"3年眠った財閥社長を叩き起こした3歳の道士" 第8話
漢方のさな名医
柳飄飄がそので警察に連されてから数が経過した。
陸グループの法務部と警察の同捜査により、あのイチゴのアイスクリームから検されたのは、ので額取引されている特殊な神経毒であることが判した。摂取すれば数分で呼吸枢が麻痺し、急性全を引き起こしてに至る極めて凶悪な毒物だった。
さらに、警察の厳しい取り調べによって、の初に起きた晏蕭の自事故のブレーキオイルが何者かによって抜かれていた件、そして事故直に陸グループの経営権を掌握しようと裏で暗躍していた派の背にも、柳飄飄とその族がく関わっていたかぬ証拠が次々と暴かれた。柳は破滅の途をたどり、関連企業は次々と宅捜索を受け、財界から完全に追放されることとなった。
しかし、騒乱が収まったも、陸の本邸には依然としてい空気が漂っていた。
「兮兮、今はどこへきたい?」
黒のラフなジャケットにを包んだ晏蕭が、玄関ホールで屈み込んでさな士に目線をわせた。すっかり父親らしい差しを向けるようになった晏蕭に対し、兮兮は相変わらずつぎはぎだらけのを着て、腕組みをしながらふんぞり返っていた。
広告
「漢方薬のへくの! 薬を買わなきゃいけないんだもん!」
「薬? 病気なら流の医師を呼べばいいだろう。なぜわざわざへく」
「陸の男坊は何も分かってないね! ひいおばあちゃん、最眠りが浅くて夜に何度も目を覚ましちゃうって言ってたでしょ! お医者さんのお薬はいから、お寄りの体には負担がきいの。兮兮が優しい薬を選んで、お茶にしてあげるんだもん!」
歳児のからたあまりにも健気な言葉に、執事やメイドたちはハンカチを目元に当ててすすり泣いた。晏蕭もまた、何も言い返せなくなり、ただ黙って娘のを軽く撫でた。
こうしては、内最の伝統漢方薬へとを運んだ。
古い造の舗が数百メートルにわたって連なるは、独特の苦と甘みを帯びた薬の気に満ちていた。軒先には無数の麻袋が並び、乾いた根や皮、干乾びた果実が積みにされている。
「わあ、いい匂い! の匂いがする!」
兮兮はいを精杯かして駆けし、軒の老舗の漢方薬のでピタリとを止めた。髪の頑固そうな主が、秤を片にこちらを怪訝そうに見ろしている。
「ちびっこ、邪魔をしちゃいけないよ。ここは子どもが遊ぶ所じゃないんだ」
「邪魔なんかしてないもん! おじさん、この麻袋に入ってるの、当帰(トウキ)でしょ? こっちのいのは茯苓(ブクリョウ)、その隣の甘い匂いがするのは甘(カンゾウ)だね!」
広告
主の細い目が、見かれた。
「……ほう。目隠しをしても当てられるかい?」
「当たりだよ! 師匠がね、薬を覚えるのは文字を覚えるより簡単だって言ってたの。匂いと気(き)の巡りをじれば、のお腹ので何眠ってたかすら全部分かるんだもん!」
兮兮は棚の最段、厳にガラスケースに収められた黒い根の塊を指差した。
「おじさん、あれは何もの?」
主は秤を置き、を乗りした。
「お嬢ちゃん、本当に目が肥えてるな……。あれはの奥くで採れた、正真正銘の物野黄耆(オウギ)だよ。りを嗅いでごらん、養殖物とはまるで違う」
「うん、すごく力い匂いがする! おじさん、その黄耆と、当帰と茯苓をそれぞれ百グラムずつちょうだい!」
付き添っていた晏蕭が、背から財布を取りそうとした。
「おい、そんな量に買ってどうする」
「ひいおばあちゃんのためだよ! 当帰は血の巡りを補って、黄耆は元気の気を補うの。茯苓はささくれったを優しく落ち着かせてくれるんだよ。わせて煎じてめば、今夜から朝までぐっすり眠れるようになるんだから!」
「……おに本当にそんな処方が分かるのか?」
「師匠にたくさん教えてもらったもん! 兮兮はお医者さんじゃないから病気を治す術はできないけど、体を元気にして悪いものを追いす養の恵なら、誰にも負けないんだからね!」
さらに兮兮は、の隅に無造作に置かれていた骨董品のような具に目を留めた。
い(しどう)を打ちで叩きして作られた、さな薬研(やくげん)と薬専用の煎じ鍋だった。
「おじさん、これまだ度も使ったことないでしょ?」
「……なぜそれが分かる? 先代が打ってそのまま蔵されていた品だが」
「使ったことがある鍋はね、何百種類もの薬の魂が染み込んで、甘くて苦いい匂いがするの。これはまだのたい匂いしかしないもん!」
主は完全に圧倒され、膝を打って嘆の声をげた。
「恐れ入ったよ! こんなさな名医に会ったのはまれて初めてだ! よし、全部で百元のところを、お嬢ちゃんの腕に免じて百元に負けてやる!」
「ありがとう、おじさん! 百元ならいね!」
兮兮は自分のポシェットから、の占いで稼いだシワシワの百元札を枚取りし、誇らしげに主ののひらへ押し付けた。
父親の財力に切頼らず、自らの識と稼いだでひいおばあちゃんのための薬を買い揃えるさな背。晏蕭はサングラスの奥で、胸が締め付けられるような誇らしさとおしさを噛みしめていた。