"12年目の虫かご" 第1話
1990代半、812の朝。本の部方にあるのさなは、朝から真のいに包まれていた。の斜面からりてくるにもすでにが混じり、のあちこちではセミの鳴き声が途切れることなく響いていた。
午8頃、の入にある古い雑貨のへ、5の子供たちが次々と集まってきた。全員が同じにみ、同じ学へ通う同級で、そのは朝からへ虫取りにく約束をしていた。
5のにいたのは、10歳の翔太だった。都会でまれ育っていたが、休みになるたびに父親の実があるこのへ戻り、元の子供たちとや川を駆け回っていた。
翔太は活発で好奇がく、クワガタやカブトムシがいそうなを見つけるのも得だった。友たちのでは、いつのにか自然と先につになっていた。
そのも翔太は、しい虫かごと網を持っていた。首には、父親が都会で買ってくれた子供用の腕計がはめられ、朝のを受けてさな文字盤がっていた。
翔太の親友も、朝から嫌が良かった。兄から誕に買ってもらったという真っ赤な運靴を、その初めて履いてきたからだった。
「見てよ。まだ全然汚れてないだろ」
そう言って片をへすと、の子供たちが笑いながら覗き込んだ。い靴紐も赤い布もまだ真しく、へ入ればすぐにだらけになるとからかわれても、は得そうに笑っていた。
広告
雑貨を切り盛りしていた田巻文という老女は、先ではしゃぐ子供たちを眺めながら、えたラムネを5本取りした。
「のは暑いからね。無理しないで、ちゃんと休みながらくんだよ」
子供たちはそれぞれラムネを受け取り、々に礼を言った。瓶のではビー玉が涼しげな音をて、朝の通りには子供たちの笑い声が響いた。
「夕方までには帰るよ」
翔太はそう言ってを振った。
5は雑貨のをれ、の奥へ続くを歩いていった。途にはの本が所する林と作業があり、その脇を抜ければ、子供たちが「虫の森」と呼んでいたへ続く細いがあった。
文は先から、その背をしばらく見送っていた。
しい虫かご。
網。
赤い運靴。
そして、朝にる翔太の腕計。
5はふざけいながら角を曲がり、やがて々の向こうへ姿を消した。
それが、の々が5を見た最の姿になった。
こので最もきなと林を所していたのは、翔太の父親の実だった。何代もから続く旧で、では「本」と呼ばれ、そのをらない者はいなかった。
翔太の父・悟は、そのの男としてまれた。幼い頃から成績が良く、をて学へみ、医師となった、都会の総病院で科部にまで昇していた。
にとって悟は誇りだった。
広告
の入には、彼の功績を称える名入りの掲示まで残されていた。
そして悟には、翔太という1息子がいた。
本の々にとっても翔太はいずれを継ぐであり、祖父母からがられていた。休みにへ戻ると、所のたちまで「先の息子が帰ってきた」と声をかけた。
しかし、悟には2歳の弟がいた。
夫、42歳。
兄が都会で成功する方、夫はに残り、が所する林やの管理を任されていた。自治会の集まりにも顔をし、所の老の相談にも乗るため、表向きは穏やかで面倒見のいい男としてられていた。
だが、その暮らしの裏側は、たちが像するものとはきく違っていた。
夫は数から競馬や賭け事にのめり込んでいた。負けを取り返そうとして借をね、いつのにかその額は数千万円に膨れがっていた。
林から得られる収益では、借の利息を支払うだけでも苦しい。
そんな、本から相続についてらせるが届いた。
お盆休みに悟が帰省するのをに、く曖昧になっていたと林の分配を理する。その内容を読んだ夫は、しばらくから目をすことができなかったという。
主な林のくは、男である悟の系へ引き継がれる予定だった。