"消えた退院前夜" 第1話
19915、静岡県部にある10万ほどの穏やかな町で、その来事は起きた。
駅には昭の面を残す商が並び、し郊へれば茶畑が広がっていた。朝になると先のシャッターが斉にき、夕方には買い物帰りの主婦たちが顔見り同士でち話をする。々は静かで真面目な暮らしを切にしていた。
町の部に建つ総病院は、3階建ての古い建物だった。昭40代に建てられたもので、壁はところどころあせていたが、域の々からはく信頼されていた。邪から術まで、町のが何かあればまず頼る病院だった。
そこに1の女性が入院していた。
田子さん、43歳。
元の建設会社に勤める夫・誠さんと、学の娘・恵子さん、息子の久志さんの4族だった。子さんはこの町でまれ育ち、を卒業した、元のに勤めた。23歳の、3歳の誠さんと結婚し、町のれにさな戸建てを買った。
誠さんは建設会社の現監督として働く真面目な男性だった。朝くをて、夕方にはに焼けた顔で帰ってくる。子さんはそんな夫を支えながら、子どもたちを育ててきた。
娘の恵子さんは22歳。学4で、就職活の真っ最だった。息子の久志さんは19歳。学1で、2とも静岡内の学に通っていた。
広告
子さんは毎朝く起き、族の弁当を作った。台所には卵焼きの甘い匂いが漂い、炊きがったご飯の湯気がくった。夕方には買い物袋を抱えて帰り、夕の支度をした。特別なことは何もない。けれど、それは確かに温かい庭だった。
4の終わり頃から、子さんは々脇腹に痛みをじるようになった。
最初は、疲れだとっていた。
「し無理をしたのかしら」
台所で腰にを当てながら、子さんはさく呟いた。しかし痛みはににくなり、5の初めには事もうように取れなくなった。
夕の席で、恵子さんが母の顔を覗き込んだ。
「お母さん、病院にった方がいいよ。最、顔が悪い」
子さんは笑ってごまかそうとしたが、誠さんも箸を置いて頷いた。
「そうだな。1度診てもらおう」
510、子さんは静岡央病院を訪れた。診察の結果、胆嚢炎と診断された。
科部の佐藤医師は52歳のベテランだった。の袖をえ、カルテを見ながら落ち着いた声で説した。
「術が必ですね。ただ、それほど難しいものではありません。術の経過を見て、順調ならめに退院できます」
子さんはしそうに膝ので指をねたが、やがて静かに頷いた。
「分かりました。よろしくお願いします」
術は515に決まった。の514、子さんは入院することになった。
広告
その朝、玄関で靴を履きながら、子さんは族に配をかけまいとるく振るった。
「丈夫よ。すぐ帰ってくるから」
誠さんは荷物を持ち、恵子さんは母の背を見つめた。なぜか胸が締めつけられるような気持ちになったが、そのは言葉にできなかった。
病は3階の4部だった。窓からは病院の裏にあるさな公園が見えた。ベッドは窓際で、隣には60代の女性が入院していた。向かい側には若い女性との男性がいた。
子さんはそれぞれに軽くをげた。
「田です。よろしくお願いします」
柔らかな声が病に響いた。
担当の護師は本さんという35歳の女性だった。柄で、いつも笑顔を絶やさないだった。
「田さん、何か困ったことがあったら、いつでも呼んでくださいね」
本さんが優しく声をかけると、子さんはしたように微笑んだ。
「ありがとうございます」
515午9、術が始まった。
族は待で待っていた。誠さんは何度も計を見た。恵子さんは膝ので両を組み、じっと黙っていた。久志さんは落ち着かず、廊を何度もったり来たりしていた。
1がとてもくじられた。
午10半、佐藤医師が待に現れた。
「無事に終わりました。問題ありません」
その言葉を聞いた瞬、族はく息を吐いた。
誠さんは何度もをげた。
「ありがとうございました。本当にありがとうございました」
術、子さんは回復に運ばれた。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
嘘葬りの豆腐店
1991年、茨城の古い商店街で、豆腐屋の嫁・美香が突然姿を消した。 姑と夫が語ったのは、「男を作って夜逃げした」という話。幼い息子を置いて消えた母親として、美香の名は商店街で長く汚され続けた。 しかし6年後、借金による強制執行で高橋豆腐店が取り壊されることになる。誰も近づこうとしなかった裏手のボイラー室。そのコンクリートを掘り返した時、そこから現れたのは、色褪せたスカーフと小さな金の指輪だった。 男と逃げたはずの嫁は、なぜ自宅の床下にいたのか。 そして家族は、6年間何を隠し続けていたのか。 雨の夜に消えた母の名誉を取り戻すため、古い商店街の沈黙が少しずつ崩れ始める。ミステリー|行方不明1.9萬字5 0 -
完結第13話
長野中部山岳紅葉山カップル失踪事件
2019 年 10 月、韓国束草・雪岳山で忽然と姿を消した 20 代の恋人カップル。 山の監視カメラに最後の後ろ姿を残し、それきり跡形もなく消えてしまった二人。 大規模な山間捜索を何度も行ったものの、衣類の切れ端一つ見つからず、3 年間も謎のまま放置されていたこの失踪事件。 3 年後、排水溝の底から発見された一台の携帯電話。 本体に復元された記録の中に、たった 9 秒(原文 6 秒調整可)の謎の通話履歴が残っていたのです。 撮影した第三者の姿は監視カメラにも目撃談にも一切残らず、臨時インターネット電話番号からかかってきた不可解な電話。 通話直後、二人のスマホが同時に電源オフになる不可解な記録。 リュックの隠しポケットから出てきた手描き地図と謎のメモ「ここへ行けばある。17 時 25 分より前に渡るな」。 警察が調べても特定できない撮影者、地図に載っていない危険な山道、時系列が繋がる不自然な証拠たち… 長野(原文韓国束草に統一)の山に隠された、誰も想像できない真相とは? 年配の方も分かりやすく時系列順に整理した事件全貌、今すぐ全文を読んでみてください。真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 0 -
完結第13話
隠された十五年の物語
2005年、日本で誰も深く探ろうとしなかった不気味な過去がある。 生涯質素に暮らし、一文無しに近い老夫婦がいた。 一生懸命働き、大金とは無縁の日々を過ごしてきた二人に、思いがけない幸運が舞い込んだ。 閑古鳥が鳴くパチンコ店で、前代未聞の大当たりを出し、一夜にして大金を手に入れ、念願の一戸建てを購入したのだ。 苦労の末に手にした新居で、穏やかな老後が待っているはずだった。 だが誰も予想しなかった——引っ越してたった3日、老夫婦は新居ごと跡形もなく消え失せた。 庭の草木は新しく植えたばかりの瑞々しさを残し、部屋のお茶はまだ温かく、布団も整えられたまま。 主人だけが、この世から忽然と姿を消したのだ。 警察が数日間捜索したものの、手がかりは一切なく、最終的に不可解な失踪事件として処理された。 だが地元の古株の住民は皆知っている。この予期せぬ大当たりは、贈り物ではなく、命を懸けた交換取引だったと。 大金を手にした直後に消えた理由とは?空き家の下に隠された真実とは? 当時誰も口にできなかった封印された真相を、今こそ完全に解き明かす。真実|裡の顔|真相|遺體発見|行方不明1.9萬字5 2 -
完結第13話
消えた母の 10 年地下室
1993 年、お盆の帰省途中で姿を消した若い母親―10 年後、地下室で衝撃の真実が明らかに! 隣に住む親切な青年が、彼女を長年地下室に監禁していた悪夢の物語。 幼い息子だけが地下室に隠れた母と遭遇し、守らなければならない秘密を抱える。 夫の不審な観察、祖母の疑念、犯人の焦り… 積もった疑惑がついに決定的な瞬間を迎える。 10 年間の監禁、脅迫、欺瞞が一気に暴かれる衝撃結末。 失われた家族の絆が、長い悪夢を乗り越えて再びつながるまでの全記録。裡の顔|真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 0 -
完結第13話
マカオに消えた花嫁
2010年4月、マカオへ新婚旅行に訪れた日本人夫婦・田中浩司と山田愛子は、ホテルに荷物を残したまま忽然と姿を消した。 最後に確認されたのは、観光地の監視カメラに映った2人の姿。部屋に争った形跡はなく、財布も荷物もそのまま。誘拐か、事故か、それとも自ら消えたのか――事件は真相不明のまま、12年という歳月に埋もれていった。 しかし2022年、1人の女子大生がSNSで見つけた写真が、凍りついた時間を動かす。 マカオの街で中国人女性と寄り添う中年男性。その顔は、12年前に失踪したはずの夫・田中浩司に酷似していた。 では、彼と一緒に消えた妻・愛子はどこへ行ったのか。 幸せな新婚旅行の裏で、あの夜、本当は何が起きていたのか。 SNSに映った“夫の顔”が、12年間隠されてきた衝撃の真実を暴き出す。ミステリー|真実|行方不明2.0萬字5 0