みかん小説
本棚

"返されなかった合鍵" 第9話

送れば、美咲は自分のために別の庭が傷ついたことをる。

罪悪を負わせるかもしれない。

だが、隠す権利は千鶴にはない。

テープを複製し、元の1本を丁寧に包んで送った。

返事は1か来なかった。

その、千鶴は夫の遺品理をめた。

スーツは所の福祉施設へ寄付し、古い類は処分した。雅夫が毎朝使っていた湯呑みだけは、器棚へ戻した。

許したわけではない。

ただ、りだけで41を塗りつぶすこともできなかった。

雅夫は奈の自転を何度も修理した。

千鶴の父が入院した、毎病院へ通った。

けば必ず同じ饅を買い、夕は千鶴が見たい番組に文句を言いながら付きった。

その雅夫と、秘密の部を25借りた雅夫は、同じだった。

つの事実だけでは完成しない。

良い夫だったから裏切らないとは限らず、妻を傷つけたからしていなかったとも限らない。

4の終わり、美咲から話があった。

「森川です」

っていたよりく、落ち着いた声だった。

「テープ、受け取りました」

「そうですか」

「3、聞けませんでした」

千鶴は黙っていた。

「聞いたら、母が本当にんだことを認める気がして」

美咲は母親がくなったとってからも、葬儀へかなかった。墓の所も調べなかった。

母親を嫌っていたのではない。

広告

母をすと、押し入れで息を殺していた夜まで戻ってきた。転を繰り返し、偽名で呼ばれ、友達へ所を言えなかった々が蘇った。

「母は私を守ろうとしていた。それは分かっています。でも、母のそばにいる限り、私はずっと逃げている子どもでした」

美咲は13歳の、支援施設でった女性に助けられ、方の自援助ホームへ入った。母親には居所を伝えなかった。

を卒業し、働き、結婚した。

「夫には、両親はくなったと言っています」

「そうですか」

「娘にも」

美咲には15歳の娘がいた。

母のもとをったと、ほぼ同じ齢だった。

「テープを聞いて、母に会いたいといました」

美咲の声が震えた。

「でも、もう会えないんですね」

千鶴は返す言葉を探した。

慰めても嘘になる。

裕子は戻らない。

何を言っても、その事実は変わらない。

「会えません」

千鶴は答えた。

話の向こうで、美咲が泣いた。

声を抑えようとして、何度も息を吸っていた。

千鶴は待った。

野寺さん」

「はい」

「母のテープ、全部残っていますか」

「残っています」

「捨てないでください」

「分かりました」

「でも、まだ全部は聞けません」

「いつまででも置いておきます」

言ってから、千鶴は203号賃をした。永には置けない。

美咲も同じことに気づいたのか、を置いて言った。

「来、そちらへってもいいですか」

広告

千鶴は窓のを見た。

雅夫の植えたに、さな蕾がついていた。

「お待ちしています」

話を切ったあと、千鶴は雅夫の遺へ目を向けた。

「あなたのった通りになったとわないでよ」

の雅夫は、し困ったように笑っていた。

美咲が来る奈が実へ泊まりに来た。

「どうして泊まるの?」

「私も会うから」

「無理に会わなくていいのよ」

「会いたいの」

奈は産に菓子を買い、客用の布団を干し、居を掃除した。普段は母親の事の仕方にさないのに、その瓶の位置まで変えた。

「緊張してる?」

千鶴が尋ねると、奈は認めた。

「お父さんが、私より事にしたかもしれないでしょう」

千鶴は驚いた。

奈も同じことを考えていたのだ。

「美咲さんの方が事だったわけじゃないとう」

「でも、お父さんは私の唱祭より、そののお母さんを選んだ」

「そうね」

「否定しないんだ」

「否定したら、あなたが寂しかったことまで否定するでしょう」

奈は母親を見た。

「お母さん、し変わったね」

「誰のせいだとってるの」

翌朝、美咲はで来た。

50歳い女性を像していたが、実際には35歳だった。濃い茶の髪をく切り、いシャツに黒いパンツをわせていた。

玄関で名乗ったあと、千鶴を見つめた。

野寺さんに似ていますね」

「誰が?」

「ご主の写真を見たので。

目元が似ている気がしました」

「夫婦は似るって言いますから」

千鶴は美咲を居へ案内した。

奈ががる。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: