"退職金より失ったもの" 第8話
「この、こんなにきれいだったか」
「しずつ直したの」
「俺はらなかった」
「そうね。私がどこでまれ、どんなで育ったか。母が何を残してくれたか。あなたは度もろうとしなかった」
秀治は菓子折りを持ったまま、をた。
その背は、39で初めて見るほどさかった。
だが佳代は呼び止めなかった。
かわいそうだからと戻れば、また自分を回しにするが始まる。夫の孤独を救うために、自分の残りを差しすことは、もう優しさではない。
その夜、佳代は婚届の自分の欄に署名した。
震えるとっていたは、議なほど落ち着いていた。
別居から4か、財産分与の協議がまとまった。
自宅は売却せず、秀治がみ続けることになった。その代わり、取得の佳代側の負担や共部分を考慮し、秀治が定額を佳代へ支払う。
退職についても、婚姻期に対応する部分を財産分与の計算へ含めた。ただし佳代は、械に最額を求めず、双方のと今の居費を考慮した現実な案を受け入れた。
秀治の母の施設費240万円については、署名入りの確認が残っていたため、未精算の替として返還されることになった。
計座に残っていた48万6720円は、夫婦の活費として半分ずつ分けた。
最初に通帳をいた朝、秀治は佳代が1900万円以を持ち逃げしたとった。
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しかし実際には、佳代が自分の財産を元の所へ戻しただけだった。
本当ので秀治を顔面蒼にさせたのは、48万円という残ではない。
39、自分が族へ与えてきたとい込んでいた暮らしのくが、佳代のと労力とによって支えられていた。その事実だった。
協議へ署名する、秀治は弁護士事務所で佳代と向きった。
「これで、本当に終わりか」
「ええ」
「直と美紀には、会ってもいいんだな」
「2はです。私が決めることではありません」
「孫にも?」
「それも美紀たちと話してください」
秀治は震えるで印鑑を押した。
「俺は、おに何もしてやれなかったのか」
佳代はしばらく考えた。
全てを否定するのは簡単だった。だが、結婚活のには、確かに笑ったもあった。子どもがまれた、秀治は病院の廊で泣いた。を買ったには、族4で何もない居に座り、の蕎麦をべた。
その記憶まで嘘にしたくはなかった。
「若い頃、あなたが懸命に働いてくれたことには謝しているわ。子どもたちを切にっていた期があったこともっている」
「なら、どうして」
「謝していることと、これからも傷つけられ続けることを受け入れるのは別だから」
秀治の目に涙が滲んだ。
「戻れないのか」
「戻りません」
「俺は、あので1になる」
「1でも暮らせるようになってください。
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それが、あなたがこれから自分のためにする仕事よ」
佳代はくをげ、部をた。
廊では、直と美紀が待っていた。
2は何も尋ねなかった。美紀が母の腕を取り、直が青いファイルの入った鞄を持った。
建物をると、初のが吹いていた。
「お母さん、これからどうするの?」
美紀に尋ねられ、佳代は空を見げた。
「まず、旅へこうとうの」
「どこへ?」
「崎。昔からってみたかったのよ」
秀治が混みを嫌うため、諦めていた所だった。
「それから仕事も続ける。平の庭で野菜を育てたいし、経理を学びたいの伝いもしてみたい」
直が笑った。
「予定がいね」
「39分、回しにしたからね」
佳代も笑った。
その笑顔は、子どもたちがい見たことのない、1の女性の表だった。
婚から1、佳代は65歳になった。
誕の朝、平の庭にはい梅のが咲いていた。佳代は縁側へさな机をし、税理士事務所から預かった用の教材を確認していた。
仕事は週4から週3に戻したが、経理を学び直したい齢者向けの講座をに2回くようになった。婚の活にを抱える女性から、計記録のつけ方を相談されることも増えた。
佳代は誰に対しても、「記録さえあれば勝てる」とは言わなかった。
数字はを傷つける武器にもなる。
切なのは、額のだけで自分の価値を決めないことだと伝えた。
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