"五輪を見なかったテレビ屋" 第1話
昭391010。京の空は朝からひとつなくれ渡り、らしい乾いたが商の軒先を通り抜けていた。ラジオからは何度も京オリンピック会式の話題が流れ、聞の面にも、国競技や選団の写真がきく載っていた。
戦争が終わって19が過ぎていた。焼け跡のにっていた粗末なバラックは姿を消し、京には次々としいビルが建ち、会式のわずか9には幹線も業していた。
蔵庫、洗濯、テレビ。
しまで庶民にはぜいたく品だったが、しずつ庭のへ入り始めていた。京郊の商にある「藤田器」も、その変化の真んにあった。
先にはさまざまな黒テレビが並び、ガラス越しには扇やラジオ、気釜が所狭しと置かれている。特にこのは京オリンピックをにテレビを買う客が増え、主の藤田信夫はからほとんど休みらしい休みを取っていなかった。
信夫は48歳だった。細で背筋がまっすぐ伸び、数がなく、客に笑いをするような男でもなかった。
それでも仕事は丁寧だった。
「藤田さんに頼めば違いない」
そう言う客はかった。
テレビを売れば、それで終わりではない。自ら荷台に受像を載せ、客のまで運び、根へがってアンテナをてる。
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映像がしでも乱れれば何度も根と茶のを往復し、納得するまで調した。
10に入ってからは、の話が朝から鳴り続けていた。
「会式までに何とかならないですか」
「子どもたちが楽しみにしているんです」
「うちは今までラジオだけだったんだけど、せっかくの京オリンピックだからねえ」
何かも貯めたを封筒に入れ、族そろってテレビを選びに来る客もいた。
信夫は値札を指しながら必な説だけを淡々としたが、無理にい種を勧めることはなかった。予算を聞き、そのにう受像を選び、には「これで分ですよ」とい方を勧めた。
だった息子の浩は、学が休みのになるとを伝っていた。
「父ちゃん、こっちのテレビの方がいんだから、こっちを勧めればいいのに」
客が帰ったでそう言うと、信夫は配線を束ねながら答えた。
「映ればいいに余計なを使わせてどうする」
「商売なんだからさ」
「商売だからだ」
それ以の説はなかった。
浩には父がよく分からなかった。
族に対しても無だった。仕事から戻れば黙って夕をべ、呂へ入り、帳簿をつける。母が話しかければ必な返事はするが、自分から昔のことを語ることはほとんどなかった。
特に戦争の話になると、信夫は決まってを閉ざした。
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「父ちゃんは終戦の、何歳だったんだ?」
学の頃、浩が何気なく尋ねたことがあった。
「12だ」
「京にいたの?」
「ああ」
「空襲は?」
そこで信夫は聞を畳んだ。
「もう昔のことだ」
それきりだった。
1010の朝、信夫はいつもよりくをけた。
会式は午からだったが、午にも修理や配達の約束が入っていた。浩が先を掃いていると、信夫が倉庫からで番きなテレビを運びしてきた。
「それ、売り物だろ?」
浩が尋ねると、信夫はテレビ台の位置を確かめながら答えた。
「今はここへ置く」
「に?」
「ああ」
「何で?」
信夫は商の向こうへ目をやった。
「テレビのないもまだいだろ」
それだけ言ってから、アンテナ線をつないだ。
「会式くらい、緒に見ればいい」
浩はし驚いた。
父がそんなことを言うのは珍しかった。
午の仕事を終える頃には、噂を聞いた所のが「本当にので見せてくれるのか」と確かめに来た。信夫は「子は自分で持ってきてください」とだけ答えた。
昼を過ぎると、商の空気が普段とはらかに違ってきた。
買い物をめに済ませる主婦。仕事に区切りをつけてを閉める職。子どもたちは落ち着かない様子でり回り、あちらこちらの先からテレビの音が聞こえていた。
藤田器のにもが集まり始めた。
所の子どもたちが面に座り、そのろに主婦たちが子を並べた。普段はほとんどからない老まで、さな腰掛けを抱えてやってきた。
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