みかん小説
本棚

"ママ卒業の代償" 第1話

、私は76歳になる。

今から16、私は夫と2で静かな毎を送っていた。くの保育園でく調理の仕事をしていた私はすでに定を迎え、でお菓子を焼いたり、庭の入れしたりしながら過ごしていた。

夫は私より2歳だった。見た目だけなら、いかにも昭の頑固親父という顔をしているのだけれど、実際には倍涙もろく、孫の発表会を見ただけで目を押さえるようなだった。

はまだタクシー会社の所として現役で働いていた。朝は私よりて、夜になると「今も酔っ払いの客が変だった」などとぼやきながら帰ってくる。

私たち夫婦には、息子の健太郎がいる。

38歳だった健太郎は都内の会社に勤めていて、28歳の、同じ会社で働いていた美奈子さんと結婚した。美奈子さんは健太郎より4歳で、初めて会ったから背筋の伸びた、いかにも仕事のできそうな女性だった。

ちもっていて、話し方もしっかりしていた。私は最初、し緊張したくらいだ。

「いいを見つけたわね」

結婚が決まった頃、私は何度も健太郎にそう言った。

美奈子さんは仕事にも子育てにも真面目ななのだとっていた。何事もきちんとやりたい性格で、娘のひながまれてからも、について細かく考えていたようだった。

広告

だから私は、なくともその頃までは何も疑っていなかった。

私たち夫婦の暮らしがきく変わったのは、ひなが7歳のだった。

休みが終わってしばらくした頃、美奈子さんから話がかかってきた。

「お義母さん、しお願いがあるんです」

いつもならるい声なのに、そのは妙によそよそしかった。

「どうしたの?」

「ひなを、しばらくそちらで預かっていただけませんか」

私はわず聞き返した。

「ひなを?」

「学しトラブルがあったみたいで……最、登を渋るようになってしまって。私もできる限り頑張ったんですけど、今の環境ではちょっと難しいとうんです」

でトラブル。

その言を聞いただけで、私は胸がざわついた。

「いじめなの?」

「そういうことではなくて……本し疲れているみたいなので」

美奈子さんは詳しく話そうとしなかった。

話を切った、すぐに健太郎にも確認した。

「どういうことなの?」

けれど息子も歯切れが悪かった。

「今は美奈子の言う通りにしてやってくれないかな。ひなが環境を変えれば落ち着くかもしれないから」

それしか言わなかった。

もちろん戸惑いはあった。

それでも私たちは、ひなを受け入れることにした。

正直に言えば、孫と緒に暮らせることをし嬉しいとっていた部分もある。

さい頃から、ひなはよく私たちのへ遊びに来ていた。

広告

保育園の頃は庭をり回り、だらけので、

「バーバ、見て。ダンゴムシ!」

と得そうに見せてくるような子だった。

の入学祝いをしたにはしお姉さんらしくなり、ランドセルを背負って何度も鏡を見ていた。

だから私は、そのも数週もすれば元気になるのだとっていた。

ところが、美奈子さんに連れられて玄関へ入ってきたひなを見た瞬、私は何も言えなくなった。

「ひな。久しぶりね」

声をかけても、返事がない。

さな肩からランドセルをろし、ひなはただを見つめていた。

笑わない。

りもしない。

泣きもしない。

まるで顔からだけを抜き取られてしまったようだった。

「ひな、おじいちゃんも今く帰ってくるって」

それでも反応はない。

美奈子さんはそんな娘を見て、ため息をついた。

「こんなじなんです。何を言っても反応しなくて」

その言葉のたさに、私はし引っかかった。

けれどそのは、

きっと母親も疲れているのだろう。

そう考えることにした。

「じゃあ、お義母さん。お願いします」

美奈子さんはひなのを撫でることもなく帰っていった。

玄関の戸が閉まったも、ひなはそこにったままだった。

「ひな」

私はしゃがみ、できるだけ目線をわせた。

「今からしばらく、ここがおよ。お腹が空いたら言ってね」

さく頷く。

それだけだった。

夕方、夫が帰宅した。

「ひな!」

いつもならひなを見た途端に顔が崩れる夫も、そのの姿には驚いたらしい。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: