みかん小説
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"一つの証拠が暴いた8年間の嘘" 第1話

「そちらの方は?」

富士ホールディングスの広々とした応接に、涼やかで凛とした声が響いた。 声をかけたのは、テーブルを挟んで対面に座る女性――瀬美咲。富士ホールディングス営業部の管理担当者であり、業界内で「契約の鬼」と恐れられる社令嬢だった。彼女の鋭い線が、俺の顔を射抜くように捉えていた。

その問いかけに対し、俺の隣に座っていた営業主任の財が、待ち構えていたようにの端を吊りげた。彼はわざとらしく袈裟に両を広げ、で笑いながら答えた。

「ああ、彼は朝倉です。発部の1社員でして、卒なものでした仕事はできません。まあ、運転くらいには使えるかとって連れてきただけですよ」

はそう言って、まるで親しげな同僚を装うかのように、俺の肩をバンバンと音をてて叩いた。その叩くには、あからさまな侮蔑と見しのが込められていた。俺は表切崩さず、静かに正面を見据えたままでいた。

すると、美咲さんは財の言葉を完全に聞き流し、元に線を落とすことなく、静かにを差し伸べてきた。

「社内の方であれば、名刺をいただけますか?」

その言葉に、財の得げな笑顔が瞬で固まった。彼は俺を嘲笑うように横目で睨みつけ、く呟いた。

「フン……の成功で気が緩んだんじゃないか。

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悪い成りがりも、くは続かないってことだ」

俺はその呟きを背で受け止めながら、胸ポケットへと静かにを伸ばした。

――俺の名は、朝倉。今歳になる、IT企業の堅社員だ。

というを迎えるまで、俺が歩んできたは平坦なものではなかった。 俺が勤めているのは、本国内でも屈指の規模と歴史を誇る巨IT企業だ。ガラス張りの巨な本社ビルを見げ、俺が久しぶりに袖を通したスーツの触を確かめながら正面玄関の自ドアをくぐったのは、ほんの数週のことだった。

正面玄関を通り抜けた瞬、肌を撫でた社内の空気は、俺の記憶にあるものよりもずっと無質でえ切っていた。 幾何学模様に磨きげられたも、どこまでも続くい壁も、変わらずたく、張り詰めた沈黙に満ちている。き交う社員たちは皆、無表に通り過ぎていく。

あの、歓送迎会はおろか、送別の言葉すら碌にかけられないまま、事実遷として転勤を命じられた俺が、まさか再びこの本社ビルのを踏むことになるなんて、誰が像しただろうか。

久しぶりに窮屈なスーツを着たと言ったが、それもそのはずだ。俺はつい先まで、れたインドにいた。 インドにある現支社で、丸もの歳を過ごしていたのだ。

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言葉も文化もまるで異なる異国の。気温が度を超える猛暑の、現の喧騒と混沌に揉まれながら、俺は自分なりに必臭く技術と実績を積みねてきた。 帯の容赦ない差しが照りつける昼がりも、埃っぽいが吹き抜ける夜も、暗い現堂の片隅で、ただひたすらにキーボードを叩き、コードをき続けた々。 しそうになるノートパソコン台だけが、当の俺にとって唯の武器であり、裏切らない仲だった。

その堂の片隅での臭い発が、やがて国境を越えて現企業やクライアントのさな評判を呼び、確かな評価へと繋がっていった。正直に言えば、運が良かったとしか言いようがない。 だが、誰も見ていないとっていたあの暗い所での積みねが、やがて確かな形となり、こうして本の本社へ呼び戻される切符となったのだ。

本へ帰国し、本社で言い渡された配属先は、アプリケーション発部だった。 そこは、かつてのインドの喧騒とは対極にある、静かで質な空気が張り詰めた部署だった。 フロアには何ものエンジニアが並んでいるが、誰として私語を交わすことはない。皆が無言で複数のディスプレイに向かいい、カタカタと鳴り響くメカニカルキーボードの打鍵音だけが、部署内の唯のリズムを刻んでいた。

だが、その規則正しいリズムを、で踏みにじるように乱す男がだけいた。

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