"50人ドタキャンで廃業寸前、そこへ現れた意外な客" 第14話
簾の向こうに咲く笑顔
初のよいが、町のを吹き抜けていく。
『居酒 鉄』の引き戸のには、今もを待ちわびる客たちの楽しげな話し声が響いていた。
「お父さん、元気をつけて」
テツの声に導かれ、内のがりの座敷に腰をろしたのは、リハビリを終えて無事に退院を果たした父親だった。髪は増えたものの、血はすっかり良くなり、の隅々を慨そうに見渡している。
「テツ……本当に、派にを守ってくれたんだな」
父親の節くれだったが、きれいに磨きげられたカウンターの目をおしそうに撫でた。
「親父が作ってくれた基礎があったからだよ。俺はただ、親父のと、このに来てくれるたちを裏切らないように必だっただけだ」
「ああ……いい顔になったな、テツ。おが会社を辞めると言ったは反対したが、違っていたのは俺の方だったようだ」
父親の目元に浮かんだ誇らしげな涙を見て、テツは胸の奥が温かいで満たされるのをじた。
計の針が午を指した。
「将、です!」
アルバイトのミキが元気に声をかける。
テツは父親にさく頷き、パリッとしたしい拭いをに巻き直すと、の表へた。
夕暮れの柔らかなの、染め直された紺の簾を力く掲げる。
並んでいた常連客やプロレスファンたちが、斉に笑顔で拍を送った。
「将、待ってたよ!」
「今も旨い酒、頼むぜ!」
「へい! いらっしゃいませ!」
テツの腹の底からの威勢のいい声が、町の夕空へとく響き渡った。
は、誰かを騙し、踏み躙ることでな優越を得ることはできるかもしれない。しかし、そんな砂の楼閣は、誠実さという本物の波が押し寄せれば、瞬にして跡形もなく崩れる。
約束を守ること。
相のために流した汗とを尊び、を込めて差しすこと。
信義という名の頑丈な台のに築かれた『鉄』の灯りは、今夜も町の片隅で、温かく、力く、集う々の笑顔を照らし続けていた。