"十六歳の毒薬花嫁" 第3話
ちょうどそこへキヌが戻り、「まあ、お嫁様、それは若旦様のお薬でございます」と慌てて声をげた。
凛は柄杓を置き、キヌに尋ねた。「キヌさん、この薬はいつもどんながしますか」と聞くと、キヌは当たりのように「苦うございますよ。も煎じておりますから」と答えた。そこで凛はもう度舌を確かめ、ゆっくり首を振った。
「苦くないんです。なくとも、入っているはずの薬の苦ではありません」
キヌのが止まった。その瞬、縁側の向こうに澄がっていることにとも気づいた。澄の顔はのようにかったが、声はこれまでと同じたさを保っていた。
「医者が命の病だと言っています。なぜ嫁いで数のあなたが、薬のせいだと言えるのです」
「義母、薬の名を全部っているわけではありません。ただ、この包みにかれた薬が本当に入っているなら、これほど苦がないはずがございません」
澄の表は変わらなかった。だが、そので凛を叱りつける代わりに、ほんのしだけ線を逸らした。そのきを見て、凛は澄自も以から何かがおかしいとじていたのではないかとった。
「今から台所への入りを禁じます」
結局、澄はそれだけ言ってちった。凛には、その命令がりだけからたものではないことが分かった。
広告
何かを見ないため、聞かないため、澄は自分自にも同じ命令をし続けてきたのかもしれない。
その夜、凛が部で灯を落とそうとした、障子ので何かが倒れる音がした。けてみると湊が廊の柱へ体を預け、肩で息をしている。わずかほどの距を歩いてきただけなのに、額には汗が滲み、唇には血の気がなかった。
凛は慌てて支えようとしたが、湊はで制した。「頼みがあります。叔父を表って敵に回さないでください」と、途切れ途切れに言った。凛が理由を尋ねると、湊は苦しそうに目を伏せた。
「私が倒れてから、このは叔父が支えてくれました。母も逆らえない事があります。あなたが何かを疑っていることは分かりますが、私がきているは、あなたの方になってやれない」
凛はしばらく湊を見つめた。病にあり、何をされても抵抗できない男が、初めて自分のでここまで歩いてきた。その事実だけで分だった。
「若旦様、きたいですか」
湊は顔をげた。問いのを探すように凛を見た、ほんのわずか唇を震わせた。
「きたい」
「それで分です」
凛はそれ以何も聞かなかった。湊の腕を肩へ回し、ゆっくり奥のまで送り届けると、で部へ戻った。ところが障子をけた瞬、畳のに置いていた包みや着替えがすべて引きされ、部が荒らされていることに気づいた。
広告
庭へると、の向こうに蔵がっていた。そのには、父の形見であるさな針箱がぶらがっていた。
「しばらく預かる。、おがこのをていくに返してやろう」
「返してください。それだけは、父が残したものでございます」
蔵は答えなかった。凛が歩づくと、男は箱をゆっくり掌ので転がし、ありげに目を細めた。
「おは自分が何を触っているのか、まだ分かっておらぬようだな」
翌朝、凛は夜けから庭の央に正座していた。を含んだのたさが膝から骨までがってきてもかず、澄が仏からてくるのを待った。
「だけ、若旦様の薬を私に選ばせてください」
澄はったまま凛を見ろした。凛は、自分の銭で薬を買い、りなければ夜に針仕事をして稼ぐこと、経って何も変わらなければ自分からをることまで息に伝えた。
「だけです。それで若旦様に何の変わりもなければ、私は度と薬のことを申しません」
い沈黙の、澄はい息を吐いた。
「だけ許します」
しれた所で聞いていた蔵が、きな声で笑った。「よいではありませんか。幼い娘のい込みなど、もあれば本にも分かるでしょう」と言ったが、その目だけはしも笑っていなかった。
凛はその目を見返した。
先に線を逸らしたのは、蔵の方だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
余命半年からの再出発
余命を告げられた日、夫は離婚届を置き、息子も「必要なことがあったら連絡して」と距離を置いた。 58歳の桐谷佳代子は、病気だけでなく、33年間築いてきた家族まで同時に失った。 誰もいない台所で一人分の味噌汁を作りながら、絶望の中にいた佳代子だったが、病院で出会った人々との縁をきっかけに、少しずつ自分の人生を取り戻していく。 治療、離婚、家を失う危機。 それでも彼女は、針と糸を手に取り、病気と向き合う人のための帽子作りを始める。 家族に必要とされることでしか自分の価値を感じられなかった女性が、人生のどん底から見つけた本当の生き方とは――。人生逆転|夫婦|第二の人生2.0萬字5 3 -
完結第13話
消えた託児代7万円
2001年、東京の外れにある義実家で暮らす保育士のゆいは、夫の妹・安奈から何度も娘の子守りを押しつけられていた。 「保育士でしょ?」 「家族なんだから」 「今日だけお願い」 そう言われるたび、ゆいは仕事帰りに1歳のクレアを風呂に入れ、寝かしつけ、夜泣きにも起きてきた。けれど夫も義母も、それを“当然の手伝い”としか見ていなかった。 ある朝5時半、安奈は39度の熱を出したクレアを抱えて現れる。 「娘の子守りよろしく」 仕事を理由に断ろうとするゆいへ、夫は笑って言った。 「保育士なんだから慣れてるだろ。ケチくさいこと言うなよ」 その一言で、ゆいの中で何かが切れた。 なぜ安奈は、そこまで頻繁に娘を預けていたのか。 なぜ“仕事”と言って家を空ける日が増えていたのか。 そして、クレアの父親だけが知らなかった事実とは――。 便利な保育士として扱われ続けた嫁が、初めて「無理です」と告げた日、義家族の隠された嘘が静かに崩れ始める。兄弟姉妹|夫婦1.9萬字5 3 -
完結第13話
100億の身代わり花嫁
貧しさに追い詰められた28歳の美咲は、妹の命を救うため、68歳の不動産王・大鳥幻蔵との結婚を受け入れた。 5000万円の借金は消え、妹の手術費用も用意される。そう信じて臨んだ結婚式で、美咲は親族たちから「金目当ての女」と嘲られながらも、ただ耐え続けた。 だが初夜、幻蔵は優しい夫の顔を捨て、恐ろしい真実を告げる。 美咲は妻として迎えられたのではなかった。100億円の借金と危険な会社を押しつけられる“身代わり”として選ばれたのだ。 妹を人質に取られ、逃げ道を失った美咲。夫、親族、裏社会、病院までもが敵に回る中、彼女は静かに涙を拭う。 誰も知らなかった。 彼らが「底辺の女」と笑った美咲こそ、10年間、父の死の真相を追い続けてきた人物だったことを――。夫婦|金銭問題1.9萬字5 3 -
完結第13話
福嫁の逆転茶屋
江戸の日本橋にある茶屋「泡雪屋」の若旦那・宗介は、店の立て直しのため、評判の商人・泉屋五兵衛の娘を妻に迎えることになる。 宗介が望んでいたのは、江戸でも噂になるほど美しい姉・お花だった。美しい女将がいれば、傾きかけた店にも客が戻る。そう信じていたからだ。 しかし、五兵衛が宗介に差し出したのは、お花ではなく、ふくよかで目立たない妹・福だった。 祝言の日、客たちは陰で笑い、宗介自身も心のどこかで落胆を隠せなかった。だが、福が作る菓子と入れる茶は、少しずつ泡雪屋の空気を変えていく。 派手ではないのに忘れられない味。人の心の奥にしまわれた記憶を呼び起こす菓子。福は、宗介が見落としていた“商いで本当に大切なもの”を静かに見せていく。 やがて泡雪屋は、思いがけない形で評判を取り戻していく。 なぜ、泉屋五兵衛は美しい姉ではなく、福を宗介に嫁がせたのか。 そして若旦那が、かつて落胆した嫁に深く頭を下げることになった理由とは――。嫁姑|夫婦1.9萬字5 0 -
完結第11話
赤ワインの逆転離婚
因果応報|夫婦1.6萬字5 0 -
完結第11話
夫の顔と20年目の罪
8歳の事故で母と光を失った桜田はるかは、暗闇の中でピアノだけを支えに生きてきた。 父の死後、叔父に勧められるまま結婚した相手は、名門病院の跡取り息子・桜田真一。寡黙ながらも優しく、毎日花束を贈ってくれる夫を、はるかは心から信じていた。 そしてある日、20年待ち続けた角膜移植手術の順番が回ってくる。 初めて夫の顔を見られる――。 そう思って迎えた包帯を外す日。眩しい光の中で、はるかの前に立っていたのは、愛していたはずの夫とはまるで違う男だった。 「あなたは誰?」 病室に凍りつく空気。夫を名乗る男、黙り込む周囲、そして誰もが隠していた結婚の嘘。 やがてはるかは、20年前の事故と、ガーベラに隠された本当の意味へとたどり着いていく。人生逆転|夫婦|真相1.7萬字5 0 -
完結第12話
娘の遺した手紙
娘の葬儀を終えたその夜、43歳の佐藤陽子は夫から家を追い出された。 「もうお前を置いておく理由はない」 20年間支えてきた夫から浴びせられた冷たい言葉。さらに夫は、亡くなったばかりの娘の保険金を手に入れようとしていた。 しかし、夫が知らなかったのは、陽子が何も持たない専業主婦ではなかったこと。 祖父から受け継いだ700億円規模の資産、そして夫の裏切りを暴くために動き始めた秘密の調査。 やがて明らかになる、娘の死に隠された真実。 最後まで母を思い続けた娘が残した一通の手紙が、止まっていた家族の時間を動かし始める――。夫婦|親子関係1.8萬字5 0 -
完結第11話
60代からの第二の人生
64歳の母・京子は、32年間、病院の調理員として家族のために働き続けてきた。 そんなある年末、一人息子から届いたメッセージに言葉を失う。 「正月にハワイ行くので、1月1日から5日まで子供たち預かってください」 そこには相談も感謝もなかった。 さらに息子夫婦は、自分たちのハワイ旅行費50万円を京子が以前援助したお金で賄い、4人の孫の世話を当然のように押し付けてくる。 アレルギー対応の食事、宿題の指導、夜泣き対応、洗濯、買い物……。 32年間、息子のために尽くしてきた母は、初めて気づく。 自分は「母親」ではなく、「都合のいい存在」として扱われていたのだと。 しかし、大晦日の夜、夫・浩司と交わした一言がすべてを変える。 「今年こそ、私たちの人生を生きてもいいんじゃないかしら」 翌朝、息子夫婦がハワイへ旅立った後、京子夫婦も静かに荷物をまとめる。 向かった先は――息子夫婦と同じハワイ。 息子たちが楽園を満喫していると思っていたその裏で、残された4人の子供たちを巡り、状況は一変していく。 着信100件以上、届く謝罪メッセージ。 そして帰国後、母が突きつけたのは、32年間で積み重なった「感謝されなかった愛情」の記録だった。 親だから何でも許されるわけではない。 家族だからこそ、相手を一人の人間として尊重する必要がある。 これは、長年家族のために自分を犠牲にしてきた母親が、初めて自分自身の人生を取り戻す物語。夫婦|第二の人生1.6萬字5 0 -
完結第13話
冷えた雑煮の逆転正月
元日の夜、シンガポール出張から1日早く帰国した佐藤健一は、実家の食卓に妻・弓の席だけがないことに気づく。 暖かい居間では、母と弟が豪華なおせちを囲んで笑っていた。だが弓は、冷え切った台所の隅で、たった1人、冷たい雑煮をすすっていた。 15年間、夫の不在中に何が起きていたのか。 赤切れた手、擦り切れたカーディガン、使わせてもらえないお湯。そして、父が遺したはずの3000万円の預金に残されていた、不可解な出金記録。 健一は怒りを飲み込み、その場では何も言わなかった。 翌朝、妻を呼び出した彼は、ついに決断する。 だが金庫を開けた時、そこにあったのは消えた遺産だけではなかった。弓の名前が書かれた、覚えのない離婚届。そして母と弟が隠していた、さらに深い裏切りの証拠。 元日の冷たい台所から始まった夫婦の反撃は、やがて家族の嘘を一つずつ暴いていく――。嫁姑|夫婦1.9萬字5 8 -
完結第10話
「子なし」離婚の大誤算
離婚届に署名した日、木村さゆのお腹には、まだ誰にも知られていない3か月の命があった。 夫・渡辺健二は初恋の女性との再婚に夢中で、離婚協議書には「婚姻中の子なし」と記されていた。さゆは妊娠を告げることなく、静かに名前を書き、夫の前から姿を消す。 それから10年。 さゆは一人で息子・陸を育てながら、写真館「時」を成功させ、母としても写真家としても自分の人生を築いていた。 しかし、陸の卒業式の日、思いがけず健二と再会する。 壇上で花束を渡す陸の顔を見た瞬間、健二は凍りついた。目元、鼻筋、横顔――そこには、10年前に自分が切り捨てたはずの結婚の答えがあった。 失われた10年は、金で取り戻せるのか。 父親を名乗る資格とは何か。 初恋を選んだ男が、初めて自分の過ちと向き合う時、さゆと陸が選ぶ未来とは――。人生逆転|夫婦1.5萬字5 4