"止まったカードと空の家" 第1話
「じゃあ、ってくるね。お産、何がいい?」
旅当の朝、夫の正文はきなスーツケースを引きながら、まるでのように浮かれていた。玄関の鏡で何度も髪型をえ、いつもよりしだけ価なまでつけている。
私はダイニングテーブルのに座り、できるだけ普段通りの表でその姿を眺めていた。
「何でもいいよ。気をつけてね」
「うん。会社の連とだから、そんなにゆっくりできないとうけど」
「そうなんだ」
もちろん、全部嘘だった。
正文がこれから向かう先に、会社の同僚などもいない。待っているのは、私が代から親友だとっていた美津だった。
しかもこれは、ただの事やの密会ではない。
1泊2の浮気旅だ。
私はすでに旅先も宿泊先も、2がどこで待ちわせるのかまで把握していた。それでも何もらない妻を演じながら、笑顔で夫を送りした。
「じゃあ本当にってくるよ」
正文は私の頬へ軽く触れようとした。
私は自然に顔をそらし、代わりに玄関のドアをけた。
「遅れるんじゃない?」
「あ、そうだな」
自分の浮気旅にになっている正文は、私の態度のさな変化になど気づかなかった。
「ってきます」
「ってらっしゃい」
ドアが閉まる。
廊をスーツケースの輪が転がっていく音がざかり、やがて完全に聞こえなくなった。
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私はしばらく玄関のにっていた。
しくはなかった。
もう涙もなかった。
数週までなら、正文の背を見るだけで胸が苦しくなったかもしれない。けれど今は、議なほどがえていた。
計を見る。
午812分。
予定通りだ。
私はきく息を吸い込み、リビングへ向かって声を張った。
「あやー!」
すぐに子供部から、どたどたと軽な音が響いてくる。
「はーい!」
10歳の娘、あやが顔をした。
「引っ越すよ」
その瞬、あやの顔がぱっとるくなった。
「やったー! やっとしいおにける!」
さな両をげ、ぴょんとねる。
その無邪気な笑顔を見ていると、ここ数週の張り詰めた気持ちがしだけほどけた。
「荷物、本当にできてる?」
「もちろん!」
あやは得げに胸を張った。
「ママに言われた通り、パパが寝たにしずつまとめたよ。押し入れの奥に全部隠してある!」
「よく頑張ったね」
「だって、パパにばれたら作戦失敗するんでしょ?」
あやは声を潜め、いたずらっぽく笑った。
私はわず吹きした。
まだ10歳なのに、ずいぶん頼もしい。
「そう。今はとの勝負だからね」
「引っ越しさん、何?」
「あと1くらい」
「じゃあ私、最のチェックする!」
あやは元気よく自へ戻っていった。
そのろ姿を見送りながら、私は改めて部を見回した。
族3で暮らしてきた賃貸マンション。
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結婚してから何も、この所で正文と過ごした。
あやがさかった頃、初めて歩いたのもこのリビングだった。
族で誕を祝い、をした娘を2で病し、休には3でに寝転びながら映画を見たこともある。
幸せだったまで嘘だったとはわない。
なくとも私は、本気で族を切にしていた。
だからこそ、正文がやったことを許せなかった。
夫婦として私を裏切っただけなら、をかければまだ気持ちの理ができたのかもしれない。
けれど正文は、私の親友と浮気した。
そして私の名義のクレジットカードを盗み、浮気相との事や買い物に使っていた。
私たち夫婦が娘の将来のために貯めてきたおを、自分たちの遊びに流していたのだ。
その事実をった瞬。
私ので何かが完全に切れた。
「あや」
「なに?」
部の奥から返事がする。
「今で全部終わらせようね」
しがあった。
それから娘の声が返ってきた。
「うん。ママとしいで暮らす」
私は静かに頷いた。
夫が浮気旅を楽しんでいるに、私はこのをる。
私と娘の荷物は居へ。
正文の荷物は――別の所へ送る。
そして最に、もうつだけやることが残っていた。
私はスマートフォンをに取り、ある番号へ話をかけた。
正文が旅先で困り果てることになるとは、このの彼はまだ何もらなかった。
私は、34歳。
医療用品を扱うチェーンでパート社員として働いている。