"大正、子守奉公の少女" 第15話
いと写真
になると、旅順の敷の庭にいアカシアのが咲いた。朝、窓をけると、甘いりがに乗って入ってくる。私は最初、台所で誰かが菓子を作っているのかとった。庭へて見げると、枝にさながになって揺れていた。
故郷の畑で嗅いだやの匂いとは違う、いのの匂いだった。
男の子はの名を得そうに教えてくれた。女の子は落ちたを拾って私ののひらにのせ、「お母様に見せよう」と言った。私はと緒に庭を歩き、落ちたを踏まないようにした。
かつて赤ん坊を背負って何も歩いた私が、今は子どもとを眺めながら歩いている。仕事には違いなかったが、その違いが嬉しかった。
正の、本できな震があったというらせが届いた。最初はい噂だけで、どこがどれほど被害を受けたのか分からなかった。やがて港の方で写真が掲げられ、聞には焼けた町や壊れたの様子が載った。
私は覚えたばかりの文字を頼りに、名をつずつ探した。京の名を見つけるたび、以働いた敷のたちの顔が浮かんだ。
「青はどうなったのでしょう。は」
震のらせを聞いたあと、敷では本へ送る見いの品について話がた。私はきなものを用できなかったが、持っていた布でさな袋を縫った。
広告
に何を入れるかは奥様に相談し、使えるものを選んだ。
京にいるへ直接届くか分からなくても、をかしているとし落ち着いた。何もできないとってち尽くすより、できることを探したかった。
男の子は私が袋を縫うのを見て、「震は怖いの」と聞いた。私は「怖いよ。でも困っているに何ができるか考えることはできる」と答えた。自分でも、よくそんな言葉がたとう。父をくしたときは、くにいて何もできないことばかり悔やんだ。
今はくにいるからこそ、をき、確かめ、しでも助けを送るを探そうとしていた。
私は誰に尋ねればよいのか分からなかった。旅順にいるたちも、親戚やの否を確かめようとしていた。聞にている写真を何度見ても、っている敷のは見つからない。
くれた所では、配してもすぐに駆けつけられない。父のらせを受け取ったの無力さが、胸の奥でよみがえった。
故郷のから返事が届いたのは、しばらくしてからだった。きな被害はなかったとかれていた。私は何度も読み返し、字の読めないところだけをに尋ねた。自分の目で母の無事を確かめられたことが、あれほどありがたかったことはない。
もし字を覚えていなかったら、私はまた誰かが読みげてくれるのを待つしかなかっただろう。
広告
京の敷のたちの消息は、すぐには分からなかった。私は以の奉公先へをこうとしたが、宛先がそのままで届くかも分からない。帳面の隅にっている所をきし、女主に相談した。
女主は郵便の状況を確かめてからした方がよいと教えてくれた。私は便箋を折り、机の引きしにしまった。
数週、かつて緒に働いた女からい返事が届いた。族は無事で、敷もきな損傷は免れたという。私はそのを読み終えると、しばらく窓のを見つめた。自分が覚えた文字で、くのの無事をる。
たったそれだけのことが、を隔てた距をし縮めてくれた。
がづき、ペチカにを入れる季節になると、私は庭のアカシアをいした。はもう散っていたが、あのりだけは鮮やかに残っている。故郷をれたことは寂しかった。けれど旅順で過ごしたにも、私だけが覚えている景がまれていた。
いつかここをれるが来たら、何を持って帰れるのだろう。私はその答えを、まだらなかった。