"車椅子妻の断罪" 第2話
両の覚は失われている。今歩けるようになるかは分からない。
それまで仕事筋できてきた加奈の世界は、そのから療養病院の4階にある病へ閉じ込められた。
夫の健は、らせを受けるとすぐに病院へ駆けつけた。
護師のでは目に涙を浮かべ、医師には何度もをげた。見いに来たたちのでは加奈のを握り、声を詰まらせながら語った。
「妻が治るまで、私にできることは何でもします」
病院の職員たちは、健を献な夫だとった。
「あんなに奥さんいのは珍しいですね」
廊では、そんな声まで聞かれた。
しかし面会者がいなくなり、病の扉が閉まると、健の態度は変わった。
加奈に話しかけることもなく、病の隅にあるソファへ座り、スマートフォンを眺める。加奈が喉の渇きを訴えようとすると、差しをの届かない所へ移すことさえあった。
そして事故から1かほど経った夜、健はついに本性を現した。
その、加奈は激しい痛みに耐えきれず、病院から処方されたい鎮痛剤と眠薬を用していた。
薬が全に回り、識がいのへ沈んでいく。まぶたは鉛のようにく、指先もかせなかった。
消灯、病の扉がゆっくりといた。
健だった。
彼は靴音をてないように歩き、片に類の束、もう片方のに赤い朱肉を持っていた。
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加奈はく目をけた。界はぼやけ、夫の輪郭さえのにいるように揺れていた。
声をそうとしても、喉からかすかな息しか漏れない。
健はベッドの横へ子を寄せ、類を広げた。
建築事務所の経営権を移転する委任状。座にある商業ビルの売買契約。産管理権限を健へ渡すための類。
健は加奈のを掴み、親指に朱肉を付けた。
そして1枚ずつ、類へ指印を押させていった。
加奈の腕は夫にかされるまま、のをき来した。赤い指印が類へ残るたびに、自分のがしずつ奪われていく。
それでも体はかなかった。
「や……めて……」
喉から漏れた声は、うわ言にすらならなかった。
最の類へ指印を押し終えると、健は加奈の元に顔を寄せた。
「どうせも使えない体なんだ」
くたい声だった。
「識までまともじゃないなら、俺が代わりに処理してやるよ。おが築いたものは、これから俺がもっと価値のあるものにしてやる」
健は唇を加奈のへづけ、囁いた。
「だから、おは眠っていろ」
その言葉は、薬に沈んだ識の底まで届いた。
健が類を片付け、病をたも、加奈は眠れなかった。
夜けくになって薬の作用がまり、識が徐々に戻ってくる。ぼんやりしていた記憶の断片が、しずつつながった。
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朱肉。類。夫に握られた自分の指。
そして元で囁かれた言葉。
――おは眠っていろ。
加奈は井を見つめた。
窓の隙から差し込む朝のは、何の慰めにもならなかった。
30代の頃から設計図を引き、現へ通い、15以かけて築きげた商業ビル。それらが薬でけないに、夫のへ渡ろうとしていた。
その、加奈ので何かが変わった。
回診に来た医師へ、彼女ははっきりと告げた。
「先。鎮痛剤と眠薬の量を減らしてください」
「ですが、痛みがくなる能性があります」
「痛みはします。識を失うことの方が、今の私には怖いんです」
医師は加奈の希望を受け入れ、薬を段階に減らすことにした。
そのの午、健は束を抱えて病へ入ってきた。
廊に護師がいるは、配そうな顔で加奈の額を撫でる。しかし扉が閉まると束を机へ放り、スマートフォンを取りした。
加奈は目を半分閉じ、薬に酔った患者を演じながら、その指のきを見つめていた。
夫はまだ気づいていない。
自分が何も分からない妻ではなく、すべてを見ている敵のにっていることを。
加奈が無力な患者を演じ始めてから、1週が過ぎた。
昼はぼんやりと井を見つめ、話しかけられても反応が遅いふりをする。健が病へ来れば、目を半分閉じ、薬で識が曖昧になっているように見せた。
だが夫が帰ったは、のでそのの来事を何度も理した。