みかん小説
本棚

"余命半年からの再出発" 第5話

覚えていた。

事を伝わない。

料を相談なく使った。

帰宅が遅い。

佳代子はだった翔太へ何度も愚痴をこぼした。

「お父さん、ひどいとわない?」

「翔太からも言ってよ」

息子なら分かってくれるとっていた。

だが翔太にとっては、父親も母親も族だった。どちらかを選ばされることが、どれほど苦しかったのか考えたことがなかった。

「ごめん」

佳代子は言った。

翔太が顔をげた。

「今さら?」

「今さらだけど」

佳代子は布団のを握った。

「あなたに、お父さんの代わりをさせようとした。夫婦の話なのに、息子だから聞いて当然だとってた」

翔太は何も言わなかった。

「でも、今回のことは……」

言い訳がかかった。

病気なのだから。

母親がなのだから。

その言葉で、また息子を自分の側へ引き寄せようとしていると気づいた。

「今回も同じだったね」

佳代子は言い直した。

翔太の表し変わった。

「お父さんの方をする必も、私の方をする必もない。でも、あなた自はどうったのか、いつか聞かせて」

翔太は窓のを見た。

「お父さんが、病気が分かった婚届をしたのは、ひどいとう」

佳代子の目に涙が浮かんだ。

息子は続けた。

「でも、夫婦を続けろとは言えない。俺も、どうしたらいいか分からない」

「それでいい」

佳代子は答えた。

広告

「分からないなら、分からないって言ってくれればよかった」

「母さん、分からないって言うとるじゃん」

「これからは、すぐにはらないようにする」

「すぐには?」

「絶対にらないとは約束できない」

翔太がし笑った。

面会が終わる、佳代子は息子へ頼んだ。

つだけ、から持ってきてほしい物があるの」

「何?」

「裁縫箱」

直しのパートで使っていた、自分専用の裁縫箱だった。さな鋏、針、糸、指ぬきが入っている。

「病院で何するの?」

「分からない。でも、元に置いておきたいの」

翌週、宅配便で裁縫箱が届いた。

の字で所がかれていた。

箱のには、佳代子が頼んだ物だけが入っていた。はなかった。

佳代子は裁縫箱をき、使い慣れた鋏をに取った。

髪はしずつ抜け続けていた。

体も以のようにはかない。

それでも、針を持つ指はまだいた。

佳代子は、病院で買った無子の縁へ、さな青いを刺繍し始めた。

佳代子が刺繍した子を見て、奈緒が言った。

「私にも作ってください」

「売り物じゃないわよ」

「お払います」

「そういうじゃなくて」

佳代子は笑った。

奈緒の子は、柔らかいだった。洗濯を繰り返し、縁がし伸びている。

「何を縫えばいい?」

「黄い鳥」

「鳥なんて難しいわよ」

より目つでしょう」

佳代子はに鳥の形を描いた。

広告

最初は雀のようになり、次はひよこのようになった。奈緒はどちらでもいいと言ったが、佳代子は納得できず、3回描き直した。

刺繍をしているだけ、病気のことを忘れられた。

針を布へ通す。

糸を引く。

形をえる。

失敗すればほどき、もう度縫う。

体ので何が起きているかは自分で見られない。薬が効いているかも、次の検査まで分からない。

しかし布のの糸は、佳代子がかした通りに形になった。

奈緒の子が完成すると、同じ病の女性からも頼まれた。その女性は、れて暮らす孫が描いた猫を縫ってほしいと言った。

護師のは、治療で使うさな巾着袋を頼んだ。

佳代子は無料で引き受けた。

「材料代くらい取った方がいいですよ」

奈緒が言った。

「病院で商売したらられるでしょう」

「では、退院したら商売しましょう」

「誰が買うのよ」

「私が買います」

奈緒は本気だった。

病院の子は、黒、、紺など、目たない物がい。脱毛を隠すための物だから、余計に注目されたくないい。

けれど、にはるいや柄をにつけたいもいる。

「病気になったら、急ににならなきゃいけないみたいで嫌なんです」

奈緒は言った。

「私は赤い子が欲しい。でも売にはないでしょう」

「赤は目つから」

「病気じゃなくても目はいるじゃないですか」

佳代子は笑った。

2回目の治療を終えた頃、佳代子の髪はほとんど抜けていた。

鏡を見るたび、別のようにじた。

眉毛もくなり、顔く、頬はこけている。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: