"消えた妻と青いマグカップ" 第5話
健は、
が分からなかった。
「俺は夫ですよ」
「分かっています」
「だったら」
「さん」
刑事は落ち着いて言った。
「奥様は成です。ご本が自分のでそこにいると確認できました」
「藤田に脅されてるんじゃ」
「その能性も確認しました」
「じゃあ?」
「本は否定しています」
健は子に座った。
「帰りたくないってことですか」
刑事は答えにくそうにした。
「なくとも、今はで考えたいと」
その言葉が、
番きつかった。
誘拐なら、
藤田を責めればいい。
事故なら、
妻を探せばいい。
だが、
美は無事で、
自分ので帰らない。
それだけは、
誰のせいにもできなかった。
*
藤田が警察署をたのは、
昼だった。
健は駐まで追った。
「待て」
藤田が振り返った。
「先輩」
「話せ」
「何をですか」
「全部だよ」
健はい声で言った。
「おと美、いつからなんだ」
藤田の顔が固まった。
「何がです」
「惚けるなよ」
「違います」
「で泊して、妻が帰らなくなって、それで違う?」
「本当に違います」
「じゃあ何でおがってて、俺がらないことがあるんだよ」
藤田は何も言わなかった。
それが、
健には肯定に見えた。
「俺が京にいる、何回会ってた」
「仕事で頼まれただけです」
「美に?」
「先輩にもです」
「それだけか」
「はい」
「じゃあ何で、潟まででく」
藤田は唇を噛んだ。
*
健はさらに言った。
「おに頼んだよな」
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藤田が顔をげる。
「何度も」
——俺がいない、美を頼む。
自分で言った言葉だった。
「俺、おならだとってた」
藤田の表が苦しくなる。
「先輩」
「友達だとってた」
「ってます」
「だったら言えよ」
藤田はしばらく何も言わなかった。
やがて、
さく息を吐いた。
「俺から話していいことじゃないんです」
健は笑った。
「まだそれ言うのか」
「美さんのことです」
「美は俺の妻だ」
「だからって」
藤田の声が、
初めてしくなった。
「奥さんの過まで、全部先輩のものじゃないでしょう」
健はかなかった。
*
数秒。
とも何も言わなかった。
藤田が先に目を逸らした。
言いすぎたとったのかもしれない。
だが健には、
別の言葉だけが残った。
過。
「何の話だ」
藤田は答えない。
「美の過って何だ」
「先輩」
「俺がらないことを、おはってるのか」
沈黙。
それで分だった。
健の顔から、
りがしずつ消えた。
代わりに、
別の怖さがてきた。
「いつから?」
藤田はい声で答えた。
「くらいです」
「……」
健は繰り返した。
。
自分の妻と、
自分の友が、
自分にだけ言わない何かを共していた。
「何なんだよ」
健の声が震えた。
「美は何を隠してるんだ」
藤田は目を閉じた。
そして言った。
「それだけは、美さんから聞いてください」
健は、
初めて藤田を殴りたいとった。
そのの午、
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健は松本の自宅へ戻った。
のは、
と何も変わっていない。
美の靴。
美の。
読みかけの雑誌。
蔵庫のには、
曜にで買った豆腐が残っている。
それなのに、
の持ち主だけが帰ってこない。
健はソファに座った。
目のには、
つのコーヒーカップ。
警察から触っていいと言われたが、
まだ片づけられなかった。
*
午過ぎ。
藤田から話があった。
健は度、
画面を見たままなかった。
度目。
ようやく取った。
「何だ」
『先輩』
「用がないなら切るぞ」
『し会えませんか』
「話す気になったのか」
藤田は答えなかった。
健は、
自宅へ来るように言った。
*
分。
藤田は玄関にっていた。
曜と同じ所だった。
美を連れてた男が、
今度はで戻ってきた。
「入れ」
健は言った。
藤田は靴を脱いだ。
リビングへく。
青いマグカップを見て、
瞬目を止めた。
「座れよ」
は向かいった。
健は何もさなかった。
コーヒーも。
も。
*
藤田がをいた。
「先輩に言うべきか、ずっと迷ってました」
「も?」
「違います」
「何が違う」
「にったから、俺が言うことじゃないとってました」
「何を」
藤田は黙った。
健が机を叩いた。
「もういい加減にしろ」
藤田が顔をげた。
「美さんには」
度、
言葉を切った。
「娘さんがいます」
健は、
しばらくが分からなかった。
「何?」
「娘です」
「誰の?」
藤田は答えた。
「美さんのです」
*
健は笑った。
最初は、
冗談だとった。
笑うしかなかった。
「何言ってんだ、お」
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