"実印を押さない母" 第4話
ある、杏奈が学へったあと、階のプリンターから何度も警告音が鳴っていた。族共用のプリンターで、直が仕事の資料をすために置いたものだった。佳代子は詰まりかとい、源を確認しにった。
用トレイは空だった。
に枚だけ、印刷途のが落ちていた。
拾いげる。
《資計画案》
番にそうかれていた。
佳代子は、読んではいけないものだとった。
それでも自分のの所がいてあった。
目が止まった。
《現所者:佐伯佳代子》
《名義移転所者:佐伯直》
《第段階:所権移転》
《第段階:リフォームまたは建替え検討》
そこまでは、聞いている話ときく違わなかった。
問題はだった。
《将来選択肢》
A:現で世帯宅建築B:売却、駅マンション購入C:子世帯宅購入+親世帯齢者宅入居
佳代子はずつ読んだ。
さらにには、美が入力したらしいメモがあった。
《お義母さんが75~80になったらサも現実。駅3LDKなら子どもの通学にも便利。が3500以で売れればかなり楽》
がたくなった。
今から8。
75歳。
自分がどこで何をしているかを、はすでに「選択肢」としていている。
齢者宅に入ること自体が嫌なのではない。
必になれば、自分で選ぶかもしれない。
しかし、このの名義を息子へ変えたあと、そのを売り、自分をへす計画が「かなり楽」
広告
とかれていることが、どうしても受け入れられなかった。
佳代子はを持ったまま子へ座った。
その、階段のから玄関がく音がした。
美だった。
今は午から仕事だと聞いていた。
「お義母さん?」
佳代子はちがった。
をどうするか、瞬迷った。
隠せば、自分が悪いことをしているように見える。
佳代子はそのままプリンターのトレイへを置いた。
「なかったから入れようとって」
「あ、ありがとうございます」
美はそれだけ言った。
を見ていない。
佳代子は階段をりた。
臓がし速かった。
台所へ戻り、をんだ。
鳴りたい気持ちはなかった。
泣きたいともわなかった。
議なほどがえていた。
もしかすると、まだ本気の計画ではないのかもしれない。
産会社が勝に作った案かもしれない。
「サも現実」という文も、美が軽い気持ちでいただけかもしれない。
佳代子は、そう考えようとした。
しかし翌の夜。
リビングでテレビを見ていると、廊から直と美の声が聞こえた。
は呂のにいた。
さな声だった。
「母さん、名義の件、渋ってる?」
直だった。
「丈夫じゃない? 昨も壁見てたし」
「の、い方がいいって」
「名義さえ変われば、はどうにでもなるでしょう」
美の声だった。
佳代子はテレビの音量をつげた。
広告
会話を聞いていることを悟られたくなかった。
その夜、佳代子は眠れなかった。
りよりも、自分が何をしてきたのかという気持ちの方がきかった。
朝。
洗濯。
迎え。
病院。
費。
孫の弁当。
美が残業のは、呂まで入れてやった。
「ありがとう」と言われなくなったことに気づいていた。
それでも、族なのだからとっていた。
翌朝9。
佳代子は役所へ話した。
「法律相談をお願いしたいんですが」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
予約は翌週の曜になった。
話を切ったあと、佳代子は冊のノートを買いにった。
表は何でもよかった。
に戻り、最初のページへ付をいた。
そのに、
《同居始:20234》
と記した。
次のページには、毎の活費。
その次には、孫の送迎。
て替えた医療費。
具の購入。
費。
そして最に、プリンターで見た文の内容を、覚えている限りいた。
そのものは持っていない。
だからこそ記録した。
佳代子は証拠を集めて復讐しようとしていたわけではなかった。
ただ、自分があとから「そんなことはなかった」と言われたに、自分自まで分からなくならないようにしたかった。
週。
役所の相談で、佳代子は初めてにすべて話した。
相談を担当したのは、60代くらいの男性弁護士だった。
の登記簿。
夫から相続したの類。
固定資産税通。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
消えた実印
嫁が実印を隠した本当の理由。 姑が泥棒だと思った相手は、家を守るために動いていた。 70歳の誕生日を前に、仏壇から消えた大切な実印。 前日に家へ来ていたのは、長男の嫁・香織だけだった。 家の売却を調べていた嫁。 勝手に印鑑を持ち出した嫁。 文江は、すべてを裏切りだと思っていた。 しかし、弁護士から届いた一通の書類によって、隠されていた真実が明らかになる。 母の家を売ろうとしていた本当の人物は誰なのか。 そして、嫁が命をかけて守ろうとしていたものとは――。嫁姑|親不孝2.3萬字5 0 -
完結第12話
寿司屋で暴かれた嫁
68歳の田村節子は、息子の再婚相手である嫁・美咲を、ずっと“よくできた人”だと思っていた。 亡き夫を失い、1人暮らしになった節子の家へ通い、手料理を届け、病院の送り迎えまで申し出てくれる優しい嫁。近所の人たちからも羨ましがられ、節子自身も本当の娘のように感じ始めていた。 しかし、美咲は少しずつ、家の権利書や預金、保険の受取人について尋ねるようになる。 そんなある日、節子は美咲に誘われ、馴染みの寿司屋へ向かった。ところが店主は、美咲の顔を見た瞬間、血相を変えて叫ぶ。 「節子さん、その人から早く逃げてください」 店主の父を騙し、財産を奪った女と同じ顔――。 信じたい気持ちと、拭えない違和感。やがて節子は、嫁の荷物の中から決定的なものを見つけてしまう。 優しい嫁の正体は何者なのか。 そして節子は、息子と家を守るため、静かに反撃を始める。因果応報|相続|親子関係1.7萬字5 0 -
完結第12話
朝5時の鬼電話
朝5時。 橋本日向のスマートフォンに、義母・京子から鬼のような電話がかかってきた。 「息子と0歳児の娘を放置して朝帰り? あなた、母親失格よ」 しかし日向には、何の覚えもなかった。 生後6か月の娘を育てながら、毎日夫の弁当を作る彼女に、夜遊びする時間など存在しない。 それなのに近所では、 「幼い子供を置いて遊び歩く妻」 という噂が広がっていた。 夫・大輝は妻を信じ、真相を確かめるため実家へ向かう。 そこで見つけたのは―― 日向と同じ服。 日向と同じバッグ。 そして、自分たちの写真を改ざんした証拠。 すべての裏にいたのは、夫の妹・明里だった。 なぜ彼女は義姉になりすまし、人生を壊そうとしたのか。 兄への歪んだ執着。 家族だから許されると思い込んだ狂気。 朝5時の一本の電話から始まった騒動は、やがて夫婦が本当に守るべきものを明らかにしていく。 愛情と執着を履き違えた家族の嘘が、静かな日常を崩していく――。嫁姑1.8萬字5 5 -
完結第13話
100億の身代わり花嫁
貧しさに追い詰められた28歳の美咲は、妹の命を救うため、68歳の不動産王・大鳥幻蔵との結婚を受け入れた。 5000万円の借金は消え、妹の手術費用も用意される。そう信じて臨んだ結婚式で、美咲は親族たちから「金目当ての女」と嘲られながらも、ただ耐え続けた。 だが初夜、幻蔵は優しい夫の顔を捨て、恐ろしい真実を告げる。 美咲は妻として迎えられたのではなかった。100億円の借金と危険な会社を押しつけられる“身代わり”として選ばれたのだ。 妹を人質に取られ、逃げ道を失った美咲。夫、親族、裏社会、病院までもが敵に回る中、彼女は静かに涙を拭う。 誰も知らなかった。 彼らが「底辺の女」と笑った美咲こそ、10年間、父の死の真相を追い続けてきた人物だったことを――。夫婦|金銭問題1.9萬字5 3 -
完結第13話
福嫁の逆転茶屋
江戸の日本橋にある茶屋「泡雪屋」の若旦那・宗介は、店の立て直しのため、評判の商人・泉屋五兵衛の娘を妻に迎えることになる。 宗介が望んでいたのは、江戸でも噂になるほど美しい姉・お花だった。美しい女将がいれば、傾きかけた店にも客が戻る。そう信じていたからだ。 しかし、五兵衛が宗介に差し出したのは、お花ではなく、ふくよかで目立たない妹・福だった。 祝言の日、客たちは陰で笑い、宗介自身も心のどこかで落胆を隠せなかった。だが、福が作る菓子と入れる茶は、少しずつ泡雪屋の空気を変えていく。 派手ではないのに忘れられない味。人の心の奥にしまわれた記憶を呼び起こす菓子。福は、宗介が見落としていた“商いで本当に大切なもの”を静かに見せていく。 やがて泡雪屋は、思いがけない形で評判を取り戻していく。 なぜ、泉屋五兵衛は美しい姉ではなく、福を宗介に嫁がせたのか。 そして若旦那が、かつて落胆した嫁に深く頭を下げることになった理由とは――。嫁姑|夫婦1.9萬字5 0 -
完結第11話
追放母の25億売却
お盆のため、長崎から東京の息子夫婦のペントハウスを訪れた田中春江。 亡き夫に手を合わせ、息子の好物を詰めた重箱を抱え、半日かけて上京した彼女を待っていたのは、温かな家族の食卓ではなかった。 嫁・里奈は春江の手料理を目の前で捨て、安いホテルの予約票を差し出す。さらに息子夫婦は、自分たちが旅行へ行く間、愛犬の世話だけを春江に押しつけようとしていた。 長年、息子のために働き続け、すべてを与えてきた母。だがその日、春江はようやく気づく。 自分は家族として呼ばれたのではない。ただ都合よく使われるために呼ばれただけだった。 その夜、春江は20年以上連絡を取っていなかった“ある人物”に電話をかける。 翌日、息子夫婦が暮らしていた天空の城は、静かに動き始めた――。人生逆転|親不孝|親子関係1.6萬字5 6 -
完結第12話
無能嫁のタワマン逆転
73歳の玲子は、75歳の夫と45歳の息子・徹と暮らしていた。 夫は昔ながらの価値観を持つ元銀行員。家事も育児もすべて玲子に任せてきたにもかかわらず、完全退職後、家にいる時間が増えると、徹と玲子を見下すようになる。 「独身無職の親のスネかじりと、無能な嫁は出ていけ」 そう怒鳴られた瞬間、玲子は静かに決意した。 夫は知らなかった。引きこもりだと思い込んでいた息子が、実は在宅で高収入を得るフリーのエンジニアになっていたことを。そして、長年“何もしていない嫁”と見下していた玲子にも、正当な権利と新しい人生が残されていたことを。 2か月後。 玲子と徹が暮らすタワーマンションの前に、夫が現れる。手には、かつて玲子が好きだったコンビニスイーツ。 追い出したはずの妻と息子が、なぜ自分より豊かに暮らしているのか。 昭和の価値観にしがみついた夫が、ようやく失ったものの大きさに気づく――。相続|親子関係1.8萬字5 1 -
完結第12話
娘の遺した手紙
娘の葬儀を終えたその夜、43歳の佐藤陽子は夫から家を追い出された。 「もうお前を置いておく理由はない」 20年間支えてきた夫から浴びせられた冷たい言葉。さらに夫は、亡くなったばかりの娘の保険金を手に入れようとしていた。 しかし、夫が知らなかったのは、陽子が何も持たない専業主婦ではなかったこと。 祖父から受け継いだ700億円規模の資産、そして夫の裏切りを暴くために動き始めた秘密の調査。 やがて明らかになる、娘の死に隠された真実。 最後まで母を思い続けた娘が残した一通の手紙が、止まっていた家族の時間を動かし始める――。夫婦|親子関係1.8萬字5 0 -
完結第12話
家賃55万の置き土産
夫の家族と13年間暮らしてきたまゆ子は、ある日突然、義母から告げられる。 「里帰り出産で長男夫婦が来るから、あなたは明日までに出ていって」 家族のために尽くしてきたはずだった。血のつながらない息子にも、義母にも、夫にも、ずっと気を遣ってきた。けれど義母にとって、まゆ子はもう“用済み”の存在でしかなかった。 しかも夫は出張と偽り、別の女性と会っている疑いまで浮かび上がる。 翌日、まゆ子は言われた通り家を出ることにした。 ただし、何もかも置いていくつもりはなかった。 月55万円の家賃を払っていたのは誰なのか。リビングを埋める家具家電を買ったのは誰なのか。 まゆ子が引っ越し業者に告げた一言で、義母たちの“幸せな同居計画”は静かに崩れ始める――。兄弟姉妹|親子関係1.8萬字5 1 -
完結第10話
嫁に奪われた最後の400万円
《400万円、ごちそうさまでした》 28年間、家族のために働き続けた母・成瀬美佐子。 息子の大学費用、結婚資金、新生活の援助――惜しみなく愛情とお金を注ぎ、「家族が幸せならそれでいい」と信じて生きてきた。 そんなある日、35歳の息子・大輔から「家族旅行に行こう」と誘われる。 久しぶりに家族の温もりを取り戻せると思い、美佐子は400万円もの旅行費を負担した。 しかし、出発当日の成田空港で告げられたのは、信じられない一言だった。 「美香のお母さんも来ることになったから、母さんの分はキャンセルした」 そして嫁は冷たく笑う。 「400万円、助かりました。ごちそうさまでした」 「金ヅルはもう用済みですから」 その瞬間、美佐子は悟った。 自分は家族として必要とされていたのではない。 ただ、お金を出す存在として利用されていただけだったのだ。 それでも怒りを見せず、静かに空港を去った美佐子。 だが、息子夫婦は知らなかった。 自分たちが切り捨てた母親が、28年間の努力で築いた信用と財産、そして決して折れない誇りを持つ女性だったことを――。 失ったのは400万円の旅行ではない。 失ったのは、母親の愛情だった。 そして始まるのは、復讐ではなく「自分の人生を取り戻すため」の静かな決断。 もう誰にも、私の優しさを利用させない。 私はあなたたちの財布でも、都合のいい母親でもない。 私は――成瀬美佐子という、一人の人間です。真実|裡の顔|親子関係1.6萬字5 5