みかん小説
本棚

"「祖母が危篤」と10万円を求めた夫の大嘘" 第11話

松の台所

松さんのへ夫の荷物を運んだのは、本がしばらく別居することに同した翌週だった。着替えと仕事用の鞄、古いパソコンをに積むと、幸は「こんなになかったっけ」とつぶやいた。価なや計はすでに売りにすことを決めていた。私はその言葉に答えず、の部座席に残った子ども用のタオルを畳んだ。

松さんのは、畑のが玄関まで運ばれてくるような古い平だった。台所には何も使われたきな鍋があり、窓のには洗った根が並んでいる。幸がさい頃、母親をくしたあとく暮らしたでもあった。私は初めて来たとき、松さんが「べることだけは困らせない」と言って盛りのご飯をしてくれたことを覚えている。

荷物をろすと、松さんは幸への決まりを話した。賃代わりに毎万円を入れること、仕事は続けること、事や掃除は自分でもすること。そして何より、嘘をついたりを借りたりしたら、族へ隠さず話すこと。「私はあんたの守じゃない。の男が自分でち直る所として、この部を貸すんだよ」。

夫はし満そうに「畑も伝うの?」と聞いた。「伝うなら朝だよ。嫌ならやらなくていい。ただし費は別に払ってもらう」。松さんはそう答えた。

広告

私はわず笑いそうになった。孫を叱る祖母というより、暮らしの条件をはっきり示す主のようだった。幸はしばらく考えて、「畑もやる」と言った。

松さんは幸の部に、しい鍵を付けたり携帯を取りげたりはしなかった。「閉じ込めても、は直らないからね」と言う。私はその考え方に救われた。誰かが見張っていなければ約束を守れないなら、私が再び緒に暮らしても同じことになる。幸がのとして選び直せるかどうかを、私たちは距を置いて見守るしかなかった。

帰る、松さんが台所で私にお茶をした。「あの子の父親が病気になったとき、幸はよく働いた。夜でも病院へ駆けつけたし、洗濯も事もやった。あの頃は私も、いい孫だと自していたよ」。私はうなずいた。私も同じ姿を見ていたからだ。松さんは湯のみを置き、「でも、頑張った昔の分で、今の嘘が帳消しになるわけじゃない」と続けた。

「お義父さんがくなってから、急に変わった気がするんです」。私が言うと、松さんは庭を見た。「きな役目が終わって、何をしたらいいか分からなくなったのかもしれない。けど、それは本が向きうことだよ」。私は、介護で疲れたを支えることと、庭のおを使い込まれることの境目を、初めて言葉にできた気がした。

帰宅すると、幸の靴が玄関から消えていた。空いた所を見て寂しさをじるかとったが、先にい浮かんだのは、夜に帰宅を気にしなくていいという堵だった。私は分の哺乳瓶を洗い、翌のミルクを準備した。いつもの作業なのに、の片隅で夫の嫌を考えなくて済むだけで、ずいぶん楽だった。

その夜、松さんから写真が届いた。幸が台所で器用に根を切っている。包丁を持つは慎で、まな板の横にはきさの揃わない輪切りが積まれていた。『今の夕飯は本に作らせたよ。煮えるまで責任を持つそうだ』という文を読んで、私はしだけ笑った。けれど、返事は『ありがとうございます。無理しないでください』とだけ送った。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: