"父の死後、姉に追い出された私が嫁いだ農家の秘密" 第5話
決の夜と、謎の倉庫
その夜、輔さんとさんが用してくれた結婚祝いの卓は、素朴だが温かさに満ちていた。 炊きたてのいご飯に、豆腐とワカメの噌汁、塩鮭の焼き物、自製の菜漬け。 そして、私の席のには、に憐な桃のが描かれた、真しい夫婦茶碗が置かれていた。 「美咲さんが来るからって、輔とで町まで買いにったのよ」 さんの優しい笑顔に、胸がくなった。 実では常に族の残り物をめたまま掻き込んでいた私が、ここではの族として、温かいご飯を待ってもらえている。 私は聞に包んだままの父の形見の茶碗を、そっと器棚の最奥に仕い込んだ。今はまだ、この包みをける勇気がなかった。父を喪った寂しさが、再び溢れしてしまいそうだったからだ。
それから週。私は義母から薪ストーブのの起こし方や井戸の使い方を教わりながら、懸命に事をこなした。 輔さんは毎朝、のついた靴に褪せたジャンパーを羽織り、軽トラでかけていく。のは田んぼの作業がないため、平は「米の集荷の仕事」にていると聞いていた。 (千百万円の借を返すため、輔さんは会社勤めのダブルワークまでして、必に計を支えているんだ……) そうい込んだ私は、居てもってもいられなくなった。
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の夜、居で農業雑誌をめくっていた輔さんのに、私は正座をしてくをげた。 「輔さん。私、から町のハローワークにって、経理の仕事を探してきます。それに、農園の帳簿も私に任せてください」 「えっ? 急にどうしたんだ、美咲さん」 「だって、このには千百万円もの借があるんでしょう? 私の独代の貯が、百万円ほどあります。借の総額に比べたら微々たるものだけど、返済のしに使ってください。私、このにただ養ってもらうだけの居候にはなりたくないの。私も、この田んぼとを緒に守りたいんです!」
必に訴えかける私の目を、輔さんは丸く見いて凝していた。 やがて、その元が微かに緩み、困惑といおしさが混ざりったような表を浮かべた。 「美咲さん……その貯は、美咲さんが汗垂らして働いて貯めた切なおだろ。返済になんて使わなくていいんだよ」 「でも! 夫婦になったんだから、苦労を分けうのは当然です!」
頑として譲らない私を見つめ、輔さんは静かに雑誌を閉じた。 そして、かつてない真剣な面持ちで、い声で告げたのだ。
「……分かった。俺が、美咲さんにちゃんと話していなかったのが悪かった。、朝番で俺の仕事へ緒について来てほしい。見てほしい所があるんだ。
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そこで、俺のすべてを説する」
翌朝、。 厳しいがり、面の田んぼがにる、私は輔さんの運転する軽トラックの助席に揺られていた。 は農を抜け、国をへ分ほどった。 に連れてかれ、連帯保証の類にサインをさせられるのではないか――そんなが胸をよぎった瞬、軽トラックは広なアスファルトの敷へと滑り込んだ。
目のに現れたのは、学の体育館をつ並べたかのような、見げるほど巨な超型温物流倉庫だった。 敷内にはトン型トラックが何台も横付けされ、フォークリフトが唸りをげて米袋のパレットを運びしている。 建物の正面には、な属プレートの板が掲げられていた。【株式会社 実り米穀(みのりべいこく)】
「輔さん……ここ、何なの……?」 私が呆然と呟いたそのだった。 正面玄関の自ドアがき、仕ての良いスーツを着た髪交じりの紳士が、にこちらへ駆け寄ってきた。 そして、だらけの靴を履いた輔さんので、直の姿勢から、腰を直角に折ってくをげたのだ。
「代表、おはようございます! 本の全国作付け対策会議、役員・支社同、準備万端でっております!」
さらに、荷役作業をしていた作業着の男たちが斉にを止め、子を胸に当てて声を揃えた。
『宮田社! おはようございます!!』
静寂なの朝の空気に霊する、何もの咆哮。 のついた作業着のまま、軽トラの鍵をキーホルダーごと指に引っ掛けた私の夫は、ごく自然な仕で片をげ、「おう、田所専務、ご苦労様」と応じていた。
――商億円。全国拠点、取引先数百社。 赤字続きの借農と蔑まれていた私の夫の、これが誰もらなかった真実の姿だった。