を訂正し、今は定額以の事を複数の役員と部担当者が確認することになった。
管理会社は、佐伯への対応に問題があったと認めた。
当、佐伯の主張を分に調べず、器具の所者という理由だけで責任を集させた。契約解除の続きにも備があり、本へ正式な謝罪と解を提示した。
佐伯は額について弁護士を通して交渉した。
団へ戻るよう求める声もあったが、断った。
「私は辺の町で活を作りました。ここへ戻ることが名誉回復だとはいません」
説会のあと、佐伯は志津へそう話した。
「森さんと、もう度話しますか」
「今は話しません」
「いつかは?」
「分かりません。話さないまま終わるかもしれません」
佐伯は、許すことを物語の結末にしなかった。
森の妻は、2かに団をた。
娘ののくへ移ったと聞いた。森は101号へ残ったが、民のには挨拶を返さないもいた。
災のことを蒸し返した志津を責める民もいた。
「昔の話を掘り返したせいで、団の評判が悪くなった」
「佐伯さんも今は困っていなかったのに、なぜ静かにしておけなかったのか」
志津が調べたわけではないと説しても、納得しないはいた。
17通のについても、すべてがきれいに持ち主へ返ったわけではなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
面接官の誤算
夢だった大手企業の最終面接。 24歳の小館達郎は、人事の仕事に憧れ、努力を重ねてようやく最終面接までたどり着いた。だが、中央に座っていた人事部長は、彼の学歴や家庭環境を見下し、面接の途中で冷たく言い放つ。 「低学歴の貧乏人は、面接する必要なし。不採用で決まりだな」 母子家庭で育ち、必死に支えてくれた母への思いまで踏みにじられた達郎。悔しさをこらえながらも、彼はその場で言い返さず、静かに会社を後にした。 しかし1か月後、達郎は再び同じ会社へ呼び出される。 案内されたのは、あの日と同じビルの役員会議室。そこには人事部長の佐野、社長、そして達郎のよく知る一人の男が座っていた。 達郎の姿を見た瞬間、佐野の顔色が変わる。 あの日の「不採用」は、ただの終わりではなかった。 一人の応募者を見下した面接官が、会社全体に隠されていた問題を暴き出すきっかけになる――。真実|修羅場1.8萬字5 3 -
完結第10話
清掃員が書いた設計図
倒産寸前の小さな町工場に、1人の若い清掃員がいた。 佐藤ゆい、21歳。学歴は中卒。従業員たちからは名前で呼ばれることもなく、ただ雑用係として扱われていた。 そんなある日、大企業から依頼された精密部品がすべて不良品となり、工場は2000万円の違約金を突きつけられる。誰もが技術不足だと責められ、工場長の竹夫も廃業を覚悟しかけていた。 その時、ずっと黙っていたゆいが静かに口を開く。 「設計が間違っています」 中卒の清掃員が、大企業の研究所の図面に誤りがあると言い出した――。 誰も信じなかったその言葉が、やがて町工場の運命を大きく変えていく。履歴書には書けなかった彼女の本当の力とは。人生逆転|真相1.4萬字5 0 -
完結第18話
四十九日の注文票
夫の四十九日を終えた夜、59歳の円香は、息子夫婦から突然「明日の朝までに店の鍵を渡してほしい」と告げられる。 夫と32年間守ってきた惣菜店《おかず処まどか》。しかし土地と建物は、知らないうちに息子の名義へ移され、すでに再開発のため売却されようとしていた。 悲しみも癒えないまま、住む場所も店も奪われかける円香。さらに夫が管理していた店の預金も、借金返済に使われたと聞かされる。 そんな夜、夫の机の奥から見つかったのは、古い注文票だった。 《弁当120食。毎月第2土曜日。代金は受け取らないこと》 そこに書かれていたのは、円香の知らない女性の名前。 夫はなぜ、妻に黙って無料の弁当を届けていたのか。 なぜ、その女性を「店を失った時に訪ねろ」と書き残したのか。 追い出されたはずの店の裏で、夫が最後まで隠していた過去と、息子夫婦の本当の目的が少しずつ明らかになっていく――。人生逆転|親子関係2.8萬字5 41 -
完結第19話
赤ん坊を背負った応募者
東京・丸の内、大和建設の公開採用面接。 30歳の優人は、1歳の息子を背負い、破れた靴と古い鞄で会場に現れた。 「妻が救急搬送され、子供を預ける場所がありませんでした」 人事部長は彼を追い出そうとする。 その瞬間、鞄から徹夜で描いた設計図が床へ散らばった。 そして偶然通りかかった“鉄の女”と呼ばれる会長・北川文子が、優人の顔を見て凍りつく。 25年前に亡くした夫と、あまりにも似ていたのだ。 さらに翌日の特別面接。 文子は優人の指にある古びた銀の指輪を見て、震える声で尋ねた。 「その指輪……どこで手に入れたの?」 それは25年前、事故現場から消えた“世界に2つしかない指輪”だった――。因果応報|人生逆転2.8萬字5 68 -
完結第13話
判を押さなかった妻
65歳の佳代は、38年間連れ添った夫・修司から突然、離婚届と一枚の写真を差し出される。 写真に写っていたのは、10歳になる男の子。夫が11年前から外で関係を続けていた女性との子どもだった。 「離婚して、残りの人生は好きに生きたい」 そう言いながら修司は、離婚後も佳代に家に残り、食事や洗濯、薬の管理まで続けるよう当然のように求めてくる。 しかし佳代は、すぐには判を押さなかった。 悲しくて離婚できなかったわけではない。夫が隠してきた金の流れ、削られていた義母の施設費、そして“新しい人生”の裏にある都合のいい計画を、すべて明らかにするためだった。 38年間尽くしてきた妻が、最後に守ろうとしたものとは――。人生逆転|夫婦|熟年離婚1.9萬字5 1475 -
完結第10話
「貧乏な主婦は帰れ」と笑った銀行員――直後、支店長が私を見て凍りついた
祖母の遺産整理のため銀行を訪れた美咲は、質素な服装を理由に「底辺の主婦」と見下され、亡き祖母の通帳まで床へ投げ捨てられる。 だが彼女の本当の正体は、世界的巨大ファンドの資金を動かす天才システム開発者だった。 静かにスマホを操作した瞬間、5秒ごとに10億円が銀行から流出し始め――。ミステリー|真実1.5萬字5 719 -
完結第13話
消された母の名前
父の三回忌を終えた夜、53歳の里美は、認知症の兆しがある母・清子から、突然知らない名前で呼ばれる。 「直子、今度こそ逃げないで」 直子とは誰なのか。なぜ母は、娘である自分を妹の名で呼んだのか。 不審に思った里美が戸籍や父の遺した書類を調べ始めると、自分の出生届に残された不自然な訂正、20年以上続いていた謎の送金、そして施設で暮らす一人の女性の存在が浮かび上がる。 母が53年間守り続けたものは、愛だったのか、嘘だったのか。 隠された12通の手紙と、海辺の古い写真が、里美の知らなかった「本当の家族」を少しずつ明らかにしていく――。人生逆転|第二の人生|親子関係2.0萬字5 157 -
完結第13話
「田舎者」と見下した婚約者を実家へ招いたら、態度が一変した
地味で素朴なまゆは、恋人・光希から突然プロポーズされる。 しかし彼と女社長の母は、結婚相手を「家政婦」として値踏みし、田舎育ちのまゆを見下していた。そんな二人を実家へ招待すると、専属運転手、大豪邸、ワインセラー、ヘリポートまで現れ態度が一変。 だが、本当の審査はここからだった――。人生逆転|夫婦1.9萬字5 423 -
完結第10話
「俺の子じゃない」と言った夫へ、99.999%の鑑定結果を見せた日
命懸けで娘を産んだサツキに、夫・慶一が放ったのは「俺の子じゃない。DNA鑑定しろ」という非情な一言。さらに義母と義妹まで押しかけ、浮気女と決めつけ300万円の慰謝料を要求する。 しかしサツキは静かに一枚のDNA鑑定書を差し出した。 親子関係99.999%――そして次に彼女がテーブルへ並べたのは、夫が決して知られたくなかった“大量の写真”だった。 本当に裏切っていたのは、一体誰なのか――。人生逆転|真実1.6萬字5 661