"消えた退院前夜" 第3話
返事はなかった。全ての個が空だった。
胸の奥にが込みげてきた。
本さんはでナースステーションへ戻った。夜勤の主任護師・鈴さんが、カルテをまとめているところだった。鈴さんは40代の女性で、この病院に20勤めているベテランだった。
「すみません。32号の田さんが見当たらないんです」
本さんの声はし震えていた。
鈴さんが顔をげた。
「え、いなくなった?」
2はすぐに病院内を探し始めた。各階のトイレ、談話、廊、1階のロビー、来の待、裏、非常階段。本さんは子さんの名を呼びながら歩いた。
「田さん、いらっしゃいますか?」
けれど、どこにも子さんの姿はなかった。
「おかしいわね。夜にていったのかしら」
鈴さんは眉をひそめた。
午7、2は病に戻った。
ベッドサイドには子さんの荷物が全て残されていた。さなバッグのには財布、健康保険証、現3万円、着替え、化粧品、タオルが入っていた。全てそのままだった。
携帯話はなかった。1991当、携帯話はまだ般ではなく、子さんも持っていなかった。
本さんはバッグを見つめながら、を隠せなくなった。
「これはおかしいです。患者さんが何も持たずに病院をるはずがありません」
鈴さんはい表で頷いた。
「とにかく、ご族に連絡しましょう」
広告
午7半、病院から田に話がかかった。
黒話のベルが鳴り、誠さんが受話器を取った。
「もしもし。田ですが」
「田様のご族でいらっしゃいますね。こちら静岡央病院の護師、鈴と申します」
「はい。妻がお世話になっております」
受話器の向こうから聞こえる鈴さんの声は、らかに緊張していた。
「実は、奥様のことでしお話がございます」
誠さんは胸騒ぎを覚え、受話器を握るに力を込めた。
「妻がどうかしましたか」
「奥様が、今朝から見当たらないのです」
その言葉を聞いた瞬、誠さんのは真っになった。
「どういうことですか?」
「昨夜の消灯には、確かにベッドにいらっしゃいました。しかし今朝の検温のには、もう病にいなくて……」
「探したんですか?」
「はい。病院内は全て探しましたが、見つかりません」
誠さんは受話器を持つが震えた。
「すぐにきます」
話を切ると、2階で寝ていた恵子さんを起こした。
「恵子、起きろ。お母さんがいなくなった」
「え……何?」
恵子さんは寝ぼけた顔のまま起きがった。しかし父の顔を見た瞬、ただ事ではないと悟った。
「病院から話があった。お母さんがいないって」
2は急いで着替え、病院へ向かった。
午8、誠さんと恵子さんは病院に到着した。鈴さんと本さんが、32号で待っていた。
「どういうことなんですか?」
広告
誠さんは必に尋ねた。
鈴さんはくをげ、昨夜から今朝にかけての状況を説した。
「昨夜の9、消灯には確かにベッドにいらっしゃいました。本が確認しております」
本さんは青ざめた顔で頷いた。
「はい。『おやすみなさい』とお声をかけました。そのはベッドに横になっていらっしゃいました」
「それで、今朝6の検温のにはもういなかったんですね」
「はい」
恵子さんは母のバッグをに取った。を確認する。財布も、保険証も、おも、全て入っていた。
「お母さんがこれを置いていくはずがない」
声が震えていた。
誠さんは病院の警備員にも確認した。
「昨夜、誰かていきませんでしたか?」
警備員は60代の男性だった。子を脱ぎ、困惑した表を浮かべた。
「いえ、夜は誰も入りしていません。正面玄関は午9に施錠しますし、裏も夜は内側から鍵をかけます。けた形跡はありませんでした」
「どうして朝まで気づかなかったんですか?」
誠さんは護師に詰め寄った。
鈴さんがをげた。
「申し訳ございません。夜の巡回は2おきなのですが、患者さんが眠っているとい、までは確認しておりませんでした」
「最に見たのは9ですか?」
「はい。消灯です」
「それから朝の6まで、誰も確認しなかったんですか」
誠さんの声はきくなった。
その、病院の事務が病にやってきた。50代の男性で、額に汗を浮かべていた。
「田様、変申し訳ございません。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
嘘葬りの豆腐店
1991年、茨城の古い商店街で、豆腐屋の嫁・美香が突然姿を消した。 姑と夫が語ったのは、「男を作って夜逃げした」という話。幼い息子を置いて消えた母親として、美香の名は商店街で長く汚され続けた。 しかし6年後、借金による強制執行で高橋豆腐店が取り壊されることになる。誰も近づこうとしなかった裏手のボイラー室。そのコンクリートを掘り返した時、そこから現れたのは、色褪せたスカーフと小さな金の指輪だった。 男と逃げたはずの嫁は、なぜ自宅の床下にいたのか。 そして家族は、6年間何を隠し続けていたのか。 雨の夜に消えた母の名誉を取り戻すため、古い商店街の沈黙が少しずつ崩れ始める。ミステリー|行方不明1.9萬字5 0 -
完結第13話
長野中部山岳紅葉山カップル失踪事件
2019 年 10 月、韓国束草・雪岳山で忽然と姿を消した 20 代の恋人カップル。 山の監視カメラに最後の後ろ姿を残し、それきり跡形もなく消えてしまった二人。 大規模な山間捜索を何度も行ったものの、衣類の切れ端一つ見つからず、3 年間も謎のまま放置されていたこの失踪事件。 3 年後、排水溝の底から発見された一台の携帯電話。 本体に復元された記録の中に、たった 9 秒(原文 6 秒調整可)の謎の通話履歴が残っていたのです。 撮影した第三者の姿は監視カメラにも目撃談にも一切残らず、臨時インターネット電話番号からかかってきた不可解な電話。 通話直後、二人のスマホが同時に電源オフになる不可解な記録。 リュックの隠しポケットから出てきた手描き地図と謎のメモ「ここへ行けばある。17 時 25 分より前に渡るな」。 警察が調べても特定できない撮影者、地図に載っていない危険な山道、時系列が繋がる不自然な証拠たち… 長野(原文韓国束草に統一)の山に隠された、誰も想像できない真相とは? 年配の方も分かりやすく時系列順に整理した事件全貌、今すぐ全文を読んでみてください。真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 0 -
完結第13話
隠された十五年の物語
2005年、日本で誰も深く探ろうとしなかった不気味な過去がある。 生涯質素に暮らし、一文無しに近い老夫婦がいた。 一生懸命働き、大金とは無縁の日々を過ごしてきた二人に、思いがけない幸運が舞い込んだ。 閑古鳥が鳴くパチンコ店で、前代未聞の大当たりを出し、一夜にして大金を手に入れ、念願の一戸建てを購入したのだ。 苦労の末に手にした新居で、穏やかな老後が待っているはずだった。 だが誰も予想しなかった——引っ越してたった3日、老夫婦は新居ごと跡形もなく消え失せた。 庭の草木は新しく植えたばかりの瑞々しさを残し、部屋のお茶はまだ温かく、布団も整えられたまま。 主人だけが、この世から忽然と姿を消したのだ。 警察が数日間捜索したものの、手がかりは一切なく、最終的に不可解な失踪事件として処理された。 だが地元の古株の住民は皆知っている。この予期せぬ大当たりは、贈り物ではなく、命を懸けた交換取引だったと。 大金を手にした直後に消えた理由とは?空き家の下に隠された真実とは? 当時誰も口にできなかった封印された真相を、今こそ完全に解き明かす。真実|裡の顔|真相|遺體発見|行方不明1.9萬字5 2 -
完結第13話
消えた母の 10 年地下室
1993 年、お盆の帰省途中で姿を消した若い母親―10 年後、地下室で衝撃の真実が明らかに! 隣に住む親切な青年が、彼女を長年地下室に監禁していた悪夢の物語。 幼い息子だけが地下室に隠れた母と遭遇し、守らなければならない秘密を抱える。 夫の不審な観察、祖母の疑念、犯人の焦り… 積もった疑惑がついに決定的な瞬間を迎える。 10 年間の監禁、脅迫、欺瞞が一気に暴かれる衝撃結末。 失われた家族の絆が、長い悪夢を乗り越えて再びつながるまでの全記録。裡の顔|真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 0 -
完結第13話
マカオに消えた花嫁
2010年4月、マカオへ新婚旅行に訪れた日本人夫婦・田中浩司と山田愛子は、ホテルに荷物を残したまま忽然と姿を消した。 最後に確認されたのは、観光地の監視カメラに映った2人の姿。部屋に争った形跡はなく、財布も荷物もそのまま。誘拐か、事故か、それとも自ら消えたのか――事件は真相不明のまま、12年という歳月に埋もれていった。 しかし2022年、1人の女子大生がSNSで見つけた写真が、凍りついた時間を動かす。 マカオの街で中国人女性と寄り添う中年男性。その顔は、12年前に失踪したはずの夫・田中浩司に酷似していた。 では、彼と一緒に消えた妻・愛子はどこへ行ったのか。 幸せな新婚旅行の裏で、あの夜、本当は何が起きていたのか。 SNSに映った“夫の顔”が、12年間隠されてきた衝撃の真実を暴き出す。ミステリー|真実|行方不明2.0萬字5 0