みかん小説
本棚

"帰る場所を奪われた妻、4階で取り戻した人生" 第1話

 

「あんたの帰る所は、もうここにはないから」

たい属音の向こうから、義母の声が聞こえた。

私はマンションのエントランスにったまま、オートロックの操作盤をもう度見つめ直した。先ほどから何度入力しても、昨まで使っていた4桁の番号を受け付けず、赤いエラー表示だけが無に点滅している。

違えているはずはなかった。

このマンションにみ始めて10く、毎のように押してきた番号だ。指が勝に覚えているほど馴染んだ数字だった。

それなのに、自ドアはかなかった。

3、実で1暮らしをしていた母が突然倒れ、救急で病院へ運ばれた。臓がかった母はそのまま集治療へ入り、私はほとんど眠れないまま病院に付き添っていた。

ようやく般病棟へ移れることになり、私はほんのしだけ肩の力を抜くことができた。

母の着替えを取りにかなければならない。それに、自分の保険証や最限の活用品も必だった。

そのために急いで自宅へ戻ってきたのだ。

ところが、入で締めされた。

インターホンを押した私に答えたのは、義母だった。

「お義母さん、番号を変えたんですか?」

私が静かに尋ねると、向こうからで笑うような音が聞こえた。

「当たりでしょう。もうあなたに勝に入られたら困るもの」

広告

「私のでもあります」

ですって?」

義母の声がくなった。

「ここは主が建てたよ。あんたは誠と結婚したからませてもらっていただけでしょう。実のお母さんがそんな状態なら、そっちで暮らせばいいじゃない」

その、奥から夫の誠の声が聞こえてきた。

「母さん、もういいよ。俺が話す」

しして、インターホン越しの声が夫に変わった。

「そういうことだ、ゆみ。おはしばらく自分の実やせ」

まるで私が何かな問題を起こしたかのような言い方だった。

私は唇を噛む代わりに、度ゆっくり息を吸った。

「母の着替えだけでも取らせて。それから、私の保険証もにあるの」

夫はさく笑った。

「荷物ならで適当に送ってやるよ」

「適当にって……」

「どうせもう、ここには戻らないんだからな」

その直、通信が切れた。

私はしばらく操作盤のからけなかった。

エントランスのガラス越しに見えるロビーは、毎通っていた所だ。郵便受けも、エレベーターも、壁際に置かれた観葉植物も何つ変わっていない。

変わったのは、そこへ入る権利をに奪われたことだけだった。

普通なら泣き叫んでいたかもしれない。

ドアを叩き、「けて」と夫に頼んだかもしれない。

けれど私は何もしなかった。

鳴ることも、涙を見せることもせず、えた両をコートのポケットに入れた。

広告

そして夜く息を吐いた。

夫と義母は、勝ったつもりなのだろう。

母の入院で私がを空けた隙に鍵を変え、厄介な嫁を追いした。これで好きなようにできると考えているに違いない。

だが、2らなかった。

私がこの数か、夫の自然なを黙って見ていたことを。

そして、必な準備をすでに始めていたことを。

私はバッグからスマートフォンを取りし、連絡先をいた。

迷うことなく1つの番号を押す。

数回の呼びし音の、落ち着いた男性の声が聞こえた。

「はい、佐藤産です」

さん、夜遅くに申し訳ありません。ゆみです」

「ああ、奥様。どうされました?」

私はエントランスのたい壁にもたれた。

「例の件、めてください」

話の向こうが静かになった。

「夫の部の1つ……4階の戸、まだ売りにていますか?」

佐藤を置いて答えた。

「はい。奥様からご相談を受けた点で、の方へ渡らないよう話をめてあります」

「ありがとうございます」

私の声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。

、そちらへ伺います。契約の続きをお願いします」

このマンションは、もともと夫の父がく関わって建てた規模な建物だった。

の階の部が賃貸に回され、3階と4階にそれぞれきな戸がある。夫と義母と私が暮らしてきたのは3階だった。

3階の権利関係は、義父がくなったに複雑になっていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: