みかん小説
本棚

"退職金より失ったもの" 第4話

自分が本当に望むものを、これまでのように回しにしたくもなかった。

「まだ決めていない。でも、元の活へ何もなかったように戻るつもりはないわ」

「うん。それでいいとう」

美紀は母のを握った。

「私も直兄さんも、お母さんに育ててもらったことを忘れてないから」

その温もりに触れた途端、佳代の目から初めて涙がこぼれた。

しいからではなかった。

自分が過ごした39を、覚えていてくれるがいた。その事実に、張り詰めていたがようやく緩んだのだ。

秀治の1暮らしは、3目にしてき詰まり始めた。

はコンビニ弁当を買い、自由を満喫しているつもりになった。2目は居酒で退職祝いをした元同僚たちに、「女を持って逃げた」と佳代の悪を言った。

ところが3目の朝には、流し台に汚れた器が積みがり、洗濯の使い方が分からず、着替えの着もなくなった。

蔵庫には調料と萎れた野菜しかない。佳代が用していた作り置きはべ尽くし、米の保管所すら分からなかった。

「まったく、わざと困らせやがって」

秀治は話で佳代を責めたが、妻は戻らなかった。

「炊飯器の横の棚に、説をまとめたファイルがあります」

「そういう問題じゃない。夫が困っているんだぞ」

が自分の事を用するのは、困らせることではないでしょう」

広告

秀治は話を切り、の寿司を頼んだ。

はある。事などで解決できると考えた。

しかし、毎った以くついた。クリーニング代、掃除代用品の購入。佳代が当然のようにえていた活をに頼むと、1週で6万円くが消えた。

さらに困ったのが、病院の予約だった。

秀治は糖尿病と血圧で2つの病院へ通っていたが、次の診察を覚えていない。薬の残りも把握しておらず、佳代へ話して尋ねるしかなかった。

「診察券の入った引きしに、予定表があります」

「おが管理していただろう。責任を持って教えろ」

「どうして私の責任なの?」

「妻だからだ」

「私はその役目をりると伝えました」

話の向こうの声はたくなかった。それがかえって秀治を苛たせた。

佳代が鳴れば、な女だと片づけられる。泣けば、が欲しいだけだと決めつけられる。だが彼女は鳴りも泣きもせず、秀治が言った通り、互いの活を分け始めていた。

退職して10目、秀治のもとへ1通の内容証郵便が届いた。

佳代の代理となった弁護士からだった。

そこには、別居のと財産理に関する協議の申し入れが記されていた。佳代の特財産と確認できる1920万円についてはすでに分別管理されていること、秀治の母の施設費など、佳代がて替えたままになっているについて資料を提示すること。

広告

そして自宅を含む婚姻に形成された共財産について、正式な覧を示するよう求めていた。

秀治は文面を読み終えるなり、佳代へ話した。

「弁護士をてるなんて、俺を脅すつもりか!」

「脅していません。あなたが誰のおかを確にしたいと言ったから、専にお願いしたの」

「夫婦の話にを入れるな」

「私が話そうとした、あなたは聞かなかったでしょう」

「退職は渡さないぞ」

「勝かすつもりはありません。でも、退職のうち婚姻期に対応する部分が財産分与の対象になり得ることは、弁護士から説を受けました」

「俺が働いて得ただ!」

「私も39、あなたが働ける活を支えてきたわ」

秀治は反射に言い返そうとした。だが、以のように「にいただけだ」とにすることはできなかった。

1になってわずか10で、事も洗濯も通院管理も滞った。自分の活が、佳代の働きによって成りっていた事実を、嫌でも見せつけられていたからだ。

「それでも半分なんて認めん」

「私も、に半分を求めたいわけではないの」

「なら何が欲しい」

「39、何があったのかを正しく見ること。それから、これからのを自分で決めることよ」

秀治には、その答えのが理解できなかった。

の話をしているのに、佳代はではないものを求めていた。

2週男の直族を集めた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: