みかん小説
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"4時20分で止まった遺品" 第19話

父の古い取引台帳に残っていた企業の社が、浩司の再起を聞きつけ、「松蔵さんの息子さんなら」と、極めてい精度を求される試作部品の注文をつ、持ち込んでくれたのだ。

浩司は最初の試作品を見事に納品し終えた、倉庫の入りの横に、真しいさな板を掲げた。

『松原精密』

浩司がぶりに、自らの腕本で属部品を削りすための作業だった。 メーカーが敬するようなのかかるロットの精密部品を引き受け、浩司は自ら図面を引き、旋盤のハンドルを握った。 苗は、綺麗に洗濯してアイロンをかけた父の古い作業着を、作業の壁に切に掛けた。胸の『松原精密』の刺繍は褪せていたが、確かな誇りを持ってそこに息づいていた。

父の周忌の朝。 浩司は修理された腕計を首に巻き、作業い引き戸をけた。 の引き締まった空気のに、切削油の懐かしい匂いと、属を削る清冽なりが漂っていた。

作業台の角には、苗がえたさな祭壇があり、恵が作った干し鱈と野菜のえ物が供えられていた。 祭壇の脇に、い封筒がつ置かれていた。

浩司が線を向けると、恵がはにかみながら、その封筒を父のへとそっと差しした。 学の格通だった。

、学費が払えずに度は入学を諦め、引きしの奥にしまい込んだ、あの同じ学の同じ学部だった。

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恵は昼は父の仕事を伝いながら、夜遅くまで猛勉ね、自らの力でもう格を勝ち取ったのだ。

「お父さん……」恵がし照れくさそうに尋ねた。「今度は、ってもいいんだよね?」

浩司は格通に取り、ゆっくりと広げた。の端をのひらでまっすぐに伸ばす。

「ああ」浩司は娘の目を見つめ、優しく微笑んだ。「今度は、自分のい切り使いなさい」

恵は格通を、祖父の写真ての隣にてかけた。 写真の歳の恵が、祖父の膝ので満面の笑みを浮かべている。

「おじいちゃん」恵は額縁のガラスを指先でそっと拭った。「私、また格したよ」

苗が汁椀の位置を直し、箸を揃えて置いた。その指先は、もう度と震えることはなかった。 浩司は皿のえ物を、箸の先で丁寧に細かく刻んだ。 かつて父の介護をしていた、毎晩欠かさずにっていたのと同じように。

は祭壇のに並び、度、げた。 浩司の額がについた。今度のは、たく湿ったコンクリートではなく、温かく乾いた無垢のだった。カビの匂いも、もうどこにもしなかった。

拝礼を終えた浩司は、正座したまま、しばらくの祭壇のに座っていた。 首の腕計が、静寂のでチク、タク、チク、タクと規則正しい音を刻み続けている。

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さく、しかし決して途切れることのないその音は、静かな作業にどこまでも澄み渡って響いていた。

その夜、浩司はいつもよりく布団に入った。 父を介護していた続けて眠れた夜など度もなかった。夜に何度も目を覚ます父の気配に怯え、父が旅ったもその習慣は抜けず、毎晩午になると自然と目が覚めて井を見つめていた。

しかし、その夜は違った。

苗が夜に台所へみに起きた、寝いたドアのを止めた。 浩司は、く、穏やかな寝息をてて熟していた。眉の皺は完全に消えり、らかな表を浮かべていた。 苗はドアを閉めず、かりをつけないまま、静かに台所へと戻った。

、浩司の首で、腕計の秒針が止まることなくみ続けていた。 針は午分を静かに通過し、希望に満ちたしい朝へと向かって、確かにを刻んでいた。

父が最に遺した本当の言葉は、百億円の塊に関するものではなかった。

――浩司、もうゆっくりお休み。

その温かな祈りだけが、息子のに、永となってき続けていた。

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