"退職金より失ったもの" 第7話
久しぶりにしいを買い、美容院で髪をくえた。
鏡に映った自分は、39見慣れた「森川の妻」ではなかった。
ただの佳代だった。
方、財産理は着実にんでいた。
双方の代理が資料を確認した結果、計座から佳代名義へ戻した1920万円の部分は、相続財産やその運用収入、佳代自の資に由来すると裏づけられた。
ただし、婚姻期の与から形成された500万円については、名義だけで判断せず共財産として協議することになった。佳代は専の説を受け入れ、そこまで独占するつもりはないと伝えた。
自宅についても、取得の資負担と現価値を踏まえ、財産分与の対象額を計算する。退職も同様に、婚姻期に対応する部分を含めて話しうことになった。
佳代が望んだのは、秀治を破産させることではない。
互いの老が破綻しない範囲で、公平に分けることだった。
だが、同に婚の決は固まりつつあった。
秀治が謝罪らしい言葉をにするようになったからこそ、かえって分かったのだ。彼が恐れているのは、佳代を傷つけたことではない。事や洗濯をしてくれると、自由に使えるとっていた財産を失うことだった。
ある夕方、秀治からいメッセージが届いた。
――話したい。今度こそ謝る。
佳代は迷った末、会うことを承諾した。
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翌、秀治は平へやってきた。以よりし痩せ、には級な菓子折りを持っていた。
「入ってもいいか」
「どうぞ」
座卓を挟んで向きうと、秀治はしばらく湯みばかり見つめていた。
「退職のことは、言い過ぎた。おにも半分……いや、必なだけ使わせる」
佳代は静かに首を振った。
「まだ分かっていないわ」
「何がだ。譲ると言っているんだぞ」
「私はあなたから、おを使う許が欲しかったわけではないの」
「では、何が欲しい」
「尊されたかったのよ」
秀治は黙った。
「私がしてきたことをげさに褒めてほしかったわけじゃない。ただ、私にも考えがあり、があり、があると認めてほしかった」
佳代はい封筒を差しした。
には、婚協議を正式にめる旨を記した類が入っていた。
「これが私の答えです」
秀治の顔から血の気が引いた。
「婚なんて、本気なのか」
秀治の声がかすれた。
「本気です」
「待て。退職を分ければいいんだろう。も売らなくていい。おが戻るなら、通帳だって任せる」
「任せる、という言い方がもう違うのよ」
佳代は類のに両を置いた。
「計は、あなたが私に任せていた仕事ではない。私たちが緒に考えるべきことだった。でもあなたは、面倒なだけ私に押しつけ、まとまったおが入ったら自分のものだと言った」
「だから謝っているじゃないか」
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「何に対して謝っているの?」
「円も渡さないと言ったことだ」
「それだけ?」
秀治は答えに詰まった。
佳代は責めてず、夫の言葉を待った。しかし秀治のからてきたのは、自分の便ばかりだった。
「おがいなくなって、のことが回らない。病院の予定も分からないし、事もばかりだ。俺も悪かった。だから戻ってくれ」
「私がいないと便だから必なのね」
「夫婦なんだから、助けうのは当然だろう」
「私は39、助けてもらった記憶がほとんどないわ」
「俺は働いていた」
「私も働いていた。そので、事も育児も介護もした」
「昔のことを全部持ちすのか」
「私のの39は、あなたにとって昔の言で片づくのね」
秀治は顔を伏せた。
今までなら、佳代が折れた。夫が黙れば、気まずい空気に耐えられず、佳代から話しかけた。秀治が嫌になれば、好物を作って嫌を取った。
だが、そのは違った。
沈黙を埋める責任を、佳代は引き受けなかった。
「俺は、どうすればいい」
やがて秀治が呟いた。
「自分の活を、自分で考えてください」
「65歳から1できろと言うのか」
「私は64歳から始めたわ」
その言葉に、秀治は顔をげられなかった。
「おなら清算できます。も預も退職も、資料に基づいて分けられる。でも失った敬は、から座へ振り込めないの」
佳代は湯みを片づけ、話しいの終を告げた。
玄関へ向かう途、秀治が梅ののでち止まった。
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