みかん小説
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"0円の注文帳" 第10話

っているように見える気がしたからです》

《結局、また私は黙りました》

直子はわず笑った。

「本当に、そこなのよ」

母は最まで同じだった。

言えばいい。

渡せばいい。

謝ればいい。

ところが考えすぎて、また言えなくなる。

を助けるには驚くほど決断がいのに、自分の族のことになると、急に臆病になる。

《このおを何に使うかは決めません。あなたの学だったから、今さら学けともきません》

《彩ちゃんに渡せともいません。あなたが好きにしてください》

《ただつだけ、これは遺産ではなく、私があなたから勝に借りたを返したものだとっています》

直子は便箋を膝のに置いた。

涙はなかった。

むしろ、妙に静かな気持ちだった。

母がを戻していたからといって、30のことがなくなるわけではない。もし今この通帳を見つけなかったとしても、母が直子のを勝に決めた事実は変わらなかった。

それでも。

母も30忘れていなかった。

そのことだけは分かった。

ずっとのどこかで、

《母は私のなんて、すぐ忘れたのだ》

っていた。

違った。

忘れなかった。

だからといって、正しかったわけでもない。

そのつは同していいのだとった。

が暗くなり始めていた。

直子は通帳を閉じ、ふと学ノートの方をいた。

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そこには母が返済の記録をつけていた。

《平成64 3,000円。今はこれだけ》

《平成89 5,000円。蔵庫修理が痛かった》

《平成1212 10,000円。直子が彩を連れてきた。元気そうだった》

《平成175 5,000円。母のが届いた》

《平成2311 10,000円。今も直子弁当を作った》

の記録のはずなのに。

から。

娘の記録になっていた。

《直子、主任になったらしい》

話では疲れてないと言うけど、声が疲れている》

《彩が学へ入った》

《直子、婚。何も聞けなかった》

話をかけようとったが、やめた》

母はくから。

自分を見ていた。

ではなかった。

づき方も。

謝り方も。

支え方も。

までだった。

直子はノートを閉じた。

その、入のガラス戸を叩く音がした。

「お母さん?」

彩だった。

「どうして来たの?」

「最でしょう。わなかったけど」

彩は仕事帰りらしく、肩にパソコンの入ったバッグを提げていた。航平は仕事で来られなかったらしい。

を見渡しながら、

「本当に何もなくなったね」

と言った。

「うん」

「寂しい?」

直子はし考えた。

「寂しいけど、残したいとはわない」

「変なの」

「変でいいの」

彩は母の隣へ座った。

しばらくで何もない厨を見ていた。

やがて彩がいた。

「お母さん、に話したのことなんだけど」

直子は娘を見る。

「会社、辞めるって話?」

「それもある」

彩の表がいつもと違った。

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「航平と、ちょっと見がわなくなってる」

しい商業棟の共同厨について、彩も田島から話を聞いていた。週末だけのシェアキッチンではなく、商業棟でさな常設舗をしてみないかと声をかけられていたという。

初期費用も通常の舗ほどくない。

所も悪くない。

彩は挑戦したいとっていた。

ところが。

航平は反対した。

「結婚も考えてるし、とも定した仕事を辞めるのは怖いって」

「航平君は会社を辞めるつもりだったの?」

「最初はね。でも今、会社から阪への異の話がてる。条件もかなりいいみたい」

直子は何となく状況を理解した。

航平が悪いわけではない。

彩も悪くない。

緒にを見始めたにはなかった選択肢が、途で現れただけだ。

「それで、彩はどうしたいの?」

直子が聞くと、娘はすぐには答えなかった。

「分からない」

「そう」

「お母さんだったらどうする?」

なら。

直子はすぐ答えただろう。

会社を辞めるな。

結婚を事にしなさい。

商売は甘くない。

28歳を過ぎて定した仕事を捨てるのは危険だ。

言いたい言葉はいくつもあった。

でも。

母のノートが膝のにあった。

直子はそれを度見てから、娘へ線を戻した。

「私は答えない」

彩が驚いた。

「何で?」

「私がどうするかと、あなたがどうするかは違うから」

「でも見くらい……」

見なら言える。私は怖いとうし、会社を辞めない方が全だともう。航平君と別々のになるかもしれないなら、なおさら配」

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