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"判を押さなかった妻" 第10話

うまく皺を伸ばせず何度もやり直していたが、私はを貸さなかった。

夕方になって帰宅した修司は、かけたよりずっと疲れた顔をしていた。

「千佳に会ってきた」

私は夕用の野菜を切りながら「そう」と答えた。

「お、何か言ったのか?」

「千佳さんに?」

「そうだ」

話で聞かれたこと以、何も話してないわよ」

修司はしばらく私を疑うように見ていた。

「千佳が、し距を置きたいって言いした」

私は包丁を置き、ようやく夫の方を向いた。

「理由は?」

の話ばかりするんだ。を売れるのか、老はいくらあるのか、いつまで働くつもりなのかって。はそんな女じゃなかった」

私はすぐには答えなかった。

11も関係が続き、には子どもまでいる。千佳の気持ちを単純に「目当て」と決めるのは簡単だが、それだけで説できるかどうかは私には分からなかった。

「今まで修司さんが、丈夫だって言い続けたんじゃないの?」

「何が」

もある。貯もある。退職もある。婚すれば3で暮らせるって」

修司は黙った。

「それを信じて10待ってたに、実はは自由に売れません、貯ったより減っています、事も健康管理も元妻にやってもらう予定でしたって言ったら、話が違うとうんじゃない?」

修司の顔が険しくなった。

「おは千佳の方なのか」

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方じゃない。事実を言ってるだけ」

私は鍋に蓋をした。

「あなたは私にも千佳さんにも、それぞれ都のいい話をしてたんじゃない?」

修司は反論しなかった。

、千佳から私へ直接連絡が来た。

話番号をどこでったのかとったが、修司のスマートフォンか、以類に記載されていたのだろう。「度だけ話したい」と言われ、私は迷った末、目のあるホテルラウンジで会うことにした。

千佳は47歳だった。

な女性を像していたが、実際には落ち着いた紺のワンピースを着た普通のだった。私をにするとかなり緊張しており、座ったままげた。

「何を言っても許されないことは分かっています」

私は「許すかどうかの話をするつもりはありません」と答えた。

千佳は修司とった頃、彼から「夫婦関係はもう終わっている」と聞いていたという。別居はしていないものの、妻とはの関係だけで、いずれ婚すると何度も言われていた。悠斗を妊娠したも、修司は「数待ってくれれば必ず緒になる」と約束したらしい。

「信じていたんですか?」

私が尋ねると、千佳は目を伏せた。

「信じたい方を信じていました。奥さんがいるだとっていたんだから、私にも責任があります」

私はその言葉を聞いても、胸のりが消えることはなかった。

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しかし、なくとも修司のように責任をへ押しつける言い方ではなかった。

千佳が最も驚いていたのは、修司の活能力だった。

「薬を奥さんに分けてもらってるなんてりませんでした。料理もできるって言ってましたし、のことは自分で何でもやっているような話でした」

私はわずさく笑った。

「カップ麺は作れるようになりました」

千佳も瞬だけ困ったように笑ったが、すぐ真顔へ戻った。

「悠斗は修司さんを父親として慕っています。だから会わせないつもりはありません。でも、緒に暮らすことについては考え直しています」

私はそこで初めて尋ねた。

がなかったら困るから?」

千佳はし考えてから頷いた。

「それもあります。私はずっと、修司さんが老まで自分で活できるだとっていました。でも実際には違っていた。経済なことだけじゃなくて、私は奥さんが38やってきたことをそのまま引き受ける覚悟なんてありません」

それは率直な言葉だった。

私は千佳を好きになることはないだろう。

それでも、その初めて、修司が作ろうとした「しい」がどれほど都のいい設計だったのかを、私以も理解したのだとった。

帰り際、千佳はもうげた。

「本当に申し訳ありませんでした」

私は謝罪を受け入れるとも、受け入れないとも言わなかった。

ただつだけ伝えた。

「悠斗君には、あなたたちの問題を背負わせないでください」

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