"車椅子妻の断罪" 第3話
そので、加奈は1つの異変に気づいた。
入院直には予定されていたはずのリハビリが、いつのにか止されていたのだ。
枕元に貼られていた理学療法の予定表も消えていた。担当の理学療法士が病を訪れることもなくなっている。
加奈は薬の量を減らすのことだったため、病院側から説を受けたのかどうかさえいせなかった。
その疑問の答えは、真夜に現れた1の女性によってらかになった。
健が帰ってから4ほど経った夜、病の扉が静かにいた。
を着た30代の女性が顔をのぞかせる。
「鈴加奈さん。起きていらっしゃいますか」
女性は夜担当の理学療法士、佐藤美咲と名乗った。
「夜勤のカルテを確認していて、気になることがありました。しだけの状態を見せていただけますか」
加奈が頷くと、美咲はブランケットをめくり、両の筋肉を丁寧に触診し始めた。
太ももから膝、ふくらはぎ、首へと指を滑らせ、筋肉や神経の反応を確かめていく。
の裏を押した、美咲の指が止まった。
加奈のの親指が、ほんのわずかにいたのだ。
「今、の指がきました」
美咲は顔をげ、加奈の目を見つめた。
「神経が完全に失われたわけではありません。まだきていて、回復しようとしています」
加奈は自分の先を見ろした。
広告
覚はほとんどない。それでも、自分のとは関係なく指が反応したという事実が胸をくした。
しかし美咲は、続けていがけないことを尋ねた。
「加奈さん。ご自でリハビリを拒否したことはありますか」
「ありません」
「治療に自傷為をしたことは?」
加奈は首を横に振った。
美咲は周囲を確認するように扉へ目を向け、声を潜めた。
「ご主が担当医へ何度も報告しているんです。奥様がリハビリのたびに拒絶し、治療に自傷為まで見せると」
加奈は言葉を失った。
「その報告を受けて、病院は公式のリハビリをすべて止しています。私もカルテを理していて自然だとい、直接確認に来ました」
健は財産を奪うだけでは満していなかった。
加奈の体が回復する能性さえ、嘘によって奪おうとしていたのだ。
布団のに置かれた加奈のが震え始めた。
「私のは……また歩けるようになりますか」
美咲は軽々しい希望をにしなかった。
「神経の反射が戻っているのは確かです。ただしくかしていなかったため、筋肉はかなりっています」
「能性はありますか」
「毎、根気よく刺激と訓練を続ければ」
美咲は加奈のへ自分のをねた。
「はかかります。でも能性はあります」
その夜から、2だけの秘密のリハビリが始まった。
広告
毎晩11。健が帰り、病棟が静かになるのを待って、美咲が病へやってくる。
照を落とし、ベッド脇のさな補助灯だけを頼りに訓練を続けた。
最初はの指1本さえかせなかった。
ので「け」と命じても、何の反応も返ってこない。美咲がの裏をく押し、神経へ刺激を与える。
加奈は額に汗を浮かべ、歯をいしばった。
声をげてはいけなかった。夜勤の護師にられれば、健のへ入る能性がある。
3が過ぎ、4が過ぎた。
5目の夜、美咲がの裏を押していると、親指がゆっくりと曲がった。
ほんの数ミリだった。
しかし今度は、加奈自がその覚を捉えた。
んでいたとっていた神経から届いた、最初の返事だった。
加奈の目から涙があふれた。
音もなく頬を伝い、枕へ染み込んでいく。
美咲も加奈のを握ったまま、顔を伏せた。
それから訓練はしずつんだ。
の指をかすことから、首をわずかに回すことへ。首から膝へ力を伝え、太ももの筋肉を収縮させる。
誰にもられない暗ので、加奈のはしずつ目を覚ましていった。
ある夜、訓練を終えた直に、廊から健の声が聞こえた。
来るはずのないだった。
病の扉がくまで、3秒しかなかった。
加奈は布団をかぶり、照ったから力を抜いた。目を閉じ、呼吸をゆっくりとえる。
扉がき、健が入ってきた。
彼はベッドの横にち、加奈を数秒見ろした。
加奈の臓は、元で鳴っているように激しく脈打っていた。