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"赤ん坊を背負った応募者" 第3話

1枚でも失ってはならないという焦燥が彼を襲う。

の指先は、くなるほど力が入っていた。

で叫んだ。

「頼む。これだけはダメだ」

は図面をかき集める。

「これは妻の治療費なんだ」

うようにを伸ばす。

「これは俺たち族のなんだ」

は散らばった図面を拾い集めた。

彼はそれを胸にく抱きしめた。

の目から、必にこらえていた涙がポロポロとこぼれ落ちた。

涙は、い図面のにポツリポツリと落ちて滴を作った。

その瞬、背のおんぶ紐のいた。

は父親の激しいきに驚いた。

はワッときな声で泣きした。

1歳になったばかりの赤ちゃんの鳴き声が響く。

その鳴き声は、井のロビーを完全に満たした。

細くかいその鳴き声が、の壁に反響する。

席の応募者の何かが、そうに顔をしかめた。

彼らは両を塞いだ。

は膝をついたままである。

彼は片の図面をかき集めた。

彼はもう片方のを背に伸ばした。

はおんぶ紐をトントンと優しく叩いた。

彼は子供をあやそうとした。

しかし、震えるではどちらもまともにできなかった。

はかすれた声で呟いた。

、泣くな」

は背をさすった。

「父さんがここにいるよ」

の声は震えていた。

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「泣くな、息子よ」

から、子供をあやす震える囁きが漏れた。

しげに泣く赤ちゃんの背を叩く

そのは、ゴツゴツとしたであった。

の甲には、セメントや鉄筋を掴んでできたいタコがくできている。

図面1枚1枚には、妻の治療費が懸かっていた。

子供のミルク代が懸かっていた。

そして、この族がきるための唯の希望が込められていた。

は流れる涙をみ込んだ。

彼はくしゃくしゃになった図面の束を胸に固く抱きしめた。

は声もなく嗚咽した。

彼はただ、に膝をついたまま涙を流し続けた。

まさにそのであった。

ロビーの奥くにあるエレベーターがいた。

は決して利用できない、会専用エレベーターである。

その扉が、音もなくに滑らかにいた。

から、抑制の効いた靴音が聞こえてきた。

靴音は、に静かに響いた。

黒いスーツの随員4を歩いている。

彼らを従えた1の女性が、ゆっくりと歩みてきた。

川文子であった。

建設の会である。

60歳という齢をじさせないほど、背筋が真っ直ぐに伸びている。

彼女は鋭い目つきをした女性であった。

彼女の唇は固く結ばれている。

目元は、の彫刻のようにたく質であった。

業界で、文子は伝説物であった。

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滴流さない徹な経営者である。

男たちも震えがる取締役会を仕切っている。

だにせず、数千億円の決定をす鉄の女であった。

建設を本の建築業界の頂点に引きげた物である。

その文子がロビーに姿を現した。

途端に、空の空気が変した。

面接待席に座っていた応募者たちが、反射に席をった。

彼らは腰を90度に折って、くお辞儀をした。

案内デスクの職員は、げたまま両に揃えた。

ロビーをき来していた役職員たちは、壁際にさっと寄った。

そして、速やかにけた。

息をすることさえはばかられるほどの静寂が訪れた。

静寂がロビー全体を完全にみ込んだ。

先ほどまで優を指差してクスクス笑っていた応募者たちがいた。

ひそひそ話をしていた応募者たちもいる。

彼らもを固く結んだ。

そして、緊張した面持ちで線をに落とした。

文子はロビーを横切って歩いた。

は面接の状況をし確認する予定であった。

そして、そのまま部の会議に席するつもりであった。

文子は無表な顔を保っている。

線は真っ直ぐに正面だけを向いていた。

周囲の騒ぎなどには、目もくれないつもりであった。

ロビーの片隅で起きていた騒が、彼女の界の端に入った。

膝をついてに散らばったを拾っている男がいる。

みすぼらしい格好をした男であった。

その背には古いおんぶ紐が結ばれている。

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