"変な家" 第4話
でも何もありませんでした」
「資料は?」
「分かりません。くなる半に、昔の同僚らしい男のが来て、で段ボール箱をに積んでいました。父はそのを横尾さんと呼んでいたといます」
横尾泰はきていた。歳で、佐野の介護付き宅に入っている。
森川がを送ると、数にい返事が届いた。
〈のをけたなら、会社ではなくを見てください〉
面会した横尾は、歩器を使っていたが受け答えは瞭だった。枚の取りを机に広げると、第玄関を指でなぞり、かすかに笑った。
「が考えた。あいつは設備だったから、より構造を信用していた」
「軒ともさんの案なんですか」
「枠だけだ。施会社には、それぞれ別の理由を言った。仕事着が汚れる、趣の材をから入れたい、防犯をくしたい。のに同じものを作る必があるとは、会社にも言っていない」
「何を守っていたんです」
横尾はすぐには答えなかった。
「事故のに作られた記録だ。事故が起きたあとなら会社が作り直せる。だが、起きるの付が入った原本までは、全部消せない」
事故直、榛名では点検記録と稼働ログが本社へ回収された。源蔵、田、横尾は全管理に関わるだったため、事故以の原本や控えの部を元に残していた。
広告
やがては本社に呼ばれた。
そこで提示されたのは、退職加算、宅取得支援、転居費用、子どもの学費補助。それと、事故に関する内部資料を第者へ示しないだった。
「脅されたんですか」
「脅されてはいない」
横尾はそう言ってから、自分でその言葉を嫌うように元を歪めた。
「だから断る自由もあったことになる。田の息子は受験の、の奥さんは術、俺はのローンを抱えていた。会社は何も言わず、俺たちが番欲しい額をした」
「とも署名した」
「ああ。族を守るためだとった。正義を売ったんじゃないって、自分に言い聞かせたよ」
横尾は窓のを見た。
「くらいは、それで眠れた。を取ると駄目だな。守ったはずの子どもはとっくに自分よりくなって、残るのは、何を守ったかより何を黙ったかになる」
会社は関連企業を通じての転居を支援した。互いに事故の話をしないよう求められたが、源蔵は資料を捨てることだけは拒んだ。
は事故の記録をつに分けた。どれか軒が失われても全体像を復元できるよう、な資料は複させた。田が病気になったあと、そのの分は横尾へ移され、現は弁護士が保管しているという。
「つまり、は会社がを監するために作ったわけじゃない」
広告
「逆だ。会社ので買ったを、俺たちが勝に塞にした。黙るためにもらったで、いつか話すためのを守った」
森川は邸で見た空のファイルについて尋ねた。
〈事故対策会議 〉。
横尾の表が変わった。
「それが番だ」
第章 沈黙の値段
。事故の、本社幹部と幹部が榛名に集まり、事故原因と対説について協議した。
横尾によれば、そこで排気設備の異常を公表資料からす方針が話しわれた。濃度警報はセンサー良の能性を優先し、夜勤責任者の順逸脱をに説する。もし設備全体の欠陥を認めれば、同型設備を使う別まで止める必があり、受注にも響するからだという。
「は会議にていたんですか」
「記録係としてな。正式議事録とは別に、自分用のメモを取っていた。誰が何を言ったか、までく男だった」
「そのメモが空のファイルに?」
「入っていたはずだ。がんだあと度探したが、なかった」
「会社が持ちった能性は?」
「ある。でも俺は違うとっている」
「なぜです」
「は、いつか自分たち以のが見つける形にしたがっていた」
横尾はし息をえてから続けた。
「俺たちは自分で告発できなかった。もあったし、何より度を受け取った。
世にれば、会社の正より先に『をもらって黙っていた』として見られる。それは違っていない。
広告
おすすめ作品
-
完結第8話
サービスエリアで消えた三人
大型サービスエリアで、36歳の母親と9歳の息子、6歳の娘が突然姿を消した。残された夫・修一はテレビに出演し続け、「妻と子供たちを見かけた人は連絡してください」と14年間訴え続けた。世間は彼を、家族の帰りを信じて待つ父親として記憶していた。ところが事件から14年後、100キロ近く離れた古い貸倉庫の床下から黒い旅行鞄が発見される。中に入っていたのは、失踪した妻の財布と、息子が旅行当日に履いていた片方のスニーカー。そして、その倉庫の過去を調べると、夫がかつて関係を持っていた女性の名前が浮かび上がる。14年間誰も疑わなかった「3人はサービスエリアで消えた」という前提が、そこから静かに崩れ始める。ミステリー|真相|遺體発見|行方不明1.1萬字5 15 -
完結第11話
1億8400万円の夜逃げ
2016年、8000万円の借金を抱えていた28歳の高橋健人は、ロト1等・1億8400万円を受け取った直後、忽然と姿を消した。 部屋からはパスポートと衣類の一部がなくなり、本人名義でフィリピンへ出国した記録も残っていた。警察も家族も、彼は借金から逃れるため海外へ消えたのだと考えた。 しかし9年後、麻布の再開発工事中、かつて健人が暮らしていたアパートの地下から、コンクリートに埋められた旅行鞄が見つかる。 中にあったのは、ひとりの男性の骨と、黒縁眼鏡。 さらに、当時見過ごされていたノートパソコンから、不審な検索履歴が浮かび上がる。 本当にロト1等に当たったのは誰だったのか。 そして、9年前に海外へ消えたはずの男は、何を隠していたのか。 1枚の宝くじが、親友同士の運命を大きく狂わせていく――。ミステリー|行方不明1.6萬字5 109 -
完結第13話
7年目に開いた薬袋
昭和48年、広島県北部の小さな町で、誰からも慕われていた薬剤師・中村幸子が突然姿を消した。 彼女は「銀行へ行く」と言って薬局を出たまま戻らなかった。手には200万円の入った黒い鞄。けれど銀行には行っておらず、町の誰もその後の姿を見ていなかった。 真面目で優しく、患者一人ひとりに寄り添ってきた幸子。夫の哲夫は涙ながらに妻の帰りを待ち、町の人々も彼女の無事を信じ続けた。 しかし7年後、ある高齢女性の家から見つかった大量の薬が、止まっていた事件を再び動かす。 信頼されていた医師。閉ざされたままの薬局。消えた200万円。 幸子はなぜ、あの日すべてを終わらせようとしていたのか。 町の誰も疑わなかった“優しい人たち”の裏側に、7年間隠され続けた真実が眠っていた――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 266 -
完結第10話
「貧乏な主婦は帰れ」と笑った銀行員――直後、支店長が私を見て凍りついた
祖母の遺産整理のため銀行を訪れた美咲は、質素な服装を理由に「底辺の主婦」と見下され、亡き祖母の通帳まで床へ投げ捨てられる。 だが彼女の本当の正体は、世界的巨大ファンドの資金を動かす天才システム開発者だった。 静かにスマホを操作した瞬間、5秒ごとに10億円が銀行から流出し始め――。ミステリー|真実1.5萬字5 211 -
完結第14話
消えたアナウンサー
6年前、人気キャスターの水野紗季は突然姿を消した。残された車、動かない銀行口座、使われていないパスポート。そして失踪当時、彼女は妊娠32週だった。時が流れたある夜、同僚の高橋真紀のもとに海外から1枚の写真が届く。欧州の人体標本展に展示されていたのは、30代前半、妊娠32週と記された女性の標本。さらに写真の隅には〈MA-214〉という謎の管理番号が写っていた。偶然にしては一致しすぎている。真紀が標本の出所を追い始めると、6年前に紗季が調べていた別の妊婦失踪事件、病院、献体記録、そして消された取材素材が次々につながり始める。ガラスケースの中の女性は、本当に水野紗季なのか――。ミステリー|行方不明|不倫2.1萬字5 64