みかん小説
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"退職金より失ったもの" 第10話

から戻った佳代は、旅先で撮った写真をさなアルバムにまとめた。

函館から眺めた夜景、樽の運沿いでべた鮮丼、列の窓から見えた。どの写真にも秀治は写っていなかったが、議と寂しさはなかった。誰かの嫌や帰宅を気にせず、自分の見たい景ゆくまで眺められたからだ。

旅から戻って数、佳代は所の公民館でかれる「暮らしとおの記録講座」の講師を任された。参加者は50代から70代までの女性がで、には夫に計をすべて握られ、自分名義の預さえ自由に使えないというもいた。

「私、専業主婦だったから、何も残していないんです」

講座の最、70歳を過ぎた女性が申し訳なさそうに言った。

「夫からも、お度も計に貢献していないと言われました。だから、私が何かを主張するのは違っているのかとって」

の佳代なら、同じ言葉を聞いても慰めることしかできなかっただろう。しかし今は、穏やかに首を横へ振ることができた。

「おを稼ぐことだけが、庭への貢献ではありません。事を作り、族の健康を気遣い、子どもを育て、える。その仕事を誰かに頼めば、必ず費用がかかります」

佳代は参加者たちを見渡した。

切なのは、ご自分がしてきたことを、まず自分で無かったことにしないことです。

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通帳や領収だけでなく、族のために何を担ってきたのかもき残してみてください。それは誰かを責めるためではなく、自分のを正しくるための記録になります」

講座が終わると、先ほどの女性が佳代のもとへやってきた。その顔には、入したにはなかった柔らかな表が浮かんでいた。

「帰ったら、古い帳を探してみます。子どもの通院や義母の介護のことを、ずっといていたんです」

「ぜひ切にしてください。そこには、あなたがきてきたが残っていますから」

女性は何度も頷き、胸を張るようにして公民館をていった。

その背を見送りながら、佳代は39保管してきた青いファイルをした。あれは秀治と争うために作ったものではない。族の暮らしを守り、何かあったに困らないように残した記録だった。

結果として、その記録は佳代自を守ってくれた。

だが、本当に彼女を救ったのは、ファイルのの数字だけではない。自分のには価値があったと、自分自が認められたことだった。

方、秀治もしずつ活をて直していた。

料理教へ通い始めた当初は、包丁の持ち方さえ注されることに腹をてた。の講師から指示されると嫌になり、初回に作った肉じゃがはジャガイモのが固いままだった。

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それでも辞めなかった。

週に1度、決まったに教へ通い、帰宅すると習った料理をもう度作った。洗濯や掃除にも慣れ、病院の予約は自分で帳へき込むようになった。

ある、教で同代の男性が講師に尋ねた。

「先、妻にべさせたいんですが、これで丈夫でしょうか」

その男性は妻がを悪くしたため、初めて料理を習い始めたのだという。形の崩れた煮魚を配そうに見つめながら、を何度も確認していた。

「奥さんの好みが分かっているなら、最はご自分で決めてください」

講師に言われ、男性は照れくさそうに笑った。

その景を見ながら、秀治は考えた。

自分は佳代の好物をいくつっていただろう。

煮の付けも、噌汁に入れる具も、秀治の好みにわせられていた。佳代が本当は何をべたかったのか、何を作るのが好きだったのか、度も尋ねた記憶がない。

その夜、秀治は初めて自分のためだけに噌汁を作った。

し塩辛く、豆腐も格好に崩れていた。それでも捨てずにべ終えると、流し台で自分の茶碗を洗った。

なら、たったそれだけのことを事とは呼ばなかっただろう。だが実際に毎続けてみれば、献を考え、材料を買い、調理し、片づけるまでにはも労力も必だった。

佳代はそれを39、ほとんど休まず続けていた。

にいただけ、か……」

秀治は自分がにした言葉をし、く息を吐いた。

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