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"朝八時までのヒーロー弁当" 第3話

らないもの

最の予約、浦幸が初めての軒先にった。縁の鏡にきっちり分けた髪、胸ポケットには細いペンと帳。番の列が段落するのを待ち、浦は名刺を差しした。「い、社員の昼でお世話になりました」。正夫はを拭いて名刺を受け取り、しず子は台の向こうから歩みた。

「数を減らしてでも、続けさせてもらえませんか」。しず子は何度も練習した言葉をにした。「夜勤のや、堂が混むに休憩するだけでも構いません。必なら調理も見ていただけます」。浦はしも表を変えなかった。「社員にはしい堂を使ってもらいます。提供数をまとめるためです」。その説だけなら、しず子も頷けたかもしれない。

しかし浦は続けた。「どこでどう作られているか、こちらで管理できない事を社員にして、体調を崩されても困りますから」。しず子の指がエプロンの端をつかんだ。は保健所の営業許を受け、毎必な続きをしてきた。弁当箱を洗う所も、却の順も、なりに守ってきた。それを度も確かめずに、危険なもののように言われたのがつらかった。

「面とコストの問題です。のの弁当は、もうりません」。浦は丁寧に言い切った。列のろで聞いていた翔太が歩た。

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「部、それは――」。だが正夫が顔をげ、ほんのさく首を横に振った。翔太は言葉をみ込んだ。ここで若い社員が司と論すれば、困るのは翔太自だと正夫には分かっていた。

正夫は軒先へて、くをげた。「いこと、ありがとうございました」。しず子もをげたが、顔をげると、台のからつ弁当を取った。「よかったら、お昼にどうぞ。今の分はもう詰めてありますから」。浦は瞬を伸ばしかけ、すぐに引っ込めた。「お気持ちだけ頂戴します」。そして名刺入れをしまい、のへ戻っていった。

しず子のに弁当がつ残った。翔太は「親父さん、俺が言ってやればよかった」と唇をかんだが、正夫は「おは仕事にけ」とだけ言った。堀は弁当を持ったまま、浦がった方向を見ていた。やがて始業のサイレンが鳴り、客たちはそれぞれをくぐった。いつもの朝と違ったのは、誰もので冗談を言わなかったことだった。

そのの昼、しず子は最の予約弁当を台で運んだ。受け渡し所の総務担当者は「い、本当に」と言いかけて言葉を切った。しず子は「箱は夕方、取りに来ますね」と普段通り答えた。余計なことを言えば泣いてしまいそうだったからだ。台が空になると、輪の音だけがいつもよりきく響いた。

夕方、戻ってきたアルミの箱をつずつ洗った。

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蓋の縁がへこんだ箱、底にさな傷がある箱、昔の会社名がく残った箱。正夫は乾いた布巾で拭きながら、堀の箱だけは最までご飯粒が残らないことをいした。「あの、若いころからきれいにべるね」。しず子が言うと、正夫は「働いたの飯は残せないんだろう」と答えた。

翌、の堂が業した。るい内に湯気のつ定が並び、社員たちはしい子に座って昼を取った。堂そのものが悪いわけではない。正夫も、温かい汁物をそのでめるのはいいことだとっていた。ただ、その掲示板に「品をロッカーや内に保管しないこと」というの通達が張りされた。内容はもっともだったが、朝に昼の弁当を買っていた社員は、これでを止める理由を失った。

昼、正夫は売れ残った弁当を数えた。まで予約の数にわせて作ればよかったものが、今はどれだけ売れるか分からない。個、個と残り、が暮れるころには個くになった。正夫は品を翌に回さず、廃棄の記録を帳簿にいた。しず子はその数字を見て、初めて夫に「、作る数を減らそう」と言った。

「そうだな」。正夫は答えたが、次の朝もつい以の数だけ米を量りかけた。がの習慣を覚えている。しず子がそっと計量カップを戻すと、正夫は何も言わずに米を減らした。

はそのさな作が、った以に寂しかった。

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