"消された登山日誌" 第7話
体がきくバランスを失い、崖の方へ倒れていく。
最に見えたのは、本の無表な顔だった。
そして恵子の体は、いへと落ちていった。
岩にぶつかり、の枝を折りながら、どんどんへ落ちていく。が裂け、リュックが体を引きずる。空と葉が何度も界ので回った。
やがて、数mの底で、恵子の体は止まった。
静寂が戻った。
鳥のさえずりだけが、何事もなかったかのように聞こえていた。
本は崖の縁にち、を見つめていた。
恵子の姿は、々に隠れて見えなかった。
本のは震えていた。自分が何をしてしまったのか、自分でも信じられなかった。
拒絶された屈辱とりが、瞬にして理性を失わせた。
本は周囲を見回した。
誰もいない。
この区はがない険しいルートだった。目撃者はいなかった。
本は呼吸をした。
そして、恵子が落ちた所へりるルートを探し始めた。
急な斜面を、の枝に掴まりながら慎にっていく。20以の登経験が、こんな形で役つとはわなかった。
約30分かけて、本は底にりった。
そこに恵子は倒れていた。
かなかった。
本は恐る恐るづいた。恵子の体を揺さぶってみる。反応はない。脈を確認した。何もじなかった。
恵子はすでに息をしていなかった。
本はずさった。
広告
自分は、取り返しのつかないことをした。
のが真っになった。
どうすればいい。
警察に自首すべきか。
だが、そうすればが終わる。20かけて築いてきたガイドとしての評判も、元からの信頼も、すべて失う。
本ので、恐怖と罪悪が激しくぶつかりった。
そして、恐怖が勝った。
誰にもられてはいけない。
この事実を永に隠さなければならない。
本は周囲を見回した。底はく、普通の登者が来る所ではなかった。さらに奥に隠せば、誰にも見つからないかもしれない。
本は恵子の体を、底のさらに奥の茂みへ運んだ。
きな岩と々に囲まれた、目につかない所だった。そこに恵子を横たえ、周囲の落ち葉や枝で覆った。
恵子のリュックも緒に隠した。
全ての痕跡を消すように、本はをかした。枝をね、落ち葉をかけ、岩に荷物を押し込んだ。
作業を終えた、本は恵子を見つめた。
数まで笑顔で話していた。の美しさにしていた。族に写真を見せたいと言っていた。
それが今は、たくなって横たわっている。
本は目を閉じた。
しかし、もう引き返せなかった。
自分のを守るためには、この秘密を墓まで持っていくしかない。
本は底から登り返した。
急斜面を必に登り、元の登に戻る。
広告
はで汚れ、は傷だらけだった。だが、それは登では珍しいことではない。
登に戻った本は、しばらく座り込んだ。息をえながら、これから何を言うべきかをので理した。
恵子が崖から落ちた。
必に探したが見つからなかった。
がて、界が悪かった。
そう言えばいい。
そう演じなければならない。
午5頃、本は8目のに到着した。
1で入ってきた本を見て、の管理は驚いた。
「本さん、お客さんは?」
本は息を切らしながら、震える声で言った。
「田さんが方になったんです。、険しい区で急に姿が見えなくなって……必に探したんですが、見つかりません」
管理は顔を変えた。
「すぐに警察に連絡しましょう」
本は頷いた。
「お願いします。私も探し続けます」
その夜、本はから警察に通報した。
黒話の受話器を握りしめ、震えた声を作って報告する。
「お客さんが方です。、険しい岩で姿が見えなくなりました。滑落した能性があります。すぐに捜索をお願いします」
翌朝、野県の岳救助隊がした。
佐藤刑事を含む捜査課の刑事たちも現に駆けつけた。本は捜索隊を案内した。
恵子が最に見えた所を示しながら、本は説した。
「この辺りで田さんの姿が見えなくなったんです。
私は必に呼びかけましたが、返事がありませんでした。もていて、界が悪かったんです」
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
嘘葬りの豆腐店
1991年、茨城の古い商店街で、豆腐屋の嫁・美香が突然姿を消した。 姑と夫が語ったのは、「男を作って夜逃げした」という話。幼い息子を置いて消えた母親として、美香の名は商店街で長く汚され続けた。 しかし6年後、借金による強制執行で高橋豆腐店が取り壊されることになる。誰も近づこうとしなかった裏手のボイラー室。そのコンクリートを掘り返した時、そこから現れたのは、色褪せたスカーフと小さな金の指輪だった。 男と逃げたはずの嫁は、なぜ自宅の床下にいたのか。 そして家族は、6年間何を隠し続けていたのか。 雨の夜に消えた母の名誉を取り戻すため、古い商店街の沈黙が少しずつ崩れ始める。ミステリー|行方不明1.9萬字5 0 -
完結第13話
消えた退院前夜
1991年5月、静岡県の総合病院で、退院を3日後に控えた43歳の女性・田中道子が忽然と姿を消した。 手術は無事に終わり、回復も順調。財布も保険証も病室に残されたまま、彼女だけが夜の病院から消えていた。 最後に確認されたのは、消灯時間の午後9時。翌朝、看護師がカーテンを開けた時、そこに道子の姿はなかった。 自ら出て行ったのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、病院の中で何かが起きていたのか。 家族は必死に行方を探し続けるが、手がかりは見つからないまま季節だけが過ぎていく。 そして8か月後、病院の監査で見つかった小さな異変が、すべてを変える。 消えた投薬記録。数の合わない睡眠導入剤。修正されたカルテ。 信じていた病院の奥で、道子に何が起きていたのか――。ミステリー|真相|行方不明1.9萬字5 0 -
完結第13話
長野中部山岳紅葉山カップル失踪事件
2019 年 10 月、韓国束草・雪岳山で忽然と姿を消した 20 代の恋人カップル。 山の監視カメラに最後の後ろ姿を残し、それきり跡形もなく消えてしまった二人。 大規模な山間捜索を何度も行ったものの、衣類の切れ端一つ見つからず、3 年間も謎のまま放置されていたこの失踪事件。 3 年後、排水溝の底から発見された一台の携帯電話。 本体に復元された記録の中に、たった 9 秒(原文 6 秒調整可)の謎の通話履歴が残っていたのです。 撮影した第三者の姿は監視カメラにも目撃談にも一切残らず、臨時インターネット電話番号からかかってきた不可解な電話。 通話直後、二人のスマホが同時に電源オフになる不可解な記録。 リュックの隠しポケットから出てきた手描き地図と謎のメモ「ここへ行けばある。17 時 25 分より前に渡るな」。 警察が調べても特定できない撮影者、地図に載っていない危険な山道、時系列が繋がる不自然な証拠たち… 長野(原文韓国束草に統一)の山に隠された、誰も想像できない真相とは? 年配の方も分かりやすく時系列順に整理した事件全貌、今すぐ全文を読んでみてください。真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 0 -
完結第13話
隠された十五年の物語
2005年、日本で誰も深く探ろうとしなかった不気味な過去がある。 生涯質素に暮らし、一文無しに近い老夫婦がいた。 一生懸命働き、大金とは無縁の日々を過ごしてきた二人に、思いがけない幸運が舞い込んだ。 閑古鳥が鳴くパチンコ店で、前代未聞の大当たりを出し、一夜にして大金を手に入れ、念願の一戸建てを購入したのだ。 苦労の末に手にした新居で、穏やかな老後が待っているはずだった。 だが誰も予想しなかった——引っ越してたった3日、老夫婦は新居ごと跡形もなく消え失せた。 庭の草木は新しく植えたばかりの瑞々しさを残し、部屋のお茶はまだ温かく、布団も整えられたまま。 主人だけが、この世から忽然と姿を消したのだ。 警察が数日間捜索したものの、手がかりは一切なく、最終的に不可解な失踪事件として処理された。 だが地元の古株の住民は皆知っている。この予期せぬ大当たりは、贈り物ではなく、命を懸けた交換取引だったと。 大金を手にした直後に消えた理由とは?空き家の下に隠された真実とは? 当時誰も口にできなかった封印された真相を、今こそ完全に解き明かす。真実|裡の顔|真相|遺體発見|行方不明1.9萬字5 2 -
完結第13話
消えた母の 10 年地下室
1993 年、お盆の帰省途中で姿を消した若い母親―10 年後、地下室で衝撃の真実が明らかに! 隣に住む親切な青年が、彼女を長年地下室に監禁していた悪夢の物語。 幼い息子だけが地下室に隠れた母と遭遇し、守らなければならない秘密を抱える。 夫の不審な観察、祖母の疑念、犯人の焦り… 積もった疑惑がついに決定的な瞬間を迎える。 10 年間の監禁、脅迫、欺瞞が一気に暴かれる衝撃結末。 失われた家族の絆が、長い悪夢を乗り越えて再びつながるまでの全記録。裡の顔|真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 0 -
完結第13話
マカオに消えた花嫁
2010年4月、マカオへ新婚旅行に訪れた日本人夫婦・田中浩司と山田愛子は、ホテルに荷物を残したまま忽然と姿を消した。 最後に確認されたのは、観光地の監視カメラに映った2人の姿。部屋に争った形跡はなく、財布も荷物もそのまま。誘拐か、事故か、それとも自ら消えたのか――事件は真相不明のまま、12年という歳月に埋もれていった。 しかし2022年、1人の女子大生がSNSで見つけた写真が、凍りついた時間を動かす。 マカオの街で中国人女性と寄り添う中年男性。その顔は、12年前に失踪したはずの夫・田中浩司に酷似していた。 では、彼と一緒に消えた妻・愛子はどこへ行ったのか。 幸せな新婚旅行の裏で、あの夜、本当は何が起きていたのか。 SNSに映った“夫の顔”が、12年間隠されてきた衝撃の真実を暴き出す。ミステリー|真実|行方不明2.0萬字5 0 -
完結第13話
消えた23人の観光団
2025年9月29日、福岡に約2700人の団体観光客が一斉に降り立った。 その日を境に、日本各地で不可解な失踪が相次ぎ始める。タクシー運転手、配達員、宿泊施設の関係者――いずれも夜、一人で行動することの多い男性たちだった。 やがて糸島の海岸で発見された身体の一部が、事件の扉を開く。 捜査を進める刑事・鈴木健二は、失踪した観光客、黒いワゴン車、古い倉庫、医療機器販売会社、そして横浜港へ向かう冷凍コンテナという、ばらばらに見えた点を追い始める。 これは単なる失踪事件ではない。 観光の人波に紛れ、日本の空き倉庫や港を利用して動いていた国際犯罪組織。その裏には、人間を“商品”のように扱う恐ろしい取引が隠されていた。 救える命はまだ残っているのか。 そして、海へ消えた男と「王」と呼ばれる人物の正体とは――。 福岡から始まった小さな違和感は、やがて日本全体を揺るがす闇へとつながっていく。ミステリー|真相2.0萬字5 0