"桜袴の女組長" 第9話
号も、刃物も、の争いも、裏切りも見てきた。組織を率いるとして、泣くことなど許されなかった。
けれど、娘のその言だけで、私は簡単に崩れそうになる。
「ありがとう、結」
私はそう言って、娘をく抱きしめた。
のが吹いた。
桜のびらが、私たちの周りをゆっくりとう。
破れた袴の袖にも、1枚のびらが乗った。私はそれをそっと指で取り、のひらに乗せた。
母が見ているような気がした。
お母さん、私は筋を通したよ。
あなたの教えを守ったよ。
のでそう呟くと、が優しく頬を撫でた。
まるで母が、何も言わずに頷いてくれたようだった。
に向かうを、私と結は並んで歩いた。
普通の親子として。
けれど私のには、もう1つの顔が静かに息づいている。
裏のを歩く島組の組としての顔。
娘を守る母としての顔。
その2つを、私はこれからも背負ってきていかなければならない。
それが私の選んだだった。
あのから、学の空気は目に見えて変わった。
入学式の翌週、結を学まで送っていくと、のにいた保護者たちが斉にこちらを見た。以なら、私のことなど誰も気にしなかった。むしろ礼子の取り巻きたちは、私たち親子を見つけるたびにさく笑っていた。
けれどその朝は違った。
私と目がった母親たちは、慌てたように会釈をした。
広告
には、骨にを空けるもいた。子どものを引きながら、私たちからし距を取るもいる。
怖がられている。
それは分かっていた。
私が何者なのか、あのにいたたちはってしまったのだ。
私はそれを望んでいたわけではない。結には普通の学活を送らせたい。そのために、ずっと表の顔だけできてきた。
けれど、礼子のようなから娘を守るためには、私の本当の顔を見せる必があった。
「お母さん」
結が私を見げた。
「みんな、なんか静かだね」
「そうね」
私はできるだけ穏やかに答えた。
「でも、結はいつも通りでいいのよ。お友達に会ったら、ちゃんと挨拶して、楽しく過ごしなさい」
「うん」
結はし緊張した顔をしながらも、のへ入っていった。
そのろ姿を見送りながら、私はく息を吐いた。
娘に余計な荷を背負わせたくない。
それでも、もう戻りはできなかった。
その以来、礼子は学に姿を見せなくなった。
最初の数は、体調良だと噂された。だがすぐに、彼女が自宅に引きこもっていることが分かった。娘の送り迎えものから見守るだけで、保護者の集まりにも切顔をさなくなった。
かつて礼子の周囲に群がっていた取り巻きたちも、彼女から距を置いた。
「あのとは、ただ学でりっただけで」
広告
「別に仲が良かったわけじゃないのよ」
そんな言い訳が、あちこちから聞こえてきた。
の関係など、いものだ。
礼子が権力を持っているとっていたから、彼女に従っていただけ。彼女が落ちた途端、誰もづかない。
私はそれをたいともわなかった。
裏の世界では、もっと骨なのひら返しを何度も見てきた。
建設にも、すぐに変化が起きた。
黒が直接、帳簿の確認に入った。
「姉さん、建設の帳簿ですが、かなり雑です」
あるの夜、黒は自宅の応接でそう報告した。
結が寝た、私は表向き普通の母親の顔をし、島組の組として黒と向かいっていた。
黒は黒いスーツを着たまま、丁寧に資料をテーブルへ並べた。分いファイルには、建設の資繰り、借入状況、公共事の受注記録がまとめられている。
「正は?」
私が尋ねると、黒はわずかに眉をかした。
「さなものはいくつか。ただ、こちらに逆らうほどの余力はありません。社はかなり怯えています」
「奥様は?」
「もほとんどしていないようです。あののことが相当効いたのでしょう」
黒の声は淡々としていた。
私は窓のを見た。
夜の庭は静かだった。結が植えたさなの苗が、かりので揺れている。
「建設への融資は続ける」
「よろしいのですか」
黒が静かに尋ねた。
私は頷いた。
「会社を潰せば、従業員とその族までに迷う。
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
閉ざされた玄関の暗証番号
田園調布の豪邸で暮らす田中勇気と妻・桜。勇気は一人暮らしになった母・澄子を思い、妹の弓とともに同居を始める。しかし、その優しさは次第に家族の境界線を曖昧にしていった。 勇気が海外出張中、桜は高熱で倒れながらも義母の来客対応を強いられる。初めて「できません」と拒んだ彼女に、澄子は怒りを募らせ、桜本人の意思を無視して荷物をまとめ、家から追い出してしまう。 夫に心配をかけまいと黙って耐える桜。しかし異変を感じた勇気は急いで帰国し、隠されていた真実を知る。 妻を守れなかった自分の過ち、そして母が家族への感謝を「支配する権利」と勘違いしていたことに気づいた勇気は、家族の在り方を見直す決断をする。 本当の家族とは何か。愛情と依存の違いを描く、再生と絆の物語。嫁姑|第二の人生|修羅場2.4萬字5 0 -
完結第14話
返されなかった合鍵
25年間、誰にも知られず借り続けられていた203号室。 夫の葬儀の日、見知らぬ女性から渡された一本の合鍵が、妻・千鶴の人生を大きく揺さぶる。 亡き夫はなぜ、家族に隠れて古い部屋を借りていたのか。 そこに残されていたのは、31本のカセットテープと、一人の少女の思い出だった。 最初は裏切りだと思った秘密。 しかし調べるほどに明らかになる、夫が25年前に背負った約束と、誰にも話せなかった苦悩。 守ることと、信じること。 家族を思う気持ちと、誰かを救おうとする気持ちは、時にすれ違ってしまう。 一つの合鍵から始まった真実の先で、千鶴が見つけたものとは――。人生逆転|相続|修羅場2.0萬字5 13 -
完結第12話
一万八千円の飯
自分の家族が経営する5つ星ホテルで、何気なく注文した一品の炊き込みご飯。 メニューでは1,800円に見えたはずなのに、会計明細には「18,000円」と記されていた。 帰国したばかりの後継者・小川優馬は、単なる表示ミスだと思い責任者を呼ぶ。だが、レストラン責任者は「社長が承認した価格です」と言い切った。 父が守ってきたホテルで、なぜ一杯のご飯が10倍の値段になっているのか。 優馬が調べ始めると、異常な価格変更、不可解な仕入れ、法人客への不自然な請求、そして継母・里見の影が浮かび上がっていく。 やがてその小さな違和感は、20年前に亡くなった実母・秋子の死、奪われた母方の財産、腹違いの弟の秘密、そして恋人だと思っていた女性の正体へとつながっていく。 始まりは、たった一杯の炊き込みご飯だった。 だが、その18,000円の明細は、運海ホテルに隠された20年越しの闇を開く鍵だった――。因果応報|修羅場1.7萬字5 0 -
完結第12話
復讐とんかつの逆転便
とんかつ弁当を注文した堀川琢磨の前に現れたのは、高校時代に自分を見下していた金持ち令嬢・柏木綾音だった。 かつて高級ブランドを身につけ、貧しい琢磨を笑っていた彼女は今、実家のとんかつ店を守るため、配達員として頭を下げていた。 「お前が配達?令嬢なのに?」 復讐心に火がついた琢磨は、自分の成功を見せつけるため、何度もとんかつ弁当を注文し続ける。 だが、届く弁当の味は想像以上だった。 そしてある日、綾音が差し出した冷凍とんかつの試作品が、琢磨の運命を大きく動かしていく。 過去の屈辱、消えない傷、落ちぶれた令嬢の謝罪。 復讐のつもりで始まった注文は、やがて小さな老舗店を救い、琢磨自身の孤独な人生まで変えていく――。因果応報|人生逆転|修羅場1.7萬字5 0 -
完結第11話
断髪新郎の逆転婚礼
抗がん剤治療で髪を失った彩佳は、唯一の家族である兄・健太の結婚式に出席することになった。 両親を亡くしてから、兄妹2人で支え合って生きてきた彩佳。兄の幸せを心から願い、母の形見のスカーフを巻いて式場へ向かう。 しかし、兄嫁の母・礼子は、そんな彩佳を見た瞬間、冷たい言葉を投げつけた。 「その頭で親戚席に座る気なの?」 病気の妹は縁起が悪い。式に出るな。兄との縁も切れ――。 追い詰められた彩佳の前に現れた健太は、笑顔のまま静かに言い放つ。 「では、新郎ごと帰りますか?」 その一言で礼子の顔色は変わった。 だが本当の反撃は、披露宴で用意されていた“新郎新婦、最初の共同作業”から始まる。兄弟姉妹|修羅場1.7萬字5 3 -
完結第11話
部外者会長の逆襲
営業部の新年会に、夫と一緒に出席した井上ゆかり。 しかし会場に着くと、用意されているはずの席はなく、課長の獅倉からは笑いながらこう言われた。 「今日は関係者だけで飲もうよ」 部外者扱いされ、夫婦そろって追い出されるように店を出たゆかり。だが店の外には、黒いセダンと秘書が待っていた。 「帰るから、車出して」 「会長、承知しました」 実はゆかりには、会社の誰も知らないもう一つの顔があった。 翌朝、課長から慌てた電話が入る。大型契約が突然保留になり、会社のサーバーからは、ただの嫌がらせでは済まされない重大な痕跡が見つかっていた――。因果応報|修羅場1.6萬字5 0 -
完結第12話
近道看板の逆襲
海の近い小さな村で、家族と農業を営む大平浩。 数年かけて育ててきたトウモロコシ畑が、ある日突然、何者かの車に踏み荒らされていた。畑の入口には、勝手に置かれた「国道への近道」の看板。何度撤去しても、立入禁止の表示を立てても、被害は止まらない。 やがて犯人は、入院中の村長の息子・光だと判明する。 「この村のものは俺のもの」 そう言い放つ光は、畑を道路のように使い続け、ついには浩の娘まで危険な目に遭わせる。警察に訴えても、相手が村長の息子というだけで話は曖昧に流されてしまう。 証拠がなければ、誰も動かない。 そう悟った浩は、畑に防犯カメラを設置し、光が自ら罠にはまる“ある看板”を立てることにした。 家族の畑を踏み荒らした男に待っていた、静かな因果応報とは――。因果応報|修羅場1.8萬字5 0 -
完結第12話
欠陥品と呼ばれた歌姫
13年前、妹・恵は一枚の置き手紙を残し、夫と幼い娘を捨てて姿を消した。 「愛良はいらない。子どもを産めないお姉ちゃんにでもあげれば?」 傷ついた姪を放っておけず、桃江は妹の元夫・高也とともに、愛良を育てる道を選ぶ。血のつながりではなく、毎日の朝食と小さな約束を積み重ねながら、三人は本当の家族になっていった。 それから13年後。 美容室で桃江は、突然失踪したはずの妹と再会する。昔と変わらず、桃江を見下し、愛良を侮辱する恵。 だが直後、桃江を迎えに来た夫と、制服姿の少女を見た瞬間、妹の顔色が変わる。 彼女が捨てたものは、もう二度と取り戻せない場所にあった――。兄弟姉妹|修羅場1.8萬字5 1285 -
完結第12話
近道看板の逆襲
海の近い小さな村で、家族と農業を営む大平浩。 数年かけて育ててきたトウモロコシ畑が、ある日突然、何者かの車に踏み荒らされていた。畑の入口には、勝手に置かれた「国道への近道」の看板。何度撤去しても、立入禁止の表示を立てても、被害は止まらない。 やがて犯人は、入院中の村長の息子・光だと判明する。 「この村のものは俺のもの」 そう言い放つ光は、畑を道路のように使い続け、ついには浩の娘まで危険な目に遭わせる。警察に訴えても、相手が村長の息子というだけで話は曖昧に流されてしまう。 証拠がなければ、誰も動かない。 そう悟った浩は、畑に防犯カメラを設置し、光が自ら罠にはまる“ある看板”を立てることにした。 家族の畑を踏み荒らした男に待っていた、静かな因果応報とは――。因果応報|修羅場1.8萬字5 1104 -
完結第11話
部外者会長の逆襲
営業部の新年会に、夫と一緒に出席した井上ゆかり。 しかし会場に着くと、用意されているはずの席はなく、課長の獅倉からは笑いながらこう言われた。 「今日は関係者だけで飲もうよ」 部外者扱いされ、夫婦そろって追い出されるように店を出たゆかり。だが店の外には、黒いセダンと秘書が待っていた。 「帰るから、車出して」 「会長、承知しました」 実はゆかりには、会社の誰も知らないもう一つの顔があった。 翌朝、課長から慌てた電話が入る。大型契約が突然保留になり、会社のサーバーからは、ただの嫌がらせでは済まされない重大な痕跡が見つかっていた――。因果応報|修羅場1.6萬字5 1852