"忘れたコートが教えてくれたこと" 第4話
父の会社
曜の夜、私は直子さんと駅の喫茶で会った。
彼女はすでに奥の席に座っていた。紺のスーツ姿で、目のには濃い隈ができている。
「突然こんなことになって、本当に申し訳ありません」
「直子さんが謝ることではありません」
私がそう言っても、彼女は顔をげなかった。
コーヒーが運ばれてくると、直子さんは両を膝のでく握った。
「私は、会社の資繰りが苦しいこと自体はっていました」
「はい」
「ただ、ゆいさんのマンションを担保にする話は、度も経理にがっていません」
私は黙って話を聞いた。
「曜に兄から事を聞いて、どうして母と兄が私にまで隠していたのか、どうしても納得できなかったんです。それで、父がくなるの経営会議の記録を全部調べました」
直子さんは元の鞄から、古い黒いファイルを取りした。
擦れた表。
黄ばんだ。
、会社の庫に眠っていたものだと分かる。
「これ、父の字です」
かれたページには、数の付があった。
資繰りが悪化した際の対応方針。
私はずつ読んだ。
《遊休資産を先に理すること》
《事業規模の見直しを躊躇しないこと》
そしてつ目。
私は、その文字のところで目を止めた。
直子さんが静かに言った。
「兄も、母も、この内容をっています」
「……っている?」
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「はい。父がきていた頃、何度も直接聞かされています」
では、なぜ。
私はもう度、を見た。
直子さんの父親は、会社が苦しくなったのために、自分の族へ確な線引きを残していた。
幸子さんも。
博も。
その線引きをっていた。
それなのに、あの夜。
は私に向かって、
《お父さんが残した会社だから》
と言った。
私は指先をゆっくりのへ滑らせた。
つ目の方針には、はっきりとこうかれていた。
《配偶者その第者の個資産を、事業維持の提にしない》
さらに、そのに文が続いていた。
《部の犠牲なしに続できない規模であれば、縮を選ぶこと》
私はしばらく、顔をげることができなかった。
博たちは会社を守るために、父親の志に従っていたのではない。
父親が最もやるなと言っていたことを、
父親の名を使って、
私にやらせようとしていた。
「ゆいさん」
直子さんの声が震えた。
「もうつ、っていただきたいことがあります」
私は顔をげた。
直子さんは、黒いファイルとは別の資料を取りした。
そこには、会社が所すると建物の覧があった。
そして私は初めてった。
彼らが私のマンションを候補にするに、
自分たちが放せる資産が、まだいくつも残されていたことを。