"50万円で嫁がされた私、6年後に見た父の姿" 第15話
解かれた呪縛とへの
「お父さん」
私の静かな呼びかけに、父が恐る恐る顔をげた。赤く腫らした目元に、い皺が幾にも刻まれている。
「このおは……受け取ります」
父の表に、微かな驚きと揺がった。
「千……いいのか……?」
「勘違いしないで」私は語気をめ、はっきりと釘を刺した。「お父さんを許したわけじゃないわ。このおをもらったからって、私のの苦しみが消えるわけじゃない。私が先になれたのは、佐々のお義父さんとお義母さん、そして博さんが私を信じて支えてくれたからよ。お父さんのこのおのおかげじゃない」
「……ああ。分かっている」
「でもね、このおを突っ返して『顔も見たくない』と叫んでちるのは、私がいつまでも過のみに縛られてきているのと同じことよ。私はもう、あのの無力な歳の娘じゃないの。自分のを、自分の志で選べるになったの」
私は通帳をき、最初のページに刻まれた「500,000」の数字を指先でなぞった。
「このから……麻紀の学の入学と、最初のの学費をしてあげて」
「えっ……!?」
麻紀が息を呑んで声をげた。父も信じられないものを見るように目を見いた。
「千、それはおのだぞ! おが使うべきだ!」
「麻紀は私の妹よ。あの子が自分の志で学びたいと願っているなら、余計なおの配なんかさせずに、全力で勉に集させてあげたいの。
広告
……女だからしろなんて連鎖は、私の代で完全に終わりにする。ふみ子さんが私にしてくれたことを、今度は私が麻紀にしてあげるの」
私の言葉に、母・よし子が元を押さえて泣き崩れ、麻紀は私の腕にしがみついて涙をボロボロとこぼした。
「お姉ちゃん……ありがとう……! 私、絶対に格する! 懸命勉して、お姉ちゃんみたいな派な先になるから!」
「うん。しっかり勉しなさい。困ったことがあったら、いつでも話してきなさい」
私は麻紀の背を優しく叩き、そして再び父に向き直った。
「残りの半分は、私が預かります。佐々に持ち帰って、これからの活のために、そして私を支えてくれたあちらの両親のために、私が自分の志で使いを決めます。……それでいいわね、お父さん」
父は々と腰を折り、両を膝についてをげた。
「……ありがとう、千。本当に……すまなかった。そして、派になってくれて……ありがとう」
その言葉には、かつてのとしての傲さは欠片も残っていなかった。娘の志を尊し、娘の決定に静かに従う、の老いた父親の姿だけがあった。
私は面に落ちていた産の袋を拾いげ、埃を軽く払って麻紀の机のに置いた。
「これ、みんなでべて。麻紀の好きなクッキーを買ってきたから」
「お姉ちゃん、もう帰っちゃうの……?」
広告
名残惜しそうに見つめる麻紀に、私は穏やかに微笑みかけた。
「ええ。も学があるし、向こうので、お義母さんと博さんが夕飯を作って待ってくれているから」
私が「向こうの」と言った、父は寂しそうに眉をげたが、何も言わずにただ度だけく頷いた。父も分かっていたのだ。私の本当の根が、すでにのいに、確固たる温もりとともにろされていることを。
「じゃあね、お母さん。麻紀、頑張るのよ。……お父さんも、体に気をつけて」
私は背筋を伸ばし、古い扉をくぐって実の敷をた。
駅へと続く初のを、私は確かな取りで歩き始めた。
見げる空は、どこまでも澄み渡るような青に染まり、初のが私の頬を優しく撫でていく。
、このを逃げるようにった、私のは凍てつくのようにたく、絶望のに閉ざされていた。
しかし、今の私の胸のには、点の曇りもない誇りとが満ちあふれていた。
奪われたは、の温もりと自らのによって取り戻した。
凍りついていた族の過も、痛みを乗り越えてしい未来へと渡すことができた。
私はもう、万円で売られたな娘ではない。
自分の志で教壇にち、自分ので未来を選び取っていく、の自した——藤崎千なのだ。
くから、私を待つあのの里へと連れ帰ってくれる列の汽笛が、初の並みに向かって力く響き渡っていた。