"昭和62年、国鉄最後の日に駅弁を一つ売らなかった理由" 第17話
売らなかったつ
午を過ぎるころ、弁当は残りつになった。
つは改札ので売れた。買ったのは、仕事帰りらしい女性だった。掛の付を見て、し笑った。
「今の分、取っておこうかな」
「べてください。べるために作ったんですから」
女性は頷いて、弁当を鞄へしまった。
残ったつには、黄い輪ゴムを本掛けてあった。
そこへ矢島直が来た。
「おばちゃん、それ、最のつだろ。売ってくれよ」
私は首を振った。
「ごめんね。これは売れないの」
直は満そうだった。
「今で、終わりなんだろ。だったら残しても仕方ないじゃん」
そのとおりだった。だからこそ私は、何と答えたらいいか分からなかった。
「じゃ、いいよ。から別ので買うから」
直は階段をがっていった。
私は追いかけなかった。商売としては、ひどいことをしたのかもしれない。最の客に、最の弁当を売らなかったのだから。
半、良治とフミさんと美さんが駅へ来た。で箱を運び、棚の引きしを空にした。輪ゴムの束、釣り銭の皿、古い布巾。棚の奥から、に落としたらしい円玉がてきた。
「これ、誰のだろうね」
フミさんが言った。
「の客に返しにけないわね」
私は円玉を皿に置いた。売には入れず、忘れ物として駅へ預けることにした。
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岡崎駅が来たのは、片付けが終わるころだった。
「本当にお疲れさまでした」
「こちらこそ、ありがとうございました」
私はをげた。駅もくをげた。
良治が写真を取りした。フミさん、美さん、私が並ぶ。背には空になった棚と、国鉄の文字が入った古い案内板が写る。
「澄、笑えよ」
「急に言われても」
「いつも客には笑ってるじゃないか」
「客じゃないもの」
その言葉に、みんなが笑った。良治はその瞬にシャッターを切った。
駅をる、私は改札で切符を買った。
「どちらまで?」
「つ先の、川まで」
岡崎駅が議そうにした。
「帰りは?」
「折り返してきます」
私は弁当の入った袋を持ち、ホームへりた。
ここで売っていたのに、私が客として列に乗ることはめったになかった。列の刻をっていても、窓から見える町の姿はらなかった。
内はったより静かだった。仕事帰りのが聞を読み、学が居眠りをしている。私は窓際の席に座り、膝ので掛をした。
鶏めし、卵焼き、ごぼうの煮物、漬物。
作り続けた弁当だった。
べると、鶏肉はし甘くじた。駅で試するときには、炊きたてのご飯に乗せてを見る。けれど列に揺られながらべると、煮汁のがご飯に移っているのが分かる。午に作った弁当だから、まだべられる状態だったが、詰めた直とは確かに違う。
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目で、ご飯のさが気になった。
私は箸を止めた。
「こんなふうにべてもらってたのね」
さく言うと、向かいの席の女性が顔をげた。
「おいしそうですね」
「うちで作ったんです」
「まあ。駅で売ってる鶏めし?」
「今まで、売ってました」
女性は窓のを見た。
「から、何もかも変わるのかしらね」
「何もかもじゃないといます」
私は自分でも驚くほど、はっきり答えた。
川駅でり、折り返しの列を待った。駅にはさな料品と、夜でもかりのついた堂があった。森渡と同じように、ここにもの夕飯がある。
帰りの列で、私は弁当の掛の裏に鉛でいた。
《午のご飯、もうし柔らかく。鶏のはし控える。箱の角が膝に当たる》
最のに残したつは、記品にはならなかった。
私が初めて客としてべた、仕事の続きになった。
駅へ戻ると、良治が改札ので待っていた。
「どうだった」
「おいしかった。でも、直したいところがある」
「作って、まだ直すのか」
「からも作るんだもの」
良治は何も言わず、私のから空の箱を受け取った。
駅の計は、午をし回っていた。