"湯殿床下の女将日記" 第6話
「造さん」
声をかけると、老はゆっくり顔をげた。
しばらく塚を見る。
そして、さく呟いた。
「……刑事さんでしたか」
まるで、いつかこのが来ることをっていたような声だった。
塚はしばらく世話をした。
そして、持ってきた包みを取りした。
「糸が取り壊されたことは、ごですか」
造のが止まった。
「その、からこれが見つかりました」
油をく。
帳面。
そして帯留め。
その瞬。
造の表が変わった。
6、何を聞かれてもかなかった老の目に、いしみが浮かんだ。
震えるで帯留めを持つ。
い沈黙。
やがて、造はさく息を吐いた。
「……見つかってしまいましたか」
その声には、諦めと堵が混じっていた。
「もう、隠しておく必もないのでしょう」
塚は何も言わなかった。
ただ、老の言葉を待った。
そして造は、6胸の奥に閉じ込めていた真実を語り始めた。
「あの朝……女将さんは確かに宿をてきました」
塚は息を止めた。
「ですが、誰かに連れられたのではありません」
「自ら命を絶ったのでもありません」
造は静かに首を振った。
「女将さんは……息子さんを守るために、ご自分を消されたのです」
塚は言葉を失った。
6、誰もたどり着けなかった答え。
それは事件でも事故でもなかった。
母親が、息子のために選んだ決断だった。
広告
造は静かに続けた。
沢子は借取りから宿を守るため。
そして、彦を守るため。
自分がいなくなることでを作ろうとした。
その計画をっていたのは、造だけだった。
「あの方は……最まで母親でした」
老の声が震えた。
「自分のより、息子さんの未来を選ばれたのです」
塚はく息を吐いた。
6、謎だった失踪。
その裏には、誰にもられない母のがあった。
そして、最に造は言った。
「私は……女将さんとの約束を守っただけでございます」
その言葉のを、塚はようやく理解した。
6、沈黙していた理由。
それは嘘ではなかった。
約束だったのだ。
造は40仕えた女将の最の願いを、をかけて守り続けていた。
しかし、塚はまだ聞かなければならないことがあった。
「沢子さんは……今、どこにいるのですか」
造は静かに答えた。
「本の見える町へ向かわれました」
そして、その言葉が――
6止まっていた事件を、再びかすことになる。
造のから語られた真実は、塚にとって像していたどの結末とも違っていた。
6、の朝に消えた鍛原沢子。
警察は事件、事故、自ら姿を消した能性。
その3つをに捜査を続けた。
しかし、どれも決定な証拠にはたどり着かなかった。
沢子は誰かに傷つけられたわけではなかった。
事故に巻き込まれたわけでもなかった。
広告
まして、自分のを投げしたわけでもなかった。
ただ1の母親として。
息子を守るために。
自分というを度消す決断をしたのだった。
塚は造からさらに詳しい話を聞いた。
あのの夜け。
温泉はまだいに包まれていた。
の気配もなく、旅館のかりも消えていた。
造は裏で沢子を待っていた。
「造さん……本当にごめんなさい」
沢子はそう言ったという。
いつもは気丈で、音など見せない女将だった。
しかし、そのだけは違った。
守ってきた旅館。
夫と共に築いてきた所。
従業員たちと過ごしたい。
その全てを置いていかなければならない苦しみが、表に滲んでいた。
「私はもう、この所にいてはいけません」
沢子はそう言った。
息子の彦が抱えた借。
その借を利用して糸を奪おうとする者たち。
もし自分が旅館に残れば、必ずまた息子に危険が及ぶ。
沢子はそう考えていた。
だから、自分が消えることでを作ろうとした。
彦がち直るまで。
追ってくる者たちのが届かなくなるまで。
母としてできる最のことだった。
「女将さんは……泣いていましたか」
塚が尋ねると、造は静かに首を横に振った。
「いいえ」
「最まで泣かれませんでした」
「ただ……何度も旅館を振り返っておられました」
その景を像すると、塚の胸は苦しくなった。
40以守られてきた旅館。
そこには沢子のそのものがあった。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
嘘葬りの豆腐店
1991年、茨城の古い商店街で、豆腐屋の嫁・美香が突然姿を消した。 姑と夫が語ったのは、「男を作って夜逃げした」という話。幼い息子を置いて消えた母親として、美香の名は商店街で長く汚され続けた。 しかし6年後、借金による強制執行で高橋豆腐店が取り壊されることになる。誰も近づこうとしなかった裏手のボイラー室。そのコンクリートを掘り返した時、そこから現れたのは、色褪せたスカーフと小さな金の指輪だった。 男と逃げたはずの嫁は、なぜ自宅の床下にいたのか。 そして家族は、6年間何を隠し続けていたのか。 雨の夜に消えた母の名誉を取り戻すため、古い商店街の沈黙が少しずつ崩れ始める。ミステリー|行方不明1.9萬字5 0 -
完結第13話
消えた退院前夜
1991年5月、静岡県の総合病院で、退院を3日後に控えた43歳の女性・田中道子が忽然と姿を消した。 手術は無事に終わり、回復も順調。財布も保険証も病室に残されたまま、彼女だけが夜の病院から消えていた。 最後に確認されたのは、消灯時間の午後9時。翌朝、看護師がカーテンを開けた時、そこに道子の姿はなかった。 自ら出て行ったのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、病院の中で何かが起きていたのか。 家族は必死に行方を探し続けるが、手がかりは見つからないまま季節だけが過ぎていく。 そして8か月後、病院の監査で見つかった小さな異変が、すべてを変える。 消えた投薬記録。数の合わない睡眠導入剤。修正されたカルテ。 信じていた病院の奥で、道子に何が起きていたのか――。ミステリー|真相|行方不明1.9萬字5 0 -
完結第13話
長野中部山岳紅葉山カップル失踪事件
2019 年 10 月、韓国束草・雪岳山で忽然と姿を消した 20 代の恋人カップル。 山の監視カメラに最後の後ろ姿を残し、それきり跡形もなく消えてしまった二人。 大規模な山間捜索を何度も行ったものの、衣類の切れ端一つ見つからず、3 年間も謎のまま放置されていたこの失踪事件。 3 年後、排水溝の底から発見された一台の携帯電話。 本体に復元された記録の中に、たった 9 秒(原文 6 秒調整可)の謎の通話履歴が残っていたのです。 撮影した第三者の姿は監視カメラにも目撃談にも一切残らず、臨時インターネット電話番号からかかってきた不可解な電話。 通話直後、二人のスマホが同時に電源オフになる不可解な記録。 リュックの隠しポケットから出てきた手描き地図と謎のメモ「ここへ行けばある。17 時 25 分より前に渡るな」。 警察が調べても特定できない撮影者、地図に載っていない危険な山道、時系列が繋がる不自然な証拠たち… 長野(原文韓国束草に統一)の山に隠された、誰も想像できない真相とは? 年配の方も分かりやすく時系列順に整理した事件全貌、今すぐ全文を読んでみてください。真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 0 -
完結第13話
隠された十五年の物語
2005年、日本で誰も深く探ろうとしなかった不気味な過去がある。 生涯質素に暮らし、一文無しに近い老夫婦がいた。 一生懸命働き、大金とは無縁の日々を過ごしてきた二人に、思いがけない幸運が舞い込んだ。 閑古鳥が鳴くパチンコ店で、前代未聞の大当たりを出し、一夜にして大金を手に入れ、念願の一戸建てを購入したのだ。 苦労の末に手にした新居で、穏やかな老後が待っているはずだった。 だが誰も予想しなかった——引っ越してたった3日、老夫婦は新居ごと跡形もなく消え失せた。 庭の草木は新しく植えたばかりの瑞々しさを残し、部屋のお茶はまだ温かく、布団も整えられたまま。 主人だけが、この世から忽然と姿を消したのだ。 警察が数日間捜索したものの、手がかりは一切なく、最終的に不可解な失踪事件として処理された。 だが地元の古株の住民は皆知っている。この予期せぬ大当たりは、贈り物ではなく、命を懸けた交換取引だったと。 大金を手にした直後に消えた理由とは?空き家の下に隠された真実とは? 当時誰も口にできなかった封印された真相を、今こそ完全に解き明かす。真実|裡の顔|真相|遺體発見|行方不明1.9萬字5 2 -
完結第13話
消えた母の 10 年地下室
1993 年、お盆の帰省途中で姿を消した若い母親―10 年後、地下室で衝撃の真実が明らかに! 隣に住む親切な青年が、彼女を長年地下室に監禁していた悪夢の物語。 幼い息子だけが地下室に隠れた母と遭遇し、守らなければならない秘密を抱える。 夫の不審な観察、祖母の疑念、犯人の焦り… 積もった疑惑がついに決定的な瞬間を迎える。 10 年間の監禁、脅迫、欺瞞が一気に暴かれる衝撃結末。 失われた家族の絆が、長い悪夢を乗り越えて再びつながるまでの全記録。裡の顔|真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 0 -
完結第13話
マカオに消えた花嫁
2010年4月、マカオへ新婚旅行に訪れた日本人夫婦・田中浩司と山田愛子は、ホテルに荷物を残したまま忽然と姿を消した。 最後に確認されたのは、観光地の監視カメラに映った2人の姿。部屋に争った形跡はなく、財布も荷物もそのまま。誘拐か、事故か、それとも自ら消えたのか――事件は真相不明のまま、12年という歳月に埋もれていった。 しかし2022年、1人の女子大生がSNSで見つけた写真が、凍りついた時間を動かす。 マカオの街で中国人女性と寄り添う中年男性。その顔は、12年前に失踪したはずの夫・田中浩司に酷似していた。 では、彼と一緒に消えた妻・愛子はどこへ行ったのか。 幸せな新婚旅行の裏で、あの夜、本当は何が起きていたのか。 SNSに映った“夫の顔”が、12年間隠されてきた衝撃の真実を暴き出す。ミステリー|真実|行方不明2.0萬字5 0 -
完結第13話
消えた23人の観光団
2025年9月29日、福岡に約2700人の団体観光客が一斉に降り立った。 その日を境に、日本各地で不可解な失踪が相次ぎ始める。タクシー運転手、配達員、宿泊施設の関係者――いずれも夜、一人で行動することの多い男性たちだった。 やがて糸島の海岸で発見された身体の一部が、事件の扉を開く。 捜査を進める刑事・鈴木健二は、失踪した観光客、黒いワゴン車、古い倉庫、医療機器販売会社、そして横浜港へ向かう冷凍コンテナという、ばらばらに見えた点を追い始める。 これは単なる失踪事件ではない。 観光の人波に紛れ、日本の空き倉庫や港を利用して動いていた国際犯罪組織。その裏には、人間を“商品”のように扱う恐ろしい取引が隠されていた。 救える命はまだ残っているのか。 そして、海へ消えた男と「王」と呼ばれる人物の正体とは――。 福岡から始まった小さな違和感は、やがて日本全体を揺るがす闇へとつながっていく。ミステリー|真相2.0萬字5 0 -
完結第13話
24年目の手紙
1978年、神戸の坂の町で、12歳の少年・健二が自宅前から忽然と姿を消した。 母・よし子が最後に見たのは、新しく買ってあげた真っ白なスニーカーを履き、嬉しそうに坂道を駆け下りていく息子の後ろ姿だった。 学校にも行かず、家にも戻らなかった健二。近所の証言では、彼は知らない男と笑いながらバスに乗っていたという。警察は「家出」と見なしたが、よし子だけは信じなかった。 息子は必ず帰ってくる。 そう信じて、よし子は24年間、古い家を離れず、毎年6月になると玄関に新しい白いスニーカーを置き続けた。 そして2002年の夏、アメリカから一通の書留が届く。 差出人の名前は――高橋健二。 そこに記されていたのは、24年前のあの日、少年を連れ去った人物の名前と、母が知らなかった残酷な真実だった。ミステリー|真実2.0萬字5 0