"帰れなかった15歳" 第13話
佐子が暮らしているのは、くのさな平だった。
のへ着く。
トヨはけなかった。
玄関まで、わずか数メートル。
23かかった距だった。
美津子が呼び鈴を押した。
しばらくして、扉がいた。
38歳の女性がっていた。
髪をろで束ね、淡いのカーディガンを着ている。
顔には齢なりの落ち着きがあった。
けれどの眉のに、さな傷跡が残っていた。
誰も声をさなかった。
女性は美津子を見る。
次に千代子。
そして最にトヨを見た。
表が止まる。
トヨのには、古いの皮の包みがあった。
女性の目が、その包みからかなくなった。
唇がわずかに震える。
「……それ」
声はさかった。
「それ、どうして……」
トヨは歩へた。
「佐子」
女性の肩が震えた。
「佐子なんだろ」
い沈黙。
女性はを押さえた。
何かをいそうとしているようだった。
「私は……」
「いいんだ」
トヨの目から涙が落ちた。
「いさなくてもいい」
さらに歩づく。
「母ちゃんが覚えてるから」
その瞬だった。
女性のから、かすれた声が漏れた。
「……母ちゃん?」
トヨは元を押さえた。
23。
ので何度聞いたか分からない声だった。
15歳の女の声ではない。
それでも違えるはずがなかった。
「そうだよ」
トヨは頷いた。
「母ちゃんだよ」
佐子の目から涙がこぼれた。
「母ちゃん……」
次の瞬、トヨは娘を抱き締めていた。
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68歳の母親と38歳の娘。
23、野駅で途切れたが、ようやくそこへつながった。
佐子は声をげて泣いた。
「ごめんなさい」
「謝るな」
「帰れなくて、ごめんなさい」
「いいんだ」
「何度も……帰りたかった」
「分かってる」
「母ちゃん」
「うん」
「ずっと……待ってた?」
トヨは娘の背を撫でた。
「当たりだろ」
へ入ったも、佐子の記憶はすべて戻ったわけではなかった。
父の顔はいせない。
弟たちの幼い頃の顔も曖昧だった。
故郷のについても、断片な面しか浮かばないという。
しかし母の声。
の朝。
台所の匂い。
そして握り飯。
それだけは、体の奥に残っていた。
トヨはの皮をいた。
3つの握り飯が並ぶ。
佐子がを伸ばす。
1つを持ちげ、ゆっくりへ運んだ。
しばらく噛む。
真んの梅干しへ届いた瞬、佐子の顔が歪んだ。
トヨは配になった。
「どうした?」
佐子は泣きながら笑った。
「しょっぱい」
「梅干しだからね」
佐子は首を振った。
「違う」
もうべる。
「母ちゃんの梅干し、昔からしょっぱすぎる」
トヨのが止まった。
その言葉だけは、事故のに誰からも教えられるはずがない。
佐子が子どもの頃、何度も言っていた言葉だった。
「母ちゃん、塩入れすぎだよ」
そう文句を言いながら、結局いつも全部べた。
トヨは笑った。
泣きながら笑った。
「23も経ったのに、まだ文句言うのかい」
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「だって、本当にしょっぱいんだもの」
部に笑い声が広がった。
千代子はしれたところで、声を殺して泣いていた。
やがて佐子が気づく。
「千代ちゃん?」
千代子の顔ががった。
「覚えてるの?」
佐子はしばらく見つめた。
完全には戻っていない記憶のから、1つずつ拾いげるように眉を寄せる。
「列」
さく言った。
「隣に座った」
千代子の頬を涙が伝った。
「うん」
「袖、掴んだでしょう」
「うん」
「すごくく」
佐子がし笑った。
「痛かった」
千代子は泣きながらをげた。
「ごめんなさい」
すると佐子は言った。
「どうして謝るの」
「私が佐ちゃんを連れていったようなものだから」
佐子は首を振った。
「違うよ」
千代子を見る。
「私がくって決めたんだもの」
23と同じ答えだった。
その、佐子は母と緒に故郷へ戻った。
完全に仕事を辞めるのではなく、しばらく休みを取り、まず自分がまれた町を見にくことにした。
駅へりた、佐子はいホームにっていた。
「ここから乗ったんだよ」
トヨが言った。
佐子は線を見た。
「しだけ、覚えてる」
「何を?」
「母ちゃんがってた」
トヨは驚いた。
佐子は笑った。
「履、脱げそうだった」
「そんなことまで覚えてるのかい」
「転ばなかった?」
「転ぶものか」
2で笑った。
へ着くと、正と信夫の族、所の々が待っていた。
かつて「男と逃げた」と噂した者たちのには、顔をげられないもいた。
トヨは誰も責めなかった。
佐子も何も言わなかった。
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