みかん小説
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"消えた妻と青いマグカップ" 第9話

「隠されてなかったんです」

紗季は言った。

「お母さんもお父さんも、普通に話してくれてました」

の胸が、

し痛んだ。

紗季が「お母さん」と呼ぶ相は、

自分ではない。

当たりだった。

「探そうとったのは最です」

紗季は続けた。

「父が、母の荷物を理してたら類がてきて」

そこに、

森川美という名があった。

「すぐ探したの?」

が聞く。

「いいえ」

紗季は笑った。

くらい、そのままでした」

「どうして?」

「怖かったから」

その言葉に、

は顔をげた。

紗季は続けた。

「会いたいのか、自分でも分からなかったんです」

実の母親。

そう聞くと、

何か特別ながあるようにわれる。

でも紗季には、

育ててくれた母親がいた。

族もあった。

を探すことが、

その母親を裏切るような気もした。

「でも妊娠して」

紗季は、

自分のお腹に触れた。

まだからは、

それほど目たない。

「急に気になったんです」

「何が?」

「産むって、どんなじなんだろうって」

は息を止めた。

紗季は、

を責めなかった。

「どうして放したんですか」

とも聞かなかった。

それがかえって、

には苦しかった。

しばらくして、

紗季が言った。

つだけ聞いてもいいですか」

「うん」

「嫌だったら、答えなくてもいいです」

は頷いた。

紗季は、

コーヒーカップを両で包んだ。

「私がまれた

そこで度、

止まった。

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「嬉しかったですか?」

は、

何も言えなかった。

嬉しかった。

そう答えればいい。

事実だった。

まれた瞬

さな顔を見た

腕に抱いた

確かに嬉しかった。

でも同に、

怖かった。

この子を放すが来ること。

自分が育てられないかもしれないこと。

周りから、

別のを選ぶよう求められていること。

全部が緒だった。

だから、

「嬉しかった」

だけでは、

嘘のようにえた。

逆に、

「怖かった」

と言えば、

紗季を傷つける気がした。

の目から、

涙が落ちた。

紗季は急かさなかった。

い沈黙のあと、

はようやく言った。

「嬉しかった」

声が震えた。

「すごく」

それから、

続けた。

「でも、怖かった」

紗季は黙って聞いていた。

「嬉しくて、怖くて、したくなくて。でも、自分で育てるって言い切れるほど何も持ってなくて」

は、

テーブルので両を握った。

「ごめんなさい」

紗季はすぐに首を振った。

「謝ってほしくて聞いたんじゃないです」

「でも」

りたかっただけです」

「何を?」

紗季は、

し笑った。

まれた回でもんでもらえたのかなって」

は、

もう度泣いた。

んだよ」

今度は、

迷わなかった。

「あなたを抱いた、本当に嬉しかった」

紗季は、

さく頷いた。

「それなら、よかったです」

会話は、

く続いた。

紗季は父親のことも聞いた。

は、

分かる範囲で答えた。

ただし、

きれいな話にはしなかった。

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若かった。

かった。

まで守れなかった。

自分も署名した。

「誰かに取られたわけじゃない」

は言った。

「最に決めたのは、私だから」

紗季は、

何も言わなかった。

帰り際。

さな封筒を美へ渡した。

には、

超音波写真が入っていた。

「これ」

「いいの?」

枚もらったので」

は、

写真を持ったままけなかった。

紗季が言った。

「次に会うかどうかは、まだ分かりません」

「うん」

「でも、今は来てくれてありがとうございました」

「こちらこそ」

また、

げた。

まで、

紗季は美を「お母さん」と呼ばなかった。

も、

それを望まなかった。

へ戻った美は、

席に座った途端、

泣き始めた。

藤田は何も聞かなかった。

分ほどして、

ようやく言った。

「松本へ戻りますか」

は、

首を横に振った。

「まだ無理」

「先輩に話だけでも」

「できない」

「でも」

「今帰ったら」

は、

超音波写真を握った。

「全部なかったことにして、普通にに入っちゃうとう」

「それじゃだめなんですか」

「だめ」

は言った。

「もう、なかったことにしたくない」

藤田は、

野県部のさな宿へ送った。

で何度も、

へ連絡するよう言った。

は、

には」

と答えた。

だが翌朝になっても、

話できなかった。

藤田は、

「これ以は無理です」

と言った。

「先輩、もう探してます」

は顔をげた。

「警察にもってる」

「……警察?」

「俺も連絡が取れないことになってる」

藤田は、

自分の携帯を見た。

からの着信が何件も残っている。

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