みかん小説
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"閉ざされた玄関の暗証番号" 第5話

桜は息を呑み、澄子の顔をじっと見つめた。その言葉には、決定な欠落があった。自分が本当にこのていく気があるのかどうか、本など最初からにないのだ。桜が実くことは既に決定事項であり、自分たちは親切から荷造りを代してやっているのだと、本気でい込んでいるようだった。

桜はに持っていたに置いた。そして、広げられたスーツケースの蓋を掴んだ。

「結構です。必ありません」

桜はそのまま蓋を閉めようと力を込めた。だがその瞬、澄子のが伸び、反対側の縁をく掴んだ。

「お義母さん、してください」

「聞き分けのないことを言うんじゃないの」

半分閉まりかけたスーツケースを挟んで、線が激しく衝突した。弓はドレッサーのち尽くしたまま、息を呑んでその景を見守ることしかできなかった。

澄子の瞳に宿る徹なを見た瞬、桜は悟った。義母は実で休むことを勧めているのではない。自分が拒絶しようが病気であろうが関係なく、力ずくで自分をこのから排除しようとしているのだ。

桜はしばらく澄子の目を見つめた、静かにスーツケースからした。

これ以言葉をねても、何の解決にもならない。義母のでは、桜を追いすことが正当化され、決定事項として固定されていた。

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桜の線は、ベッドのに置かれたスマートフォンへと向かった。

今すぐ勇気に話をかければ済む話だった。アメリカにいる夫に連絡し、今起きている異常な事態を告発すれば、夫は必ずに入ってくれるはずだ。桜はスマートフォンをに取り、画面を点灯させた。数に届いた『現の会議が終わったよ。君は何してる?』という勇気のメッセージが、まだ液晶に残っていた。

指が勇気の連絡先のに触れた。通話ボタンを度押すだけで繋がる。しかし、桜の指はそこで止まった。

勇気は今、異国ので会社の将来をする極めてな契約交渉の渦にいる。ここで話をかければ、夫は激しく揺し、仕事どころではなくなってしまうだろう。

「……勇気に話するつもり?」

から澄子の声がした。桜が顔をげると、澄子はめた目でこちらの画面を見つめていた。

「はい」

澄子は腕を組み、静かに、だが釘を刺すように言った。

「勇気が今、仕事でどれほど事な期か、あなたも分かってるでしょう?」

桜の指が画面かられた。

「……分かっています」

「数、お互いれていれば済む話を、わざわざあの子にまでらせて揺させる必があるかしら?」

澄子の声は荒っておらず、むしろ息子の将来を案じる母親の落ち着きを装っていた。桜は何も言い返せなかった。

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連絡をするなと脅されたわけではない。しかし、今ここで話をかければ、事な仕事を控えた夫のを引っ張り、庭内の醜い諍いを持ち込む原因が自分になってしまうような気がしたのだ。

桜は画面を見つめた、スマートフォンをベッドのに伏せた。なくとも夫が帰国するまでは、自分の力でこのを収めるべきだと判断したのだった。

桜はにしゃがみ込み、スーツケースを再びけた。澄子が無理やり詰め込んだを取りし、その半をクローゼットへと戻した。実くつもりは毛なかったが、このでこれ以言い争う気力も体力も残されていなかった。

桜は最限必なものだけを選別し、詰め直した。着替えを着、着、洗面用具、そしてスマートフォンの充器と財布。弓はその様子を戸惑いの表で見つめていた。

「お義姉さん……実に帰るの?」

桜のがわずかに止まった。

「いいえ」

「じゃあ、どこへくの?」

桜はスーツケースのファスナーをしっかりと閉め、がった。

「自分で何とかします」

弓はそれ以、何も尋ねることができなかった。

桜はスーツケースのハンドルを引き伸ばし、寝のドアへと向かった。部る直度だけ振り返り、自を見渡した。今朝までは、今夜も当然この部で眠るものだとっていた。

それがわずか数のうちに、病気の体でスーツケースを引いて追いされることになるとは、にもっていなかった。

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