みかん小説
本棚

"閉ざされた玄関の暗証番号" 第1話

 

田園調布のは、朝の静けさに包まれていた。インテリア会社を経営する田勇気が、アメリカ・ロサンゼルスでの型ホテル改装プロジェクトに伴う10張へ旅ってから、今でちょうど4目の朝を迎えていた。

妻の桜は、い瞼をゆっくりと押しげた。識が覚すると同に、全を締め付けるような悪寒と倦怠が襲いかかってくる。昨晩から幾度となく目を覚まし、関節の軋むような痛みに耐えていたが、体調の悪化は像以だった。桜は寝台から震える腕を伸ばし、サイドテーブルに置かれていた体温計をに取って脇に挟んだ。数分子音が鳴る。液晶画面に目を落とすと、示されていたのは38度を超える数字だった。

「……ひどい……」

掠れた声でさく呟き、桜はく息を吐きしながら再び布団をまで引きげた。体の節々が痛み、指先ひとつかすことすら億劫にじられる。夫のをしっかり守らなければならないという責任はあったが、今は横になってが引くのを待つよりになかった。

10し回った頃、階の玄関先から賑やかな笑い声と靴の擦れる音が響いてきた。桜はを枕に沈めたまま、微かに眉をひそめた。昨の夕方、同居している義母の澄子が「の午、お友達がほどお茶をみにち寄るから」

広告

にしていたことをす。桜は布団をさらに固く握りしめ、痛むを休めるために静かに目を閉じた。

それからもなく、寝の扉が慮がちに、だが確かに度ノックされた。

「桜さん、寝てるの?」

扉の向こうから義母の声が届いた。桜は慌てて乱れた襟元をえ、体を無理やり起こした。

「いいえ、お義母さん。起きています」

扉がき、澄子が部へとを踏み入れてきた。ベッドの端に腰掛けた桜の顔を目見た澄子は、目を細め、桜の額へとを伸ばしてそっと当てた。

「顔がどうしてこんなに赤いの? でもあるの?」

澄子ののひらを通して伝わるに、義母の表配そうに曇った。桜は々しく息をえながら答えた。

「昨夜からがあって……体がだるいんです」

「まあ、それなら横になってなさい。私がでお構いするから、あなたは気にしないでいいわ」

「はい、ありがとうございます、お義母さん」

桜が力なく頷くと、澄子は部のドアを静かに閉めて階へとりていった。桜は堵の息を漏らし、再び枕にを預けてシーツをかぶった。

しかし、静寂はくは続かなかった。階から澄子の呼ぶ甲い声が廊を伝って響いてきた。

「桜さん、桜さん!」

桜はぴくりと肩を揺らし、い瞼をけた。聞き違いかとい数秒じっと息を潜めていると、階段のから再び声ががった。

広告

「桜さん、ちょっとりてきてちょうだい!」

桜はさく溜息をつき、ベッドの脇に脱ぎ捨ててあったカーディガンを羽織ると、ふらつく取りで部た。すりにすがるようにして歩ずつ階段をりていく。リビングへ入ると、ソファには仕ての良さそうなを着た義母の友腰掛けていた。澄子はキッチンカウンターのち、桜の姿を認めると指先で器棚を指した。

「急に呼んで悪かったわね。お茶碗がどこにあるか分からなくて。あなた、してくれない?」

桜は元を結び、何も言わずに会釈をしてキッチンへ入った。いつも使っている棚の扉をけ、来客用の湯呑みを取りして急須でお茶を淹れる。トレイに乗せてリビングのガラステーブルへと運び、友たちのに静かに置いた。澄子はお茶を勧めながら、友たちに向けて言った。

「桜さんはね、し体調が悪いのよ」

が桜の青い顔と潤んだ瞳をじっと見つめ、痛ましそうに声をかけてきた。

「あら、本当に顔が悪いわね。丈夫? くお階へがって休みなさい」

桜は頬の筋肉を無理に引きげ、引きつった微笑みを浮かべた。

「お気遣いありがとうございます。どうぞごゆっくりなさってください」

桜は軽くげ、再びを引きずりながら階段をがった。

のベッドへ倒れ込み、ようやく息ついたとったが、それからわずか分ほど経った頃、再び階からノックと呼び声が響いた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: