"父の死後、姉に追い出された私が嫁いだ農家の秘密" 第11話
割烹個の罠
割烹『橘』の奥座敷には、が効きすぎるほど張り詰めた空気が漂っていた。 運ばれてきた豪勢な会席料理の鉢には、丹や鮑といった級材がこれ見よがしに盛られている。 マリ子姉さんは、私のグラスに烏龍茶を注ぎながら、顔に貼り付いたような営業用の笑みを浮かべた。
「美咲、しに焼けたんじゃない? でも肌に艶があるわねえ。やっぱり、おに余裕ができると内面から潤ってくるのかしら」 「そうよそうよ!」ゆか姉さんが声で相槌を打つ。 「雑誌、パート先の同僚全員に見せびらかしちゃったわよ。『これ、私の妹の旦さんなの!』って言ったら、みんな『すごい玉の輿ね!』って羨ましがっちゃって! あんなきな会社の社夫になるなんて、あんた昔から領が悪そうに見えて、実は番計算かったのねえ」
は私の返答など待たず、関銃のように輔さんの会社の話題をまくしてた。 役員報酬はいくらなのか、級は何台所しているのか、いうちにプール付きの豪邸でも建てるのか――。 にまみれて稲を世話し、農の活を守るためにをにして働く輔さんの魂など、彼女たちの目にはミリも映っていなかった。あるのは、ただ「億円」という数字に対する品な執着だけだった。
料理が盤に差し掛かった頃、マリ子姉さんが唐突に箸を置いた。
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膝元に置いてあったブランドバッグのファスナーをけ、そこから見覚えのある茶い封筒を取りす。 卓のにスーッと滑りてきたのは、あの、父がくなった直に突きつけられた類と寸分違わぬものだった。 ――【遺産分割協議】。
「美咲、単刀直入に本題に入りましょう」 マリ子姉さんの声から、先ほどまでの甘ったるいトーンが消え、徹な計算さがわになった。 「お父さんの実との件よ。所の産に査定してもらったら、駅の再発計画の余波で、更にすれば千百万円で買いがつくと分かったの。もう購入希望の買い主まで内定してるわ。あとは、あんたがこの協議に実印を押して、印鑑証を渡してくれるだけでいいの」
ゆか姉さんがを乗りし、私の元を覗き込むようにして言葉をねる。 「あんたはもう、商億の社の奥様なんだから、実の数千万円なんて端でしょ? 私たちはね、あんたとは違って々の活だけでカツカツなのよ。マリ子のところは来学学、うちだって宅ローンのボーナス払いがくて首が回らないの。妹なら、苦しい姉たちに実の分くらい譲るのが筋ってもんでしょ」
「譲るのが筋……?」 私の声が、氷のようにく座敷に落ちた。 の顔から、瞬だけ作り笑いが引き攣った。
「そうよ。あんたが相続分を全額放棄して類に判を押せば、実の解体費用を引いても、私とゆかで千百万円ずつに入るの。あんたには痛くも痒くもない額でしょ? お父さんだって国で『困っているの子たちを助けてやれ』って言ってるに決まってるわ。さあ、ペンと朱肉は持ってきたから、ここに名をきなさい」
差しされた黒りする万。 そのペン先を見つめながら、私はあの真の景をいしていた。 父の遺骨を抱えて帰った直のえ切った居。 「くてけ」「タダ飯らい」と罵倒され、つで放りされた、あの屈辱の朝を。