"50万円で嫁がされた私、6年後に見た父の姿" 第1話
枚の万札と閉ざされた
1988の、え込みが厳しさを増すの夕暮れ。造平建ての実の居には、底えのする隙が絶えなく吹き込んでいた。暗い畳に置かれた季の入った座卓の真んに、い綿の呂敷に包まれた、分い方形の台が据えられていた。
その台のに鎮座しているのは、赤の結び切りの引がかけられた、ずっしりとみのあるの封筒だった。表には達な墨文字で「寿」とされ、そのには札の万円札が枚、帯封を巻かれたまま収められている。
私——藤崎千、歳というの全と引き換えに差しされた、枚の万円の束。万円の結納だった。
「これで話は決まりだ。来のには嫁入りだからな」
座卓の正面にあぐらをかいた父・正が、湯呑みの茶をずずっとすすりながら、淡な声で言い放った。官職として頑固徹にきてきた父の横顔には、娘のの事を決めたという気負いも傷も微もなかった。あるのはただ、厄介な荷を片付けたという、事務な堵のだけだった。
「お父さん……お願い、話を聞いて。私、先になりたいの」
私は擦り切れかけた畳のに両をつき、額が畳につくほどくをげた。喉の奥が引き攣れ、爪が畳のいをきつく握りしめる。
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「先週の者面談で、担任の先も言ってくれたでしょう? 今の私の成績なら、県の国学教育学部に分格できる位置にいるって。入学と授業料は全部、育英会の奨学を借りて自分で面するから。活費だって、庭教師やのアルバイトをして全部自分で賄うから……には銭も迷惑をかけないから!」
必に畳のに広げたのは、何週もかけて学の募集項や奨学制度を調べげ、ヶの収支を細かく試算した自作の計画ノートだった。切り詰めた費、古本で揃える教科代、で返済していくべき負債の試算。私のの努力と、未来へのささやかな祈りが、几帳面な青いインクの文字となって面を埋め尽くしていた。
だが、父はそのノートに線を落とすことすら拒絶した。
「馬鹿野郎が!」
突如、父の号が部の空気を切り裂いた。激しい音をてて湯呑みが座卓に叩きつけられ、茶渋の混じった渋茶が私のノートの端にねた。青いインクがじわりと滲み、輪郭を失っていく。
「女が学へって、体どうする気だ! も遊ぶとをかけて、そのはどうする? どうせ適当な男を見つけて嫁にくだけだろうが! 女の分際で学問だの自だの、へそで茶が沸くわ!」
台所のにっていた母・よし子は、濡れた布巾を握りしめたまま、うつむいて線を逸らしていた。
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父がひとたび声を荒らげれば、誰もその決定を覆すことはできない。それがこのの、昭という代が遺した絶対の掟だった。当歳だった妹の麻紀だけが、隣の部の襖の隙から、怯えた子犬のような目でこちらを伺っていた。
「佐々さんのはな、形と田の境にある古い旧だ。林も畑も広く持っていて、あそこへ嫁にけばいっぱぐれることはない。相の男の博(ひろし)さんは歳、真面目で働き者だ。向こうの親御さんも、おの写真を見て『素直で働き者そうな娘さんだ』と気に入ってくださったんだ」
「私はまだだよ……! 見ずらずのにって、会ったこともないと暮らすなんて——」
「ごたえをするな! 親の敷いたレールに従っていればいいんだ!」
父はちがり、封筒を乱暴に掴むと、内ポケットへとねじ込んだ。
「これ以、学だの何だのと寝言を抜かすなら、今すぐこのから叩きしてやる。の卒業式が終わったら、荷物をまとめてへけ」
バタンと乱暴に襖が閉められ、廊をざかる父の音が響いた。
静まり返った畳に、滲んだインクのノートと、え切った私だけが残された。
万円。
その額は、父の古い軽トラックの分の検代と、の滞納していた根の修繕費に消えるのだろう。
私のの勉も、本をした夜も、子供たちに言葉を教えたいと見た未来も、すべてあのい封筒のみのに、跡形もなく押し潰されたのだった。