みかん小説
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"「貧乏な主婦は帰れ」と笑った銀行員――直後、支店長が私を見て凍りついた" 第1話

計の針を数ほど巻き戻す。

そのの朝、台所の向きの窓から差し込む陽はどこか頼りなく、暗い部の輪郭をぼんやりと浮かびがらせる程度だった。 古びたステンレスのやかんがくシュンシュンと湯気をげ、丁寧にペーパードリップした淹れたてのコーヒー。そのい陶器のマグカップからる湯気も、え切った朝の空気に触れた途端、儚く溶けて消えていく。

歳を迎えた美咲は、の使用でところどころあせ、細かな貫入の入ったお気に入りのマグカップを両で包み込みながら、静かに息を吐きした。

ダイニングテーブルの央には、冊の預通帳が置かれていた。表の角は擦り切れ、のロゴマークも昔の古いデザインのままだ。名義欄に几帳面な万の文字で記されているのは、半に静かに息を引き取った祖母の名だった。

両親を幼い頃の慮の事故でくした美咲にとって、女つで育てげてくれた祖母は、世界のすべてであり、最の恩だった。慎ましく、決して贅沢を言わず、けれど誰に対しても分け隔てなく温かい笑顔を向けていた祖母。、縁側でお茶をすするも、台所で汁をとるも、祖母は幼い美咲のを優しく撫でながら、いつも同じ言葉をにしていた。

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『美咲、いいかい。おっていうのはね、ただの切れやたい数字じゃないんだよ。誰かが額に汗を流し、には悔し涙を呑んで、切な誰かを守るために積みねたいが形になったものなんだ。だからね、預ける番信頼できる、温かい所に預けなさい』

祖母が何もの歳をかけ、々の費を切り詰め、のほころびを繕い直しながらコツコツと貯めてきたその遺産は、現代の富裕層の基準から見れば、決して目を剥くような巨額の資産ではない。

しかし、そこには祖母がこの世で誠実にきてきた確かな跡と、器用なまでの実直さ、そして孫である美咲へのが余すところなく詰まっていた。

祖母がくなって半々の業務や辺の理がようやく段落し、美咲はこの切な形見の続きを正式に済ませる決を固めた。祖母がにわたって用し、絶な信頼を寄せていた『帝都』のれにある支へと赴くために、彼女は支度をえ、静かに玄関のドアをけたのだった。

の肌寒いの葉を揺らすを抜け、美咲は目の建物へと到着した。

帝都・桜町支。国内数のメガバンクである同でも、屈指の歴史を持つ支つとされ、崗岩で組まれた壁が並みの徹な威圧を放っていた。

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美咲がなガラス張りの自ドアをくぐり抜けると、吹き抜けの井と、鏡のように磨きげられたのフロアが界いっぱいに広がった。内にはが過剰なまでに効かされており、肌寒さを覚えるほどのたい空気が美咲の頬を撫でる。

の昼がりという帯のせいか、広なロビーに般の利用客の姿はまばらだった。しんと静まり返った空には、井の空調が吐きす微かな切り音と、受付番号を発する械の無質な子音だけが規則に響き渡っている。

このの美咲の装いは、どこからどう見てもごく平凡な、目たない主婦そのものだった。何度も袖を通して柔らかくなったベージュのニットカーディガンに、洗濯を繰り返して自然に落ちしたストレートデニム。飾り気のない黒髪は、ろで細いゴムを使ってつに束ねられているだけだ。メイクもく、元には使い込んだ布製のトートバッグを提げている。

ピッと音をてて発券から吐きされた番号札を指先で受け取り、美咲はロビーの央に並ぶ革張りの子に静かに腰をろした。

待つこと数分。正面の窓の奥、すりガラスで仕切られた特別応接ブースのい扉がき、の男がゆったりとした取りで歩みてくるのが見えた。

完璧に糊の利いたスリーピーススーツの胸元で、のネームプレートが鋭利なを放つ。

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