"嘘葬りの豆腐店" 第7話
私があの夜、聞いていたのよ」
恵子は記帳を胸に抱きしめた。
窓のでは、またがり始めていた。ざあざあとガラスを叩く音が、6の夜のように彼女のをく揺らした。
恵子は受話器を取った。
ダイヤルを回す指先が震えていた。
「もしもし。茨県警ですか。藤刑事をお願いします」
しばらくして、い声が聞こえた。
「藤です。どちら様ですか」
恵子はきく息を吸った。
「豆腐の隣で乾物をやっている鈴恵子です。お話ししたいことがあります。6の、あの夜のことです」
翌朝、藤は恵子を署の騒がしい刑事課ではなく、静かな相談へ通した。
ドアが閉まると、恵子は震えるで古いノートを机のに置いた。
「刑事さん。私、6、このをボンドで塞いだようにしてきてきました。いつか罰がると分かっていながら、怖くて……」
「丈夫です。今からでも来てくださったんです。ゆっくりでいい。いしたことを全部話してください」
藤の落ち着いた声に、恵子は涙を拭いながら頷いた。
「19911116の夜でした。空に穴がいたようにがっていたです。隣のから、異常な音がしたんです」
「具体には?」
「最初は、どんという、何かを鈍く殴るような音でした。それからく、きゃあという女のの鳴が聞こえて……違いなく美ちゃんでした」
広告
藤は帳にき止めた。
「それから?」
「何かをずるずると引きずる音がしました。を擦るような音です。それから、しばらく静かになって……」
恵子は言葉を切り、体を震わせた。
「その、何が聞こえましたか」
「セメントを混ぜる音です」
藤の目が鋭くなった。
「セメントを?」
「はい。ばしゃ、ばしゃって、スコップでとセメントを練りわせるの、あのたい音です。それが音の隙から、しばらく聞こえていました」
「械の音は?」
恵子は首を振った。
「絶対にありません。ショベルカーも、ドリルの音も。ただの力でスコップをかす音だけでした。あの夜に械なんて呼んだら、所が起きてしまいます」
藤はを乗りした。
「つまり、単なる事じゃなかったということですね。に覚えていることは?」
恵子はいため息をついた。
「次ののけ方です。静さんが庭のドラム缶で何かを燃やしていました」
「何を?」
「類でした。女物の。それから写真のようなものも見えました。赤ちゃんの写真でした」
恵子の声が震えた。
「その、いをまいていました。塩です。清めの塩をまきながら、ずっと何かをぶつぶつ言っていて……」
「何と?」
「来るな。化けてるんじゃないよ、って」
藤は帳を閉じた。
「それほどの状況を見ていたのに、なぜ今まで通報しなかったんですか」
広告
恵子は俯き、涙を落とした。
「怖かったんです。すぐ隣のなのに、どうやって通報できますか。それに静さんが察したのか、稲荷寿司を持ってきて止めをするみたいにして……私も見て見ぬふりをしてしまいました」
彼女は両で顔を覆った。
「でも、昨、警察署の廊であの子を見たんです。美ちゃんの息子の優君を。つま先が破れたスニーカーを履いて、1で隅に座っていて……それを見たら、もう黙っていられなくて」
藤は席をち、恵子にくをげた。
「勇気をしてくださり、本当にありがとうございます。この証言は決定な助けになります」
恵子を見送った、藤は刑事課へ戻った。
ホワイトボードのにち、輩刑事たちを集める。
「状況が変わった。目撃者がた。セメントを練る音だけが聞こえ、械の音はなかったそうだ」
藤はボードに太い線を引いた。
「これがどういうか分かるか。セメントを1で練り、面に塗るのは相当な力仕事だ。静のばあさん1じゃ絶対に無理だ」
輩刑事が顔をげた。
「協力者がいた」
「そうだ」
その、パソコンのに座っていた刑事が声をげた。
「藤さん、義弟の介のタイムカードがました」
「読め」
「19911116、介が働いていたで退届がています。理由は庭の事。午3に退社して実へ向かっています。
その夜から翌朝まで寮に戻っていません」
藤の目がった。
「介だ。こいつがキーマンだ。参考から被疑者に切り替えろ。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
消えた退院前夜
1991年5月、静岡県の総合病院で、退院を3日後に控えた43歳の女性・田中道子が忽然と姿を消した。 手術は無事に終わり、回復も順調。財布も保険証も病室に残されたまま、彼女だけが夜の病院から消えていた。 最後に確認されたのは、消灯時間の午後9時。翌朝、看護師がカーテンを開けた時、そこに道子の姿はなかった。 自ら出て行ったのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、病院の中で何かが起きていたのか。 家族は必死に行方を探し続けるが、手がかりは見つからないまま季節だけが過ぎていく。 そして8か月後、病院の監査で見つかった小さな異変が、すべてを変える。 消えた投薬記録。数の合わない睡眠導入剤。修正されたカルテ。 信じていた病院の奥で、道子に何が起きていたのか――。ミステリー|真相|行方不明1.9萬字5 0 -
完結第13話
長野中部山岳紅葉山カップル失踪事件
2019 年 10 月、韓国束草・雪岳山で忽然と姿を消した 20 代の恋人カップル。 山の監視カメラに最後の後ろ姿を残し、それきり跡形もなく消えてしまった二人。 大規模な山間捜索を何度も行ったものの、衣類の切れ端一つ見つからず、3 年間も謎のまま放置されていたこの失踪事件。 3 年後、排水溝の底から発見された一台の携帯電話。 本体に復元された記録の中に、たった 9 秒(原文 6 秒調整可)の謎の通話履歴が残っていたのです。 撮影した第三者の姿は監視カメラにも目撃談にも一切残らず、臨時インターネット電話番号からかかってきた不可解な電話。 通話直後、二人のスマホが同時に電源オフになる不可解な記録。 リュックの隠しポケットから出てきた手描き地図と謎のメモ「ここへ行けばある。17 時 25 分より前に渡るな」。 警察が調べても特定できない撮影者、地図に載っていない危険な山道、時系列が繋がる不自然な証拠たち… 長野(原文韓国束草に統一)の山に隠された、誰も想像できない真相とは? 年配の方も分かりやすく時系列順に整理した事件全貌、今すぐ全文を読んでみてください。真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 0 -
完結第13話
隠された十五年の物語
2005年、日本で誰も深く探ろうとしなかった不気味な過去がある。 生涯質素に暮らし、一文無しに近い老夫婦がいた。 一生懸命働き、大金とは無縁の日々を過ごしてきた二人に、思いがけない幸運が舞い込んだ。 閑古鳥が鳴くパチンコ店で、前代未聞の大当たりを出し、一夜にして大金を手に入れ、念願の一戸建てを購入したのだ。 苦労の末に手にした新居で、穏やかな老後が待っているはずだった。 だが誰も予想しなかった——引っ越してたった3日、老夫婦は新居ごと跡形もなく消え失せた。 庭の草木は新しく植えたばかりの瑞々しさを残し、部屋のお茶はまだ温かく、布団も整えられたまま。 主人だけが、この世から忽然と姿を消したのだ。 警察が数日間捜索したものの、手がかりは一切なく、最終的に不可解な失踪事件として処理された。 だが地元の古株の住民は皆知っている。この予期せぬ大当たりは、贈り物ではなく、命を懸けた交換取引だったと。 大金を手にした直後に消えた理由とは?空き家の下に隠された真実とは? 当時誰も口にできなかった封印された真相を、今こそ完全に解き明かす。真実|裡の顔|真相|遺體発見|行方不明1.9萬字5 2 -
完結第13話
消えた母の 10 年地下室
1993 年、お盆の帰省途中で姿を消した若い母親―10 年後、地下室で衝撃の真実が明らかに! 隣に住む親切な青年が、彼女を長年地下室に監禁していた悪夢の物語。 幼い息子だけが地下室に隠れた母と遭遇し、守らなければならない秘密を抱える。 夫の不審な観察、祖母の疑念、犯人の焦り… 積もった疑惑がついに決定的な瞬間を迎える。 10 年間の監禁、脅迫、欺瞞が一気に暴かれる衝撃結末。 失われた家族の絆が、長い悪夢を乗り越えて再びつながるまでの全記録。裡の顔|真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 0 -
完結第13話
マカオに消えた花嫁
2010年4月、マカオへ新婚旅行に訪れた日本人夫婦・田中浩司と山田愛子は、ホテルに荷物を残したまま忽然と姿を消した。 最後に確認されたのは、観光地の監視カメラに映った2人の姿。部屋に争った形跡はなく、財布も荷物もそのまま。誘拐か、事故か、それとも自ら消えたのか――事件は真相不明のまま、12年という歳月に埋もれていった。 しかし2022年、1人の女子大生がSNSで見つけた写真が、凍りついた時間を動かす。 マカオの街で中国人女性と寄り添う中年男性。その顔は、12年前に失踪したはずの夫・田中浩司に酷似していた。 では、彼と一緒に消えた妻・愛子はどこへ行ったのか。 幸せな新婚旅行の裏で、あの夜、本当は何が起きていたのか。 SNSに映った“夫の顔”が、12年間隠されてきた衝撃の真実を暴き出す。ミステリー|真実|行方不明2.0萬字5 0 -
完結第13話
消えた23人の観光団
2025年9月29日、福岡に約2700人の団体観光客が一斉に降り立った。 その日を境に、日本各地で不可解な失踪が相次ぎ始める。タクシー運転手、配達員、宿泊施設の関係者――いずれも夜、一人で行動することの多い男性たちだった。 やがて糸島の海岸で発見された身体の一部が、事件の扉を開く。 捜査を進める刑事・鈴木健二は、失踪した観光客、黒いワゴン車、古い倉庫、医療機器販売会社、そして横浜港へ向かう冷凍コンテナという、ばらばらに見えた点を追い始める。 これは単なる失踪事件ではない。 観光の人波に紛れ、日本の空き倉庫や港を利用して動いていた国際犯罪組織。その裏には、人間を“商品”のように扱う恐ろしい取引が隠されていた。 救える命はまだ残っているのか。 そして、海へ消えた男と「王」と呼ばれる人物の正体とは――。 福岡から始まった小さな違和感は、やがて日本全体を揺るがす闇へとつながっていく。ミステリー|真相2.0萬字5 0 -
完結第13話
24年目の手紙
1978年、神戸の坂の町で、12歳の少年・健二が自宅前から忽然と姿を消した。 母・よし子が最後に見たのは、新しく買ってあげた真っ白なスニーカーを履き、嬉しそうに坂道を駆け下りていく息子の後ろ姿だった。 学校にも行かず、家にも戻らなかった健二。近所の証言では、彼は知らない男と笑いながらバスに乗っていたという。警察は「家出」と見なしたが、よし子だけは信じなかった。 息子は必ず帰ってくる。 そう信じて、よし子は24年間、古い家を離れず、毎年6月になると玄関に新しい白いスニーカーを置き続けた。 そして2002年の夏、アメリカから一通の書留が届く。 差出人の名前は――高橋健二。 そこに記されていたのは、24年前のあの日、少年を連れ去った人物の名前と、母が知らなかった残酷な真実だった。ミステリー|真実2.0萬字5 0 -
完結第11話
湖底の白衣
1973年12月、東京で小さなクリニックを営む女医・田中恵美子が突然姿を消した。 患者から深く信頼され、無断で仕事を休むことなど一度もなかった彼女は、その日もいつも通り診察をしていた。ところが午後3時、恵美子は「急な往診に行ってきます」と看護師に告げ、水色のトヨタ・コロナに乗ってクリニックを出たまま戻らなかった。 しかし後に分かったのは、その往診依頼が存在しなかったという事実だった。 部屋に争った跡はなく、生活用品もそのまま。だが、失踪前の彼女には深夜の電話、大きな現金の引き出し、そして誰にも言えない異変があった。 事件か、失踪か、それとも別の理由があったのか。 答えのないまま21年が過ぎた1994年、神奈川県の芦ノ湖で潜水していたダイバーが、湖底に沈む古い車を発見する。 引き上げられた車は、21年前に田中恵美子が乗って消えたトヨタ・コロナだった。 だが車内に、彼女の姿はなかった。 湖底から現れた車、医学書の間に残された手紙、そして失踪直前に彼女が隠していた本当の苦しみ。 誰からも信頼された女医は、あの日なぜ東京を離れ、遠い湖へ向かったのか――。ミステリー|行方不明1.6萬字5 0