"閉ざされた玄関の暗証番号" 第16話
澄子は息子の揺るぎない決のに、ついに涙を流して崩れ落ちた。
数、澄子は勇気の提案を断り、自らので産を巡り始めた。息子の用した穏な環境に甘えるのではなく、自分のの丈にったまいを自分で選ぶためだった。
何件かの内見を経て、澄子が選んだのは、商とさな公園がくにある、当たりの良いこじんまりとした1LDKのアパートだった。
引っ越しの、勇気は約束通り荷物の搬入を伝った。田園調布の豪邸に比べればあまりにも狭い空だったが、澄子は自分で選んだカーテンを取り付け、自分で写真ての位置を決めた。
「お母さん、本当にで丈夫ですか?」
り際に尋ねる勇気に、澄子はし寂しげに、だがしっかりと頷いた。
「丈夫よ。自分で決めた所だもの」
息子のという庇護かられ、澄子はまれて初めて、自分自のでつ「自分の」をに入れたのだった。
方、蒼井のマンションで静養を続けていた桜は、すっかり健康を取り戻していた。
あるの午、桜はリビングの隅に置かれていたスーツケースをけ、のを丁寧に畳み直していた。その様子を見ていた蒼井が尋ねた。
「桜、荷物をまとめて……どうするの?」
桜は微笑んで答えた。
「に、帰ろうとうの」
「勇気さんに言われたから?」
広告
「ううん。私が……自分で帰りたいと決めたから」
桜はタクシーに乗り込み、再び田園調布の敷へと向かった。
をくぐり、静まり返った玄関をける。階の寝へがり、あの力ずくで荷物を詰められたウォークインクローゼットのにった。あのの瞬の恐怖が蘇り、スーツケースのハンドルを握るに力が入ったが、桜は逃げさなかった。
そこへ、仕事を切りげて駆けつけた勇気の音が響いた。
「桜……!」
寝の入りにつ勇気と、桜の線が交わる。
「帰ってきたよ」
「……お帰り」
勇気はそれ以、何も聞かなかった。はベッドのに並んで座り、スーツケースのファスナーをけた。勇気がを枚ずつ渡し、桜がそれを自分のでクローゼットの定位置へと戻していく。
のによって乱暴に奪われた常を、ので、つずつ丁寧に取り戻していった。
季節が巡り、それぞれのしい活が定着し始めた頃のことだった。
田園調布の敷には、勇気と桜の穏やかな夫婦のが流れていた。澄子はアパートでの暮らしにすっかり適応し、弓も仕事に打ち込みながら自した活を送っていた。
あるの午、桜のスマートフォンが鳴った。画面には『お義母さん』の文字が表示されていた。
「はい、お義母さん」
『……桜さん? の午、ご宅かしら?』
広告
かつてのように触れもなくがり込んでくることはなく、澄子は必ず事に連絡を入れ、桜の都を尋ねるようになっていた。
「はい、午ならにおりますよ」
『もしよければ……しだけち寄ってもいいかしら?』
「ええ、どうぞ」
翌、澄子はおかずを詰めたさな提げ袋を携えて敷を訪れた。玄関のにった澄子は、かつて毎押していた子錠のテンキーを見つめたが、決してを触れることはなく、横に設置されたインターホンのボタンを静かに押した。
ピンポーンと澄んだ音が鳴り、ドアがく。
「いらっしゃいませ、お義母さん」
「お邪魔するわね」
澄子は靴を揃えてがり、リビングへ入った。キッチンへ向かった澄子は、蔵庫のでを止め、持参したおかずの容器を桜へと渡した。
「これ、どこへしまいましょうか?」
「私が入れますね。ありがとうございます」
澄子は勝に蔵庫をけることも、階の寝へがることもなく、リビングのソファに腰掛けて静かにお茶を待った。
運ばれてきたお茶をすすった、澄子は姿勢を正し、桜の目をまっすぐに見つめた。
「桜さん……あのは、本当にごめんなさい。私が全面に違っていたわ」
桜は静かにそれを受け止めた。
「お義母さん……私もこれからは、嫌なことは嫌だと、きちんとお伝えさせていただきますね」
澄子はし表を張らせたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「ええ、それでいいのよ。
それが本当の族というものね」
そのの夕暮れ、帰宅した勇気も交えて、で卓を囲んだ。澄子の作ったおかずを箸で突つきながら、のない世話にを咲かせる。そこには、誰がこのの主であるかを競いう傲さも、理尽に耐え忍ぶ沈黙もしなかった。
適度な距と確な境界線、そして互いへの尊があって初めて、族は真の調を結ぶことができる。
夕を終え、アパートへと帰る澄子を、勇気と桜は玄関先で見送った。夜のに消えていく母の取りは、かつてないほど軽やかで、力かった。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
退職届を出した夫が、最後の会議で暴いた妻社長の嘘
3年前。 妻・美穂が経営する会社で働いていた健二は、突然退職届を提出した。 理由は、妻の秘書・田中から告げられた一言だった。 「空気を読んで、自分から辞めてください」 愛する妻の会社で、自分だけが邪魔な存在になっていた。 しかし美穂は、田中との関係を否定し続ける。 「彼とは同僚としての関係しかない」 健二が信じていた3年間の結婚生活は、少しずつ崩れていた。 だが退職の日、健二はさらに恐ろしい事実を知る。 自分を追い出すために仕組まれた偽のセクハラ告発。 消された顧客情報。 そして、妻と秘書が隠していた本当の目的。 追い詰められた健二は、最後に残された証拠を手に取る。 音声記録。 社内システムの履歴。 競合会社との裏取引。 すべてを明らかにする場所は――妻の昇進をかけた役員会議だった。 そこで暴かれる、愛していた妻の裏切り。 10年間支えてきた会社も、信じ続けた夫婦の絆も、一瞬で崩れ去る。 そして健二は、何も奪わず、ただ一言だけ告げる。 「もう、昔の俺には戻れない」修羅場2.0萬字5 0 -
完結第13話
10年契約の果てに消えた夫
10年前。 事故で妻と娘を失ったタケシの前に、謎のシステムが現れた。 「別の世界で10年間、ユキとその娘に寄り添えば、失った家族を復活させる」 愛する家族を取り戻すため、タケシは契約を受け入れた。 そして彼は、ユキと幼いヒメのために、すべてを捧げる10年間を過ごした。 しかしユキが愛していたのは、タケシではなく、かつて自分たちを捨てた初恋の相手・シャオだった。 タケシは夫ではなく、都合のいい存在として扱われ続ける。 残り7日で任務が終わる日。 シャオが戻ってきたことで、タケシの最後の居場所は完全に奪われた。 そして彼は、10年間守り続けた家族からも、最後まで信じてもらえなかった。 やがて任務を終えたタケシは、すべてを捨てて元の世界へ帰る。 数年後、真実を知ったユキとヒメは、初めて彼がどれほど傷ついていたのかを理解する。 だが――。 もう彼の隣には、二度と離したくない本当の家族がいた。 10年間の犠牲は愛だったのか。 それとも、ただ失った家族を取り戻すための契約だったのか。修羅場1.9萬字5 0 -
完結第11話
追い出された私が離婚届を渡した日、夫の人生は崩れ始めた
新築の我が家に突然押しかけてきた義両親一家。 七人もの親族に家を占領され、家事も生活費もすべて押し付けられる日々。さらに夫・進は「養ってやっている」と私を見下し、ついには「お前は赤の他人だ」と言い放った。 限界を迎えた私は、静かに離婚届を差し出す。 しかし、彼らはまだ知らなかった―― 私が本当に失うものなど何もないことを。 そして、夫が隠していた重大な秘密と、一族を待ち受ける衝撃の結末を……。 これは、踏みにじられた妻が、自分の人生を取り戻すまでの逆転劇。兄弟姉妹|嫁姑1.7萬字5 70 -
完結第14話
一杯の鍋が変えた人生
柏優太は、職場でのパワハラが原因で心を壊し、半年間ほとんど誰とも話さず部屋に閉じこもっていた。 そんなある日、隣に引っ越してきた母子3人の姿を見かける。 「何も買えなくてごめんね」と泣く母親と、空腹を我慢する子供たち。 過去に大切な友人を救えなかった後悔を抱えていた優太は、思わず声をかける。 「よかったら……うちで鍋しませんか」 一杯の鍋をきっかけに、孤独だった男と傷ついた母子の人生が少しずつ変わり始める。 しかし、温かな時間の裏には、母親が隠していた過去と、子供たちを取り戻そうとする元夫の存在があった。 誰かを救おうとした優太が、実は自分自身も救われていた――。 小さな優しさから始まった、再生と家族の物語。人生逆転|第二の人生|親子関係2.2萬字5 40 -
完結第13話
優しい彼の家族計画
父の死後、支えになってくれた男性・健司と出会う。 彼は優しく、私の悲しみを理解してくれる人だと思っていた。 しかしある日、健司は泣きながら頼んできた。 「姉が夫の暴力から逃げてきた。少しだけ家に置いてほしい」 私は母と相談し、幼い娘を連れた彼の姉を受け入れる。 だが、それは始まりにすぎなかった。 姉は家事も生活費も負担せず、冷蔵庫を勝手に使い、家のことを調べ始める。 そして健司は突然言った。 「姉も家族になる。結婚したら、この家で一緒に暮らそう」 違和感を覚えた私は、姉の過去を調べ始める。 そこで知ったのは―― 彼女はDV被害者ではなかった。 以前にも同じ方法で他人の家に入り込み、生活を支配していたのだ。 さらに健司も、姉を助けるためではなく、最初から私の家を利用する目的で近づいていた。 信じていた優しさは、すべて計算だった。 家を奪われかけた私は、母とともに証拠を集め、法的手段へ進む。 「人を助けたい」という善意につけ込んだ家族の嘘。 失ったものを取り戻すため、私は本当の敵と向き合うことになる――。嫁姑2.0萬字5 9 -
完結第12話
DNA鑑定が暴いた元夫の大きな間違い
出産直後、山野リサは義母から「生まれた娘は本当に息子の子なのか」と身に覚えのない不貞を疑われ、さらに夫・ただしからも信頼を裏切る言葉を浴びせられる。DNA鑑定で親子関係が証明されても、二人は過ちを認めず、リサと幼い娘カナを家から追い出してしまう。 絶望の中、実家へ戻ったリサは両親の支えを受け、母として娘を守る決意を固める。努力を重ねてキャリアを築き、カナと共に幸せな人生を歩んでいた。 8年後、華やかな企業パーティーで再会したのは、落ちぶれた元夫と元義母だった。一方、成長したカナは優秀な少女へと成長し、リサには新たな人生を共に歩む大切な存在がいた。 かつて母娘を捨てた二人は後悔し、許しを求める。しかし、リサは過去に向き合い、毅然と決別する。 愛する娘を守り抜いた一人の母が、傷を乗り越え、本当の家族と幸せを手に入れる再生の物語。嫁姑|真相1.8萬字5 1 -
完結第13話
余命半年からの再出発
余命を告げられた日、夫は離婚届を置き、息子も「必要なことがあったら連絡して」と距離を置いた。 58歳の桐谷佳代子は、病気だけでなく、33年間築いてきた家族まで同時に失った。 誰もいない台所で一人分の味噌汁を作りながら、絶望の中にいた佳代子だったが、病院で出会った人々との縁をきっかけに、少しずつ自分の人生を取り戻していく。 治療、離婚、家を失う危機。 それでも彼女は、針と糸を手に取り、病気と向き合う人のための帽子作りを始める。 家族に必要とされることでしか自分の価値を感じられなかった女性が、人生のどん底から見つけた本当の生き方とは――。人生逆転|夫婦|第二の人生2.0萬字5 85 -
完結第15話
消えた実印
嫁が実印を隠した本当の理由。 姑が泥棒だと思った相手は、家を守るために動いていた。 70歳の誕生日を前に、仏壇から消えた大切な実印。 前日に家へ来ていたのは、長男の嫁・香織だけだった。 家の売却を調べていた嫁。 勝手に印鑑を持ち出した嫁。 文江は、すべてを裏切りだと思っていた。 しかし、弁護士から届いた一通の書類によって、隠されていた真実が明らかになる。 母の家を売ろうとしていた本当の人物は誰なのか。 そして、嫁が命をかけて守ろうとしていたものとは――。嫁姑|親不孝2.3萬字5 33 -
完結第14話
返されなかった合鍵
25年間、誰にも知られず借り続けられていた203号室。 夫の葬儀の日、見知らぬ女性から渡された一本の合鍵が、妻・千鶴の人生を大きく揺さぶる。 亡き夫はなぜ、家族に隠れて古い部屋を借りていたのか。 そこに残されていたのは、31本のカセットテープと、一人の少女の思い出だった。 最初は裏切りだと思った秘密。 しかし調べるほどに明らかになる、夫が25年前に背負った約束と、誰にも話せなかった苦悩。 守ることと、信じること。 家族を思う気持ちと、誰かを救おうとする気持ちは、時にすれ違ってしまう。 一つの合鍵から始まった真実の先で、千鶴が見つけたものとは――。人生逆転|相続|修羅場2.0萬字5 29 -
完結第12話
一万八千円の飯
自分の家族が経営する5つ星ホテルで、何気なく注文した一品の炊き込みご飯。 メニューでは1,800円に見えたはずなのに、会計明細には「18,000円」と記されていた。 帰国したばかりの後継者・小川優馬は、単なる表示ミスだと思い責任者を呼ぶ。だが、レストラン責任者は「社長が承認した価格です」と言い切った。 父が守ってきたホテルで、なぜ一杯のご飯が10倍の値段になっているのか。 優馬が調べ始めると、異常な価格変更、不可解な仕入れ、法人客への不自然な請求、そして継母・里見の影が浮かび上がっていく。 やがてその小さな違和感は、20年前に亡くなった実母・秋子の死、奪われた母方の財産、腹違いの弟の秘密、そして恋人だと思っていた女性の正体へとつながっていく。 始まりは、たった一杯の炊き込みご飯だった。 だが、その18,000円の明細は、運海ホテルに隠された20年越しの闇を開く鍵だった――。因果応報|修羅場1.7萬字5 0